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メリット大の全車種販売にひそむ課題とは? 元営業マンからみたトヨタ4チャンネル廃止の功罪

 2020年5月に、全国のトヨタチャネルで全車種の統一販売がスタートした。現在も、トヨタ・トヨペット・カローラ・ネッツという4チャネルの名前は残っているが、全車種販売は実質的なチャネル制度の廃止を意味する。

 トヨタで長く続いたチャネル販売とは、一体何だったのだろうか。全チャネル全車種の販売がスタートして約2年が経過する今、専売廃止で生まれた功罪を、販売現場からの声を聞きながら考えていく。

文/佐々木亘、写真/TOYOTA

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販売チャネルは誇りであり魂だった

 日本では、多くのメーカーが販売チャネルを持っていた時代がある。それぞれのチャネルで販売車種を変え、チャネルごとに想定ユーザー層を決めた販売手法を取っていた。自動車販売におけるスタンダードが、チャネル販売だったのである。

 チャネル統合の動きは、1990年代半ばから後半にかけて大きくなった。それまでのチャネルを、一括りに統合したのがホンダ(プリモ・クリオ・ベルノ)、三菱(ギャラン・カープラザ)である。段階的に統合を進めたのは日産で、ブルーステージ(日産・日産モーター)とレッドステージ(サティオ・サニー・プリンス・チェリー)という、2チャネルに分けるかたちをとり、2007年に色分けをなくして完全統合としている。

 最後までチャネルという区分けが残っているのがトヨタだ。現在はどこのトヨタでも同じ車種を購入することができるが、2020年5月以前は、チャネルごとの専売車があり、販売車種に対して大きな制限があった。現在は販売車種への制限はないが、引き続きトヨタ・トヨペット・カローラ・ネッツという4チャネル名は使われている。

 「チャネル」というものへのこだわりは、ユーザーよりも、販売店の従業員が強く持っていると思う。

 営業マンや整備士は、「このチャネルのこのクルマに乗りたい」「このクルマを売りたい(整備したい)」という気持ちを持って、どの販売チャネルに就職するかを選んできた。チャネルによって企業の運営方針は大きく違い、社風や従業員の雰囲気なども、取り扱い車種から、ある程度想像ができたものだ。

 それぞれの従業員にとって、販売チャネルというものは、ある種の誇りであり、仕事をするうえでの魂の部分に当たると思う(愛社精神とも言うべきか)。チャネル名を分ける必要がなくなったトヨタでも、引き続き従来のチャネル名が使われている理由には、各チャネルを目指して入社した従業員の気持ちをおもんぱかっているという側面もあるのだろう。

売りやすくなった? 売れなくなった? 現場はどうみる?

トヨペット店の専売だったアルファードは、全車種併売化によって販売台数を順調に伸ばした

 実際に、すべてのお店ですべての車種を扱うようになり、販売現場はどのように変わったのだろうか。各所で営業マンが口を揃えるのは、売りやすさの向上だ。

 「顧客ニーズに合わせて、幅広い提案ができるようになった。」「世帯全体のクルマをお世話できるようになり、顧客とのつながりが強くなったと思う」と、全車種販売後の好転を語ってくれることが多かった。

 チャネルごとの専売が残っていたとき、家族内でトヨタ車を使っていても、このような弊害があった。例えば、父親がトヨタ店で購入したクラウンに乗っている家族がいる。子どもが免許を取得し、ヴィッツ(現ヤリス)を欲しがった。子どものクルマはネッツ店で購入せざるを得ない。母親がクルマを使うようになり、パッソが必要になった。パッソはカローラ店で購入する。

 長い付き合いのトヨタ店で購入するほうが安くなりそうだし手続きもスムーズなのだが、トヨタ店には子どもや母親向けのクルマが少ない。仕方なしに他チャネルを使わざるを得ないという状況だ。

 こうした状況に悩むトヨタユーザーは意外と多く、販売店では、こうしたニーズに対応しようと、県外の他チャネルを経営する販社とやり取りをして、自社では新車として取り扱えない車種を販社同士のルートで入手し、希望の顧客へ販売するという裏技も存在していたほどだ。このような裏技を使わずとも、管理顧客へ満足のいく提案ができるようになったのは、全車種販売の大きなメリットといえるだろう。

 逆に、今まで独占的に販売できていたクルマを、ライバルが取り扱うようになり、専売車種の売れ行きが落ちたという話も聞く。特に大型車種の専売が多かったトヨタ・トヨペットの両チャネルでは、販売台数は変わらずとも中型・小型車種の割合が増えた。利益車種の割合が減ることで、「痛み分け以上の弊害が生まれている」と、芳しくない経営状況を嘆く声も出てきている。

競争での排除だけでなく、販売店を守る動きも重要だ

 自動車販売店の数は増えすぎたと筆者は思う。トヨタ販売店だけで、全国には約6000もの店舗が存在する。6000店舗は、コンビニで考えるとローソンの約半分、ミニストップの約3倍の店舗数だ。

 チャネル統合や販売車種の統一は、行き過ぎた自動車販売店の店舗網を縮小するために行われる。それはメーカー主導の引き締め策でもあるだろう。不採算店舗をなくし、継続経営できるお店だけを残そうとする、生き残りをかけた戦いのスタートだ。

 「販売のトヨタ」と言わしめるほど、地場資本が運営する販社の力が、他メーカーに比べると大きかったのがトヨタだった。しかし、ここ数年でメーカーと販社の力関係は、大きくメーカーサイドに傾いている。

 均衡していた力関係が崩れ、販社が弱者になって以降、販売店を起因にした不祥事(不正車検問題など)も相次いだ。苦労を続けるトヨタ販社を、メーカーはどう見ているのだろうか。

 販売現場からのフィードバックを糧に、トヨタというメーカーが大きくなったことを考えると、こうした関係性が国内販売における最適解ではないように筆者は思う。

 営利企業として、利益や効率化を追い求め、結果として販売チャネルの統合、そして販売車種の統一という動きが活発だ。利益が上がり効率化も果たされているが、自動車販売店の果たす役割は営利以外にもあるのではないだろうか。

 メーカー主導の販売店改革は、そろそろ潮時である。ここからは、自由な競争と、地域社会との共存で、各販社が生きる道を探すほうが良い。トヨタの明るい未来は、全国各地の販売店と、手を取り合った先に見つかるはずだ。

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