2022年2月28日、欧州日産は「ジューク」にハイブリッドモデルを追加することを発表した。e-POWERではなく、ルノー日産が協力して開発した、新しいハイブリッドパワートレインだという。
新型「ジュークハイブリッド」とはどのようなモデルなのか。そして、日本市場への導入の可能性はあるのだろうか、考察しよう。
文/吉川賢一、写真/NISSAN
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外観もブラッシュアップされた新型「ジュークハイブリッド」
日本では、2019年末をもって生産終了となった、日産「ジューク」。欧州では、2019年9月に2代目へとモデルチェンジをしている。使用されるプラットフォームはルノー日産の次世代上級小型車向けプラットフォームの「CMF-B」だ。ルノークリオ(日本名:ルーテシア)にも使われており、実力の高さは折り紙付き。日本よりもはるかに常用スピードレンジが高い欧州向けに開発されており、車体剛性の向上や高剛性サスペンションなどにより、走行安全性と快適性、質の高い走りを狙って開発された欧州専用のモデルだ。
新型「ジュークハイブリッド」の外観は、微修正ながら、見えない部分まできちんとブラッシュアップされている。フロントドアとテールゲートに「Hybrid」バッジを装着、フロントグリルには新世代の日産ブランドロゴを装着、また冷却性能がガソリン車ほど必要ないため、開口部を縮小化したメッシュデザインのフロントグリルへ変更した。また、ハイブリッド車専用にラジエーターグリルシャッターを追加、走行状況や冷却の必要性に応じて空気抵抗を低減できるそうだ。
また、フロントリップやリアスポイラーも形状を修正、前輪前のスポイラーも形状と位置が変更されている。ちなみに、後車軸には車の下面の空気流をスムーズにするため、カバーが付けられたという。新しい2トーンカラーの17インチホイールと19インチホイールも追加した。
ハイブリッドシステムは、ルノーアルカナと同じ「E-TECH」
ジュークはこれまで、排気量1.0L直3ターボに、7速DCTもしくは6速MTの組み合わせのみだった。今回の新型ジュークハイブリッドは、欧州日産が公開したスペックから予測すると、ルノーの新型クロスオーバー「アルカナ」にも使われている、E-TECHハイブリッドと同じものだと考えられる。
エンジンには、最高出力69kW(94hp)、最大トルク148Nmを発生する日産製の1.6L直列4気筒ガソリンが採用され、そこに、日産製の最大出力36kW(49hp)、最大トルク205Nmを発生する駆動用モーターと、ルノー製の最高出力15kWを発生する高電圧スターター/ジェネレーター、インバーター、1.2kWh水冷バッテリーを供給。
ギアボックスには、ルノー製の新開発、低摩擦マルチモーダルギアボックスを組みあわせ、ドッグクラッチを使用して、4段のガソリンエンジン用ギアと2段のEV用ギアのシフトを制御する。その結果、現行のガソリンエンジン車よりも25%の出力アップと、市街地走行で最大40%、複合モードで最大20%もの燃費低減を可能にしたという。
欧州日産によると、ジュークハイブリッドはEVモードで100%始動し、EVモードでの速度は、最大で55km/hにも。これによってアーバンドライブの最大80%はカバーできるとしている。ハイブリッドモード(エンジンを回して発電する)フェーズを極力短くしており、ワンペダルドライブも装備したことで、ドライバーはまるでバッテリーEVを運転しているかのような体験を楽しめるそうだ。
ちなみに、アクセルペダルオフ時には最大0.15Gの減速度が働き、クリープ速度(~5km/h)まで減速する。そのあと完全停止をするにはフットブレーキが必要だ。
「E-TECH」は日本に適さないシステム。いっぽう欧州では?
この「E-TECH」の日本導入の可能性は、残念ながら低い。このパワートレインが、非常にぜいたくな内容になっているためだ。
日本と欧州では走行環境や速度レンジが大きく異なる。欧州では、ひとたび市街地を脱出すれば、140km/h以上で巡行する高速道路や、郊外路でも100km/h近い速度で巡行する環境が続く。日産のe-POWERのようなシリーズハイブリッドは、欧州のような環境で高速走行をすると、エンジンがかかりっぱなしの状態となってしまい、燃費が伸ばせない。市街地での燃費を伸ばし、なおかつ高速走行時での燃費を伸ばすためには、ルノーが開発したギアボックスのようなハイブリッドが重要な意味をもつようになる。
日産は日本市場の特徴を考え、「エンジン=発電機」と割り切ったe-POWERとしたことで、リーズナブルに顧客へと提供できる道を選んだ。トヨタのTHS-IIや、ホンダのe:HEVのようなシリーズ・パラレルハイブリッドも、高速走行時にはガソリンエンジン走行モードとなるのだが、それもギア比固定で採用している。超高速域での燃費改善は必要としないためだ。
日産はBセグから撤退するのでは!?
だがいっぽうでは、欧州日産はCMF-C/Dプラットフォームの新型キャシュカイや新型エクストレイルに、発電用エンジンにVCターボを採用した「e-POWERターボ」を採用すると公表している。つまりe-POWERでも、セッティング次第ではやれないわけではないということだ。
では、なぜジュークにe-POWERを採用しなかったのか。その理由は、超激戦区であるBセグメントで、日産が結果を残せていないことにあると筆者は考える。2021年のジュークの販売台数は約6.2万台、マイクラは約3.5万台だ。同じくBセグメントのルノークリオは約19万台、BセグSUVのキャプチャーは約16万台と、ルノーの3分の1程度となっている。
※参考:2021年 欧州年間販売台数
BセグSUV ニッサンジューク 6万2535台
Bセグコンパクト ニッサンマイクラ 3万6340台
Bセグコンパクト ルノークリオ(ルーテシア) 19万9889台
BセグSUV ルノーキャプチャー 16万2138台
CセグSUV ニッサンキャシュカイ 11万3276台
欧州日産は、Aセグメントに近いサイズのBセグコンパクトカーとして、バッテリーEVの新型マイクラを予告している。おそらく日産は、超激戦区のBセグメント市場からは撤退し、Aセグメントのマイクラ、そして初代キャシュカイが切り開いてくれた欧州Cセグメントで生き残ろうとしているのではないだろうか。
ジュークとしては、まさに生き残りをかけたといえる、今回のハイブリッドモデル。はたして起死回生となるか、今後の展開が楽しみだ。
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