2022年3月31日限りで廃止が予定されている、都営バスの「東京 夢の下町」との愛称が付けられたS-1系統に乗りバスしたのでレポートする。廃止まで少し時を残しての乗りバスだったがどんな光景が待っているのだろうか。
文:古川智規(バスマガジン編集部)
写真;小野寺利右
ボルグレンか西工がワンチャンありか?
S-1系統の運行担当は都営バス南千住営業所だ。同系統は以前は気合を入れて日野の専用車が投入されていたが、現在はもうないので一般路線車が運用につく。同営業所の一般路線車にはフルフラットバスのスカニア・ボルグレンや、そろそろ廃車になりそうな西日本車体工業製の日産ディーゼル車が在籍している。
何が来てもおかしくないのだが、ボルグレンか西工かがワンチャンスあるかと淡い期待を胸に東京駅丸の内北口に向かった。平日は上野松坂屋前と錦糸町駅前を結んでいるが、土休日のみは東京駅丸の内北口発着の便が4往復だけある。当然ながらフル乗車するために運行日に東京駅に向かった。
運転本数が少ない路線で、本来は下町観光のための路線なのでコロナで外出自粛が要請されている中ではそんなに多くの観光客が東京駅から乗りこむとは思えず、閑散としているものと考えていた。
気が付けば大行列!
停留所には数名が並んでいたが、S-1の数分前に荒川土手行きの東43系統が出るので、こちらの乗客だろうと思っていた。確かに東43系統にも多くの乗車があったのだが、発車してみるとS-1乗車待ちの列が20名以上できていた。これは間違いなくバスファンだと確信して引き続き待つ。残るはバスの車種だ。
南千住営業所で最も多いのはいすゞエルガ、次いで三菱ふそうエアロスターだ。よってエルガが来る可能性が最も高く、4台しかないスカニア・ボルグレンや7台の西工車が来る可能性は低い。
まさかの西工まつり!
そうして錦糸町駅前からの折り返しのS-1が到着したので、遠目で見るとまぎれもなく西工車。それも古い方のP代のようだった。都営バスは導入年度順にA-Zまでの記号が付いている。
P代は平成18年度導入車で現状では最も古く、次の新車配置の際に玉突きで廃車の可能性が高いので、これはもう誰も騒いでいないが記者の中ではお祭り騒ぎだ。
東京駅のロータリーをぐるっと回ってきたのは南千住営所のP517、日産ディーゼル・西日本車体工業製のスペースランナーRAだ。そしてS-1乗車中に同型のバスをもう1台見ることになる。
ほぼ満席で発車!
S-1系統は座席をほぼ満席にして東京駅丸の内北口を発車した。乗車している人は思い思いにスマホで撮影したり、自動放送を録音したりしていた。この系統は観光需要を取り込むために設定された路線なので、日本語の他に英語、中国語、韓国語での案内放送が流れる。
特に表示はないが主要停留所しか停車しないために、沿線住民は意識せず急行バスとして利用している。日本橋三越、神田駅前に停車して須田町を出ると秋葉原界隈だ。須田町は他の路線にもあるがバス停そのものはS-1専用なので廃止後は撤去される模様。
上野松坂屋前からは生活路線!
上野松坂屋前でいくぶんの降車があったものの、毎時1-2本は運転される区間のために、買い物客等の乗車が多く立席が出る。上野公園山下に停車し、上野駅前には停車せず菊屋橋、浅草一丁目と並行路線の停留所をバシバシ飛ばしていく。
浅草一丁目付近で上野松坂屋前止まりのS-1系統とすれ違ったのだが、このバスがまたまた西工車(P519)で、もはや西工まつりというよりも南千住営業所のサービスなのではないだろうかと思わせる運用で、心中穏やかではなかった。
浅草雷門でも乗客の入れ替わりがあり、リバーピア吾妻橋前、とうきょうスカイツリー駅入口、押上と鉄道駅や観光地に接続し、終点の錦糸町駅前に到着した。
電車なら8分157円!
東京駅から錦糸町駅まではJR総武快速線に乗車すれば3駅で8分、IC乗車券だと157円で到着する。そのため通常は通しで乗車する人はほとんどいないのだろうが、この日は多くのファンと思しき人の多くが約50分かかるS-1系統に通しで乗車していた。
下車後も名残推しそうに写真を撮影していたが、すぐに回送でロータリー内の待機所に回ることは分かっていたので、そちらから撮影もした。運転士が気を利かせてくれたのかどうかは知る由もないが、前面LED表示器は「S-1 錦糸町駅前」のまま停車してくれていた。
惜別!S-1系統
本来の目的としての下町観光需要を取り込むことが難しくなった現状では仕方がないとはいえ、沿線の鉄道がない地域の住民にとっては貴重な急行路線だっただろうS-1系統が配されるのは惜しい限りだ。
東京駅へもっと本数が多ければ、新幹線から近い八重洲発着ならば、歩行者天国による迂回運転があったものの秋葉原や末広町に停車していれば、と思うことはいろいろあるが、いつの日か復活してまた元気な急行運転を見せてほしいと願いつつ錦糸町をあとにした。
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