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BEV開発中のソニーがホンダと協業!! 異業種メーカー参入が電気自動車市場にもたらす変化

 世界的に電動化が推進される中、各メーカーにとってBEV(バッテリー電気自動車)の役割は大きなものとなっている。一方、エンジンを持たないBEVは、参入するメーカーの垣根を下げる結果となっている。

 アップルやGoogleなどの参入がうわさされる中、先手を打って北米で開催されたCESにおいてソニーがBEVのプロトタイプを発表した。そして2022年、ソニーとホンダの協業が発表された。

 果たして、後発メーカーの参入で電気自動車マーケットはどうなるのだろうか?

文/小林敦志、写真/ソニー、HONDA、Hyndai、CES

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■市場参入は検討段階というソニーだが……

CES2022でソニーはSUVスタイルの試作BEV『VISION-S 02』を発表。同時に“Sony Mobility”という事業会社設立も発表し、市場参入への検討を表明した

 ソニーは2020年1月に開催された“CES(コンシューマ エレクトロニクス ショー)2020”にて、セダンスタイルの試作BEV(バッテリー電気自動車)“VISION(ヴィジョン)-S”を発表。さらに、CES2022ではSUVスタイルの試作BEVである“VISION-S 02”を発表した。

 CES2020でVISION-Sを発表した時は、市販は考えていないといったコメントが関係者から出ていたようだが、VISION-S 02の発表と同時に“Sony Mobility”という事業会社の設立も発表し、市場参入への検討を表明した。いまソニーの“やる気(市販)”に俄然注目が集まっている。

 “ソニーのBEV”といっても、ソニーが単独で開発しているわけではないのは、すでに各種報道からみなさんもご承知のとおり。オーストリアのマグナシュタイアという自動車メーカーが基本的な部分の開発を請け負っている。

 マグナシュタイアは自社でブランドを持っておらず、他社からの車両開発や生産を請け負っている会社。日本車ではトヨタスープラがマグナシュタイア社で生産されている。

 2022年3月4日に、ソニーとホンダはBEVの共同開発及販売を行い、モビリティ向けサービスの提供と併せて事業化していく意向を確認し、基本合意書を締結したことを、まさに電撃的に発表した。

 具体的な内容やタイムスケジュールは発表されておらず、業界関係者のなかには「ホンダのメリットが見えてこない」という声も聞かれた。筆者も第一印象としては、ソニーのBEVをホンダの生産施設で委託生産を行い、なおかつソニーのキャラクターを考えれば、販売などはオンラインで行うだろう。ホンダのディーラーネットワークを活用してアフターメンテナンスを行えればメリットはかなりある。

 だが、確かに共同開発といってもソニーはエレクトロニクスメーカーであるし、ソニーのBEVをホンダブランドとしてもOEM販売していくことぐらいしか頭に浮かばす、メリットはなかなか見えてこない。とにかく、両社の詳細な協力の進め方などを今後見守って判断していくしかないだろう。

■ソニーBEVが市場にもたらす影響

 それでは、ソニーのBEVが国内販売されたとして、その可能性についてみてみよう。BEVをメインとする、新エネルギー車の普及が目覚ましい中国では、そもそも内燃機関車の製造をメインとするメーカーも多いが、BEVのみを生産するメーカーも多い(マーケットが大きいので、とにかく多い)。

 傾向としては、既存の内燃機関メインのメーカーは、あえて新会社を設立してBEVをラインナップするケースも目立つ。“●●新能源(新能源は新エネルギーの意味)”といった感じである。分離する背景にはいろいろあるのだろうが、イメージ戦略というのもあるだろう。

 内燃機関車の延長線上にBEVがあるのではなく、“新しいもの”としてイメージを定着させたいようにも見える。もちろん、同じ自動車であるが携わるスタッフを変えることで“別もの”であることも強調できるはずだ。

 デジタルカメラが世の中に出てきた時には、フィルムカメラの形をあえて引き継いだ。しかし、いまどきの若ものはスマホでの撮影がメインなので、カメラの形をしているほうが扱いにくいとの話も聞く。

 内燃機関車からゼロエミッション車へ変わろうとする自動車も、カメラほど極端ではないが、ゼロエミッション化とともに、自動運転技術も進化していくので、いまとは異なる価値観で自動車というものが進化していくことになるだろう。

 中国では“BEVベンチャー”ともいえる新興勢力も存在感を高めている。某ドイツブランドのBEV試作車の公道テスト風景を撮影した画像をネット上で検索したことがある。

 ライバルメーカーのBEVが追走しているのだが、その1台が中国の“小鵬(シャオペン)汽車”のBEVであった。小鵬すら新興BEVブランドと呼んでいいのかと思うほど、中国では新興ブランドが数多く誕生している。

 中国政府がBEV普及を本格スタートした直後には、補助金目当てで参入してきて、ロクに生産もしないでドロンというケースも目立ったが、いまは当時よりはビジネスとして、しっかり参入してきているようだ。

 しかし、ブランドは目新しいとしても、例えば小鵬汽車の創業者は広州汽車に近い人物であったり、既存の自動車メーカーが起こした新興ブランドであったりするケースも多い。

 いろいろなケースはあるものの、マーケットの“柔軟性”というのもゼロエミッション車普及には大切なのではないかと考える。政府が新興勢力の参入を積極的に認め、その新興勢力について資金面などを中心にバックアップする環境が整っているかである。

 ただ、このような流れは中国やアメリカほどのマーケット規模がないと、なかなか難しいだろう(そもそも日本ではベンチャー企業は育ちにくい)。

 ただ、ゼロエミッション車は今後30年や40年間自動車を運転する若い層が主役の商品となる。その意味では生産面でも販売面でも、極力いままでの100年間にわたる内燃機関車業界の価値観にとらわれないような、風通しの良い環境整備というものは必要となってくるだろう。

 前述した、カメラの形をしたデジタルカメラは一眼タイプはではまだまだ主流だが、コンパクトデジタルカメラは、アメリカのホームセンターあたりではほぼ店頭で見ることはなくなっている。“内燃機関臭のより強いBEV”では、長続きしないし、若い消費者からはなかなか受け入れられないだろう。

■自動車販売の常識は通用しない?

乗用車販売で日本市場に再参入するヒョンデはBEVとFCEV(燃料電池車)をオンラインのみで販売する

 2月上旬に日本での乗用車販売再参入を発表した、韓国ヒョンデ自動車は当面日本国内ではBEVとFCEV(燃料電池車)のみをラインナップし、オンライン販売のみとしている。

 トヨタから正式デビューしたBEVとなるbZ4Xは、報道によると個人向けカーリースの“KINTO”と法人向けリースのみで取り扱うとしている。

 まだまだ新車ディーラーの店舗へ出かけ、フェイスtoフェイスで値引き交渉を行い、現金一括払いも目立つのがいまの日本の新車販売。

 しかしスマホでなんでも買えて、キャッシュレス決済が当たり前と考える若者から見れば、それだけでも自動車は“面倒くさいもの”となる。しかも所有するとなると、任意保険の加入など、さらに“ウザい”ことが多くなる。

 ヒョンデの今回の日本市場再参入は10年後などある程度長期的ヴィジョンを持ってのものと考えるので、ターゲットを絞り込んだ戦略(次世代を担う若い世代)に見える。

 そして仮にbZ4XがKINTOメインとなるならば、本格販売するBEVであるので、手元に置いてしっかりメンテナンス管理していきたいとの狙いもあるのだろうが、あえて“所有しない乗り方”に絞り込むことで若い層へのアピールを狙っているのかもしれない。一部報道では、BEVのリセールバリューに不安を覚える消費者向けの対策ともされていた。

 ゼロエミッション車は同クラス内燃機関車に比べれば価格はかなり高い。各国政府ともに補助金制度を設けて普及をはかろうとするが、中国で流行っている低価格マイクロBEVでもない限りは、補助金交付を受けても割高感を拭うことはできない。

 となると、消費者が所有して乗ることによっての普及ではスピードに弾みがつかない。

 長期的に見ればゼロエミッション車の“お得意様”となる若年層も自動車の所有などは、自分の人生の中で想定していない人も多いだろう。価格の割高感は長期的に続くものと見なければならないので、低所得者層へ向けてはコミュニティ単位でのカーシェアリングでの利用促進強化の検討も必要となってくるだろう。

 そして日進月歩で技術がまだまだ進むのがゼロエミッション車なので、一般需要は個人向けカーリース(いまどきではサブスク)メインで短期間に車両を入れ換えてもらうのが理想的だろう。買い取りで乗ることができるのは、一部富裕層に絞り込むぐらい限定的にしたほうがいいかもしれない。

 ちなみにテレビを見ていたら、ある空調会社がアフリカ某国でエアコンのサブスクリプションを行っているとのこと。高温多湿でエアコン需要は見込めるが、所得に対しエアコン価格が高く、買い取りでは普及がなかなか進まないとの判断だったようだ。

 とにかく、販売面も含めてどこまで“いままでの自動車の臭い”を消すことができるかが、ソニーのBEVについては国内で成功する鍵を握っているように見える。

■EV参入の手法はさまざま

中国で人気の宏光ミニEV。市場規模の大きい中国では日本でも知名度の高いメーカーから中国国内のみでひっそりと展開するメーカーまで多数存在する

 中国ではその市場規模もあるが、BYDや吉利(ジーリー)など世界的に展開するメーカーから、ひっそりと中国国内のみで展開するメーカーまで実に多数の自動車メーカーが存在する。しかし、そのなかのかなりの数のメーカーが自社で開発及び研究機関を持たない。

 ある年の上海モーターショー会場に一風変わったブースが存在した。完成車が1台展示されているのだが、車名プレートはおろか、車体にも車名バッジやステッカーも存在しない。

 実はこのブースは、自動車の研究開発を請け負う中国の会社のブースであり、研究開発部門を持たない完成車メーカーは、このような会社で見た目などを自社風にアレンジしてもらい、その設計データを購入して自社にて生産(委託生産もあるかも)のみを行っているのである。

 自社で研究開発部門を持たないので、結果的に車両価格が「ずいぶん安いなあ」レベルになっていたりもする。

 この上海モーターショーで見かけたときは、数年前とはいえまだまだ世界的にここまでセロエミッション車が注目されていたわけでなく、展示してあった車両も内燃機関車だったのだが、BEVなどゼロエミッション車となってもこのような動きがあるのは容易に察しがつく。

 タイ政府は2030年に国内製造される自動車の30%をゼロエミッション車とするだけでなく、国内でのゼロエミッション車普及も進めようとしている。

 その第一段階として、海外からの積極的な輸入により初期段階の普及をはかるため関税や物品税の引き下げなどを行い、第二段階としてタイ国内で生産したゼロエミッション車の国内販売を優先。そして第三段階としてタイ生産モデルの本格的な輸出を進めるとしている。

 国内普及については補助金などを導入し、内燃機関車所有者のスムーズなゼロエミッション車への移行も進めるとしている。そしてすでにタイ政府は2022年から23年にかけての具体的な補助金政策や物品税の引き下げを発表している。

 しかし、タイ政府は単にゼロエミッション車の普及だけではない計画を進めている。タイは、内燃機関車の生産についても“アジアのデトロイト”と呼ばれるほど自動車産業が盛んだが、自国の量販ブランドは持っていない。

 世界のメジャーメーカーが工場を構えて現地生産を行い、ASEAN域内またはその他地域に出荷している。タイはこの流れをゼロエミッション車について、いち早く体制を確立し、国単位での“自動車版EMS(電子機器受託製造サービス)化”を進めようとしているのである。

 例えば、世界的にも日本メーカーはゼロエミッション車への取り組みへの遅れが目立っている。その影響で国内でのゼロミッション車のラインナップが少ないこともあり、日本国内でのゼロエミッション車普及もかなり遅れている。

 その点国家単位でゼロエミッション車の製造拠点になろうとしているタイは、ゼロエミッション車に関するエンジニアも積極的に増やし、サプライチェーンもタイ国内での完結をめざすとしている。

 そのため環境は日本より整っており、日本へのゼロエミッション車の製造及び出荷拠点になるのではないかと個人的には考えている。

 ちなみに、日本国内でもゼロエミッション車の製造請負を進めようとしている企業があるとのことである。

■日本政府と企業の温度差

日本では民間に丸投げしているかのように見えるゼロエミッション車への取り組み。写真のトヨタ bZ4Xなど今後販売予定のものを含めてもBEVはまだまだ数少ない

 世界的に出遅れている日本メーカーのゼロエミッション車への取り組み。諸外国が官民一体でまさに取り組んでいるのに対し、民間丸投げにも見えるいまの日本では、“金(開発予算)”、“人(エンジニア)”、“時間”も限られた状況となっている。

 前述した中国の例のように、外部エンジニアリング会社から、設計データごと購入し、生産だけ行うといった話もリアルストーリーになりかねない。

 日本車だけの話ではない。世界的にはゼロエミッション車のラインナップの目立つ欧州ブランドだが、その多くはメルセデスベンツなど上級ブランドとなっている。

 いわゆる“大衆ブランド”では、ゼロエミッション車の存在は上級ブランドほどにはなっていない。つまり大衆ブランドに限ってみれば、日本メーカーの出遅れは多少縮まっているといってもいいだろう。

 多くの国では2030年代に本格的なゼロエミッション車の普及をめざしている。ただし、グループ内でメカニカルコンポーネントを共用したとしても、車両価格を内燃機関車なみにするのは至難の

 スピードを考えれば、グループの垣根を越えた共用化や委託企業から設計データを購入するなどするケースが増えそうにも見える。

 となれば、アライアンスグループを越えて「どこかで見たような」といったゼロエミッションモデルが街にあふれることにもなりそうだ。海外への委託生産が増えれば自国の自動車産業空洞化が顕著となる国も出かねない。

 かつて「自動車の白物家電化」といわれたことがある。この時は、自動車が洗濯機や冷蔵庫なみに、画一的で面白味に欠けるものとなったことを表現したものだが、別の意味でいま自動車の白物家電化が進もうとしている。

  街なかの家電量販店へ行けば、高機能で高価格な洗濯機や冷蔵庫は各国内家電メーカーが開発(あわよくば日本製)したものとなるが、一般的な普及価格帯の製品は、海外製造はもとより、各家電メーカーの基準をクリアしたブランドを持たない海外メーカーが用意する製品を委託生産しているケースも多いと聞く。

 先日、某所で利用したコインランドリーに置かれた、洗濯乾燥機は日本の家電メーカーの白物家電部門をルーツにしているものの、中国大手家電メーカー系の“アクア”ブランドのものであった。

 あるテレビドラマでは室内インテリアのひとつとして卓上ワインセラーが置かれていたが、中国ブランドの家電メーカーのものであった。いまや、テレビドラマでもなんの抵抗もなく日系家電メーカー以外の製品が使われている。こんなことが、近未来の自動車でも起こりかねないと筆者は考えている。

 ゼロエミッション車でも、価格転嫁のしやすい高価格上級ブランド車は自社開発となるが、一般大衆向けブランドなどについては、OEMをはじめとしたさまざまな外部委託が当たり前になるのではないかとの話もある。

 自動車産業が百年に一度の変革期にあるとされているが、これは化石燃料から電気や水素などに代わるだけではなく、産業構造自体も多く変えてしまい、いまの自動車産業の勢力図を大きく変えようとする可能性もはらんでいるのである。

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