米軍普天間基地の沖縄県名護市「辺野古」地区への移設に関連して、全国的な注目を集めた沖縄県名護市長選は23日投開票が行われ、移設を事実上容認している現職の渡具知武豊氏=自民・公明推薦=が、移設反対派の新人で、玉城デニー知事らの「オール沖縄」が支援する前市議の岸本洋平氏=共産、立民、社民、社大、にぬふぁぶし、れいわ推薦=を破り、2期目を決めた。琉球新報など複数の地元メディアが同日22時過ぎ、当確を出した。
沖縄ローカルとはいえ、半年後の参院選を控える中で、今回の選挙は全国的にはどのような示唆があったと言えるのだろうか。
情勢調査では大接戦
筆者の第一印象として、現職は苦戦を強いられたものの、実は「収まるべくして収まった」結果になったとみている。筆者は先ごろ自民党が選挙戦序盤の先週末に市内で実施した情勢調査を入手した。
これによると、昨年12月中旬と1月上旬の段階では、現職が新人に1ポイント差でリードを許していた。地元の衆院3区で秋に自民が勝利した勢いを取り込めず、苦戦していたのは篠原章氏が昨日、サキシルで紹介した通りだ。新人もかつての名物市長の長男とあって知名度や地盤はあった。
そして先週末の告示前日と当日の調査で現職がやっと約1ポイント上回るものの、自公陣営はまだ勝利を確信できなかったはずだ。一般的に首長選で現職は2期目や3期目は脂が乗り始めて強いはずなのに、選挙に入った段階で接戦では現職としての強みは皆無と言えるような数字だった。(追記:24日未明までに選挙結果が確定したが、19,000対14,000でかなり開いた)
調査によると、特に自民党支持層とほぼ互角の3割強を占める無党派層の市民の支持率では、現職は3割も取れず、逆に新人がその2倍、半数以上をものにしていた。
それでも現職は情勢調査の時以上に大きく差を開けて勝った。ただ、興味深いことに年代別では「18〜29歳」「30代」「40代」の過半数が現職支持。「50代」「60代以上」が新人を支持する傾向があった。自公から見て「若高老低」の傾向は4年前の選挙戦での出口調査と同じ傾向だった。
この時、いまの現職陣営は辺野古をあえて争点化せず、景気対策やまちづくりなど経済や生活の話を中心に訴えたことが支持を集めたと言われる。
“実利” vs. “趣味” 対照的な戦い方
そして今回、名護市内の政党別支持率で自民は全国と同じく約33%もあり、約10%の立民以下を大きく引き離している。また辺野古のある名護市東部の久志地区の人口は4,000人に過ぎない。同市西部の中心街のある名護地区の3万6,000人を筆頭に、他の3地区も含めると「辺野古以外」では6万近い。
単純計算に過ぎないとはいえ、党派別支持率でもエリア別の人口でも“マーケット”としてみた場合、パイの大きさの違いは明らかだ。しかも、名護市を訪れたことがある人は知っているかもしれないが、名護地区と辺野古は山間部を挟み、隣町のような距離感がある。
そうした中で現職は今回の選挙戦でも辺野古は言及せず、コロナ対策、景気、まちづくり、医療環境の整備など手堅い戦術で、「現役世代重視」「与党支持層」に徹底ターゲッティング。ある意味「名護仕様」の選挙戦術を極大化する戦いに早くから徹したとみられる。その甲斐あってか選挙戦スタート段階で現職は、自民支持層の9割近く、公明支持層の7割をすでに固めていた。
これに対し、新人の陣営は立民や共産の支持者の大半を抑えたものの、市内で1.6%の支持率を得たれいわは支持者の4割近くが現職に流れるなど取りこぼしがあった。立民と比べれば数は大したことはないものの、れいわは一般的に現役世代の支持者が多い。名護市でもそうだとすると、「党派性より問題解決」で現職を消極的に選んだ可能性がある。
地元メディアの関係者によると、取材していた記者たちの間では中盤戦から「(新人の)岸本陣営は県外の人にウケる訴えが目立っていた。これでは渡具知氏が僅差で勝利するのでは」との評判になっていたという。つまり、辺野古問題などで中央の自民党政権の批判という「党派色」の強い運動が空回りしているとの見立てだ。
支持基盤のオール沖縄など左派勢力からすれば、参院選や知事選に向けた支持層掘り起こしのパフォーマンス(趣味)を優先するのか、本気で市政を奪還し自民党系の行政とは異なる路線(実利)を提示するのか、選択肢があったはずだが、岸本氏の選挙戦最後のツイート2本は辺野古関連にこだわった。
ドライな言い方をすれば、ニッチ市場向けのマーケティングを結局優先してしまったかもしれない。何よりコロナ禍で市民生活の切実な度合いが4年前より増す中で、どちらのニーズが多かったのか、その積み上げと票読みの精度の差を感じる。
復帰50年の「選挙イヤー」これから本番
こうした選挙戦の現象は、中央政界でいえば、「解決より対決」路線から切り替えられないまま、維新に支持率で抜かれ始めた立民の苦闘ぶりを彷彿とさせる、というのは言い過ぎだろうか。
名護市長選で自公推薦の現職が勝利をもぎ取ったことで、国と沖縄県が係争中の「辺野古」問題は基地建設へさらに前進しそうだ。夏の参院選や秋の知事選に向けた今後の沖縄政局の流れが一気に自公に傾くのだろうか。
同日に県内で投開票された南城市長選でも、保守陣営は、返り咲きを目指す前市長の古謝景春氏=自民、公明推薦=が、オール沖縄が支援する現職、瑞慶覧長敏氏=共産、立民、社民、社大、にぬふぁぶし、れいわ推薦=に競り勝った。
オール沖縄を巡っては、県内経済界の離脱が相次ぎ、昨年の衆院選でも県内4選挙区で前回全敗した自公が2議席を奪還したことで、弱体化が見込まれていたが、玉城知事のコロナ対応でその手腕が疑問視され、秋の知事選に向けて暗雲がさらに広がった。
ただ、朝日新聞の最新の世論調査ではまだ6割近い支持率を誇る一方、保守陣営では有力な対抗馬の名前が上がっていない。
局所的な現象も、全国共通の要素もそれぞれ含め、復帰50年の沖縄の選挙イヤーの見所はこれからが本番だ。
■
【更新 22:30】南城市長選の当確(琉球新報など)を反映しました。
【訂正 23:05】れいわの名護市内の支持率は13%ではなく1.6%でした。お詫びして訂正します。
【更新 24日07:00】確定票を踏まえ、一部手直ししました。