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新型でノア/ヴォクに勝利なるか!? 元祖FFミニバン「ステップワゴン」の凋落と復活ストーリー

 2022年2月、ホンダ新型ステップワゴンが予約受注を開始した。ひと足先に販売を開始したライバルのノア/ヴォクシーに比べて売れ行きは緩やかなようだ。

 FFレイアウトで低床化して室内を広くとり、乗降性を高めたステップワゴンは多くのフォロワーを生み出すほどの人気車となったステップワゴンだが、現在はライバル車に押され気味となっている。

 ステップワゴンの人気が伸び悩んだ理由、そしてステップワゴンの今後と復活への手立てを考えてみる。

文/渡辺陽一郎、写真/HONDA、TOYOTA、ベストカー編集部

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■新型ステップワゴンの複雑な登場スケジュール

2022年2月に予約受注を開始したホンダ新型ステップワゴンAIR(左)/SPADA(右)

 新型ステップワゴンがフルモデルチェンジを受けたが、スケジュールは繁雑だ。2021年12月10日にホンダのホームページでティザーキャンペーンを開始して、2022年1月7日には、もう少し詳しいデザインと概要を公表した。

 この後、2月5日には販売店で価格を明らかにして、2月10日頃から予約受注を開始した。そして販売店によると「正式発表は5月26日で、納車を伴う発売は5月27日になる。試乗車が販売店に配車されるのも5月下旬頃」という。

 2020年3月中旬に予約受注に応じると、「納車は2022年の8月から9月」という。予約受注の開始が2022年2月上旬と早く、発売は5月27日だから、受注期間は長い。それでも納期が8月から9月なら、比較的短い期間に収まる。

 納期が短いのは良いことだが、受注が伸びていない可能性もある。同じホンダのヴェゼルは、販売店によると「e:HEVの納期は8か月から1年で、PLaYはさらに長く、今は販売を中断している」という。2021年4月に登場したヴェゼルと比べても、ステップワゴンの売れ方は穏やかだ。

■ライバルのノア&ヴォクシーは順調

ステップワゴンよりひと足早く、2022年1月に発売されたトヨタ ノア&ヴォクシー(写真はノア)

 その一方で、ステップワゴンのライバル車になるノアとヴォクシーも、2022年1月に発売された。販売店では「納期は4か月から7か月を要する。特にノアよりもヴォクシー、ノーマルエンジンよりもハイブリッドが1〜2か月長引く」とコメントした。受注は堅調に推移している。

 ステップワゴンとノア&ヴォクシーの売れ行きは、2021年の登録台数を比べても分かりやすい。ステップワゴンは3万9247台(1か月平均は3271台)であった。

 対するライバル車のノアは4万4211台(3684台)、ヴォクシーは7万85台(5840台)、エスクァイアは1万2482台(1040台)だ。この3姉妹車を合計すると12万6778台(1万564台)だから、ステップワゴンの3倍以上に達する。

 特にヴォクシーは7万台を超えており、ステップワゴンの2倍近い売れ行きだ。先代型の時点でヴォクシーとノアの売れ行きはステップワゴンを大幅に上まわり、その人気の違いが新型の売れ行きにも影響を与えている。

 これは当然だ。ミニバンは人気のカテゴリーだから、保有台数も多い。先代型が好調に売れると、保有台数も増加して、先代型から新型への乗り替え需要も増える。ヴォクシーとノアは、好調に売られて当然だ。

 それならなぜ、ステップワゴンは伸び悩むのか。ちなみに1996年に発売された初代ステップワゴンは人気車で、1997年には10万9894台(1か月平均で9158台)が登録され、2021年の2.8倍も売られていた。

■FFミニバンの元祖・ステップワゴンの停滞

1996年登場のホンダ初代ステップワゴン。FFのミニバンとして登場し、優れた乗降性と広い車内スペースで人気車となった

 初代ステップワゴンは、全高が1800mmを超えるスライドドアを備えたミニバンでは、最初の前輪駆動車だ。既存のミニバンに比べて床が大幅に低く、乗降性が優れ、室内高にも余裕があり、重心が下がるから走行安定性も良かった。

 しかも初代ステップワゴンの外観は直線基調で新鮮味があり、ウインドーの面積も広いから、車内が明るく広く見える。当時のミニバンには「幸せな家庭の象徴」というイメージがあり、ステップワゴンはそこにピッタリと当てはまった。

 2001年にフルモデルチェンジされた2代目ステップワゴンも、同年に11万台以上を登録している。初代モデルの発売直後よりも、売れ行きを伸ばした。

 ところが2005年に登場した3代目は伸び悩んだ。同年の売れ行きは9万1000台少々で、2006年には8万台以下まで下がった。

 その原因は、逆説風の表現だが、2代目よりも低床化を進めたからだ。床はさらに60mm低く、乗降用のサイドステップ(小さな階段)を取り去り、乗降性は抜群に向上した。

 低床化によって、十分な室内高を保ちながら全高を75mm下げることが可能になり、1770mmになった。天井と床を下げた結果、大幅に低重心化され、走行安定性と乗り心地も向上している。

 このように3代目ステップワゴンは、乗降性、走行安定性、乗り心地を中心に機能を大きく高めたが、前述の通り売れ行きは低迷したのだ。

 その理由は、3代目ステップワゴンの合理的なクルマ造りが、ミニバンを買う人達の好みに合わなかったことだ。

 ミニバンの購買層は、車内が広そうに見える存在感の強い立派な外観と、車内に入った時の周囲を見降ろす感覚を好む。それなのにステップワゴンは、天井と床を低く抑えたから、外観の存在感は弱く乗員の見降ろす感覚も乏しい。そのために売れ行きを下げた。

 機能的には、クルマの天井と床は、必要な最低地上高と室内高が確保されれば低いほど良い。天井と床面を高めて得られるメリットはひとつもないが、それは「売れるクルマ造り」とは必ずしも合致しない。

 2009年に登場した4代目は、3代目ステップワゴンの失敗を受けて、全高を再び1800mm以上に設定した。2010年の登録台数は8万台を超えたが、人気は長続きしなかった。

2015年登場の5代目ステップワゴン。押し出しの強さが全盛のミニバンの中にあって、あえてシンプルな仕上げで挑んだ

 2015年に発売された5代目の先代型は、1.5Lターボエンジンを搭載したが、フロントマスクはエアロ仕様のスパーダを含めて地味なデザインで登場した。開発者に理由を尋ねると「今のミニバンはどれも派手だから、ステップワゴンはスパーダを含めてシンプルに仕上げて個性を表現した」と説明した。

 それが2017年のマイナーチェンジでは、スパーダの顔立ちを派手に変更して、ハイブリッドもスパーダのみに追加した。標準ボディは放置されている。開発者に理由を尋ねると「売れなかったのでスパーダは顔を派手に変えた。標準ボディは販売不振だったので、ハイブリッドも搭載していない」と述べた。

 新型も同じことを繰り返している。開発者は「ミニバンを買うお客様の70%は、派手なオラオラ顔を好む」といいながら「ステップワゴンはシンプルな雰囲気を求める30%のお客様を対象に開発した」という。

 そこで新型ステップワゴンは、標準ボディにエア(空気のような親しみやすい存在)というグレード名を与えて、エアロ仕様のスパーダとは明確に区分した。新型ステップワゴンが「シンプルな雰囲気を求める30%のお客様を対象とする」なら、その世界観を明確に反映させた主役はエアになる。

 ところがグレード構成と装備を見ると、後方の並走車両を検知して警報するブラインドスポットインフォメーション、2列目シートのオットマン、電動式テールゲートといった人気の装備は、エアには設定されずスパーダでないと装着できない。

 これではステップワゴンの新しい世界観に共感してエアの購入を考えたユーザーも、結局はスパーダしか選べないことに気付く。そうなると「どうせエアロを買うなら、先進装備を満載したヴォクシー&ノアがイイ」と判断されてしまう。

 以上のようにステップワゴンは、初代と2代目では成功したが、2005年に登場した3代目の「良いクルマ造り」で失敗したことが切っ掛けになり、ミニバン市場に対する正確な判断力を失った。この状態が今も続いている。

■成功と失敗から導き出される「ホンダの方程式」

高級ミニバンの王者として君臨するトヨタ アルファード

 一方、トヨタは「良いクルマ造り」ではなく「売れるクルマ造り」を優先させる。この典型がアルファードだ。

 現行型はホイールベース(前輪と後輪の間隔)の拡大を含めて、プラットフォームに手を加えた。床を大幅に下げて乗降性を向上させ、低重心化することも可能だったが、それは行っていない。厚みのあるフロントマスクを備えた立派な外観、周囲の見晴らし感覚を重視したからだ。

 表現を変えると、ホンダは「良いクルマ造り=売れるクルマ造り」の成り立つ商品では成功する。この代表は往年のスポーツモデルだ。重心の低い高剛性ボディやハイパワーエンジンの搭載は、良いクルマ造りであり、なおかつ売れるクルマ造りでもあったから成功した。

 そこではホンダが得意とする提案型の商品も喜ばれた。例えば高回転域までビュンビュン回るVTECなど、ユーザーの予想を超える提案型の機能だった。

 提案型を含めて、このような分かりすい商品開発で人気を得られた時代良いが、今は難しい。ミニバンのように「良いクルマ造り」と「売れるクルマ造り」が異なるカテゴリーもあるからだ。ホンダは判断を間違えやすい。

 その意味で唯一の、そして最大の例外として成功したのが、軽自動車のN-BOXだ。初代N-BOXは、4代目ステップワゴンが売られていた2011年に登場して、売れ行きを急増させた。

 今では国内で新車として売られるホンダ車の30%以上がN-BOXで占められ、N-WGNなどを加えた軽自動車全体では50%を軽く超える。そこにコンパクトなフィット、フリード、ヴェゼルも含めると、ホンダ車全体の85%前後に達するのだ。

ホンダの新車販売の三割以上を占めるN-BOX

 N-BOXが従来のホンダ車とは対称的に市場指向を突き詰めて、大ヒットしたことで、ホンダ車の流れも変わった。

 ホンダのブランドイメージが影響を受けてダウンサイジングしており、軽自動車とコンパクトな車種だけで国内販売の85%を占める。ステップワゴンやシビックは、すべて「残りの15%」に入るから、売れ行きを伸ばすのは難しい。

 このままではステップワゴンは先代型と同様に売れ行きを低迷させ、オデッセイに続いてCR-Vやインサイトも終了すると、いよいよホンダは小さなクルマだけのメーカーになってしまう。

 「日本の市場はそれでイイ」と諦めるのか。それもひとつの行き方だが、ホンダは根本的にコストを抑えたスズキやダイハツとは違う。国内市場は採算性のきわめて悪い市場になってしまう。この結末はユーザー、販売会社、メーカーにとって不幸だろう。

 そこで現状を打破するなら、まずはステップワゴン・エアの装備を充実させることから始めたい。「残りの15%」の中で、最も売れる見込みのあるステップワゴンを伸ばすべく、SUV風のステップワゴンクロスター、スポーティなモデューロXなどを加える。

 シビックには、タイプRとEXの間に位置するRSを設定する。高回転指向の1.5Lターボエンジンにクロスレシオの6速MTを組み合わせて、電動化時代の直前だからこそ、シビックで最後の花を咲かせる。

 このような情緒的な心意気を持たないと、ホンダが今のダウンサイジングに抗するのは難しい。ホンダは、良くも悪くも、トヨタにはなれないからだ。

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