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 1960年以来となる歴史上でも、今季に向け大掛かりな改修を経たアトランタ・モータースピードウェイで、2022年のNASCARカップシリーズ第5戦『Folds of Honor QuikTrip 500』が開催された。3月20日に迎えた決勝では、20名のドライバーによる46回のリードチェンジを数える大混戦を制し、ヘンドリック・モータースポーツ“第四の男”ことウィリアム・バイロンJr.が今季初優勝を飾った。

 0.109秒差で2位チェッカーを受けたクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)は、ファイナルラップでホワイトラインカットのペナルティを受け後退し、代わって今季『台風の目』として躍進する小規模チームの新星、ロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)がクラッシュから驚異のカムバックを演じ、2戦連続の2位入賞を果たしている。

 1997年以来の再舗装を含む大改修を進めていたアトランタのスーパースピードウェイは、当局により「施設のプロファイルを変更する」というさらなる改変に着手。バンク角は24°から28°へと勾配を増し、ホームストレートのみを拡幅。それ以外のターンやバックストレッチはコース幅を縮小する形となった。

 これにより、2022年より導入の新車両規定“Next-Gen”を操るドライバー陣からは「何を期待すべきかわからない」との声も聞こえ、決勝でも「ドラフトするかどうか」「タイトパックにはならないのでは?」といった疑問符も上がり、チームとしてどのような方針でクルマを仕上げるかが勝負どころとなった。

 しかし現地金曜には無情にもトラック上にストームが襲来し、オーバル路面は完全リセットのグリーンな状態に。そこでオフィシャルは急遽、新しく再構成されたトラックでの練習時間を与えるため、予選セッションのキャンセルを決定。競技規則により前戦勝者のチェイス・ブリスコ(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)がポールスターターとなり、土曜午後に設けられた50分間のプラクティスでは、リッキー・ステンハウスJr.(JTGドアティ・レーシング/シボレー・カマロ)が最速を記録してみせた。

 各陣営とも新たなトラック特性への理解が「追いついていない」まま始まった325周の決勝では、その不穏な予測が悪い方向で的中。デイトナばりの高速トラックと化したアトランタで、速いペースの周回を重ねるトップグループから、95周目になんとチャスティンが右リヤのバーストにより、ターン1~2のウォールにヒット。145周目にはタイラー・レディック(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)が12台を巻き込み、202周目には前日プラクティス最速で、この時点のラップリーダーに立っていたステンハウスJr.が、同じく右リヤタイヤの“裏切り”に遭い4台を道連れに脱落する波乱の展開となった。

■「僕らの知らないアトランタだった」と通算3勝目をマークしたバイロン

バンク角は24°から28°へと勾配を増し、ホームストレートのみを拡幅。それ以外のターンやバックストレッチはコース幅を縮小する改修を受けたアトランタ・モータースピードウェイ
金曜夜のストーム襲来により、前戦勝者のチェイス・ブリスコ(Stewart-Haas Racing/フォード・マスタング)がポール発進に
レースは、序盤から65周で11回ものイエローコーションが発生する大荒れの展開に
カイル・ブッシュ(Joe Gibbs Racing/トヨタ・カムリ)は上位を争いながらも終盤のアクシデントで脱落。最終的にカート・ブッシュ(23XI Racing/トヨタ・カムリ)がトヨタ勢最上位の3位に

 最終的にこの日レースをスタートした全37台のうち、28台がアクシデントに巻き込まれるカオスな展開となるなか、その混乱をくぐりぬけステージ1を制していたバイロンが、残り10周時点でダレル“バッバ”ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)からリードを引き継ぐことに成功。トヨタ勢最上位に浮上したベルや、度重なるコーションでマシンリペアのロスタイムを挽回していたチャスティンらを従え、今季5戦目で5人目のウイナーに輝いた。

「この週末は本当に異なる感触で、僕らの知らないアトランタだった」と、決勝を振り返ったカップ通算3勝目のバイロン。

「正直なところ……最後の数周はババ(・ウォレス)とのギャップを管理し、前に出すぎないようにしていたよ。これは僕のスポッターの初勝利でもあるし、チーム全体に感謝したい。“Next-Gen”カーには数多くの変更点があるけれど、シボレーはそこで素晴らしかった。少しスピードウェイが入った中間的なスタイルだったけど、とても楽しかったよ」

 一方、バイロンに次いでフィニッシュラインを通過したベルだったが、彼のカムリはバックストレッチの“ダブル・ホワイトライン”を下回ったことで罰せられ、同一周回最後尾の23位に沈むリザルトとなった。

「リプレイは見ていないけど、そこにスペースがあったから(チャスティンのインに)飛び込んだ。彼が降りてきたことは知っているけど、それはいつだって“有り得る”ことさ。僕らのカムリは今日とても速かったし、1年を通じてそれを証明しなくてはならないね」

 そしてレース序盤に右リヤタイヤの暴発で「すべてを失ったと思った」チャスティンは、奇跡のカムバックを果たして2戦連続の2位を獲得した。

「この第7世代(Next-Gen)のクルマは、どこからともなくタイヤを吹き飛ばし、クルージングするだけで右後部が吹き飛び壁にヒットすることになる。あの瞬間『今日のレースは終わりだ』と感じたよ」と続けたチャスティン。

「でもクルーが驚異的な作業でトラックに戻してくれて、なんとかドライブできる状態まで仕上げてくれたんだ。シボレーは相変わらず速いし、今日は同じ仲間(シボレーに乗るバイロン)と勝負できて最高だったよ!」

 一方、NASCARエクスフェニティ・シリーズの第5戦はラスト・コーションからのスプリントで、ライアン・シーグ(RSSレーシング/フォード・マスタング)の内側にダイブしたタイ・ギブス(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・スープラ)が、ファイナルラップの逆転劇で今季2勝目を飾り、同じく第3戦となったNASCARキャンピング・ワールド・トラック・シリーズでは、19歳のチャンドラー・スミス(カイル・ブッシュ・モータースポーツ/トヨタ・タンドラTRD Pro)とのチームメイト対決を制したコーリー・ハイムがシリーズ初優勝。

 今季から2台体制を敷く服部茂章のハットリ・レーシング・エンタープライズは、16号車のタイラー・アンクラム(トヨタ・タンドラTRD Pro)が惜しくも最終周でトップ5の攻防に敗れ11位、61号車チェイス・パーディ(トヨタ・タンドラTRD Pro)は14位となっている。

145周目にはタイラー・レディック(Richard Childress Racing/シボレー・カマロ)が12台を巻き込む”ビッグワン”の引き金に
ステージ2を獲りながら、17位に終わったライアン・ブレイニー(Team Penske/フォード・マスタング)も勝者ウィリアム・バイロンJr.を祝福
NASCAR Xfinity Seriesの第5戦はタイ・ギブス(Joe Gibbs Racing/トヨタ・スープラ)が、ファイナルラップの逆転劇で今季2勝目を獲得
NASCAR Camping World Truck Seriesの第3戦はコーリー・ハイム(Kyle Busch Motorsports/トヨタ・タンドラTRD Pro)がシリーズ初優勝を飾っている