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東京・渋谷区内の小中学校近くの路上や区役所前などで、学生団体「日本自治委員会」がデモ活動を行い、区や学校側とトラブルになっている問題で、区は19日、東京地裁に対し、学校周辺や区役所周辺でのデモ差し止めを求める仮処分申請を行う方針を固めた。週明けにも申請を行う。

デモを巡っては、区立小学校PTA連合会が15日、区に要望書を提出し、児童に「極めて悪影響を及ぼしている」として対処を要請していた

区はこれを受け、16日に「法的な措置も視野に、毅然として対応する」と明言していた。デモ活動の停止を求める仮処分は、排外主義的なデモ活動に対し、朝鮮学校の関係者や在日コリアンの男性が申し立てて認められたケースはあるが、自治体による申請は異例だ。

渋谷区役所(画像:エンリケ/Photo AC)

保護者が激怒、区は法的措置へ

複数の関係者によると、区側の動きは早く、要望書が提出された直後に地裁に一度申請を行った。しかし、団体側がこのタイミングで代表者を交代したことが判明し、地裁との協議で代表者の名義変更などの修正をしているようだ。週明けにも地裁に改めて提出する。

このデモは、渋谷区の五十嵐俊子教育長が、前職の町田市立小学校校長だった2020年11月、小学6年の女子児童が自殺したことへの対応をめぐり、団体側が抗議。長谷部健区長の任命責任を含めて追及しているが、区長は選任にあたり慎重な確認作業を行い、五十嵐氏からも十分な説明を受けたとして人事に問題はなかったとの立場だ。

また、ここにきて女児の残した遺書の内容や、町田市教委が設置した「いじめ問題対策委員会」の調査から「いじめ以外にも原因があった可能性」(委員会報告書)が浮上。いじめ問題でヒートアップしていたメディアの動きも沈静化する中、団体側はなおも“徹底抗戦”してきた。

渋谷区や関係者によると、同団体は昨年の9月頃から、区立小中学校前や長谷部区長の自宅前などの路上でビラ配りなどの活動を敢行。学校前のデモは、登下校時間に合わせ、今年1月末までに少なくとも50回以上にのぼったことが確認されている。

区は16日に出した声明文で、「ある小学校では、運動会の日に、保護者が抗議したにも関わらず街宣活動が続けられ、子どもたちの楽しい思い出に水を差される事態となりました」と指摘、現場では小競り合いが続いていたことがうかがえる。異常事態が約5か月続いてきたが、区は保護者側からの実害訴えを受け、法的措置に踏み出す決断をしたとみられる。

※画像はイメージです(sibway /iStock)

異例の仮処分申請どうなる

自治体によるデモ差し止め申請は異例だが、2009年に京都朝鮮学校が、デモ団体に「スパイの子ども」などと街宣されたことから、学校周辺での活動を禁じる仮処分を申請し、京都地裁が認めたケースや、2016年には、川崎市内の在日コリアンが居住する地域で、差別的な言動のデモ活動停止を求め、地元の社会福祉法人の理事長が仮処分を申請し、横浜地裁川崎支部が周辺500㍍でのデモ禁止を命じた先例などがある。

渋谷でデモを行う「日本自治委員会」はこれまでウェブサイト上で「表現の自由を侵害することは許されない」と主張している。

一方、川崎のデモを禁止した仮処分決定では、排外主義的な言動というデモの特殊性から「憲法の定める集会や表現の自由の保障の範囲外であることは明らかであって、私法上も権利の濫用」と指摘した側面もあるものの、申し立てた理事長が平穏に生活する人格権の侵害や、人格権に基づく妨害予防を請求する権利があることも認定した。

学校や教育行政の問題を訴える渋谷のデモは、川崎や京都のケースと異なり、デモ側の表現の自由と、学校関係者の人格権、児童の学習権が主な争点となり、裁判所が判断を下すことになることが予想される。

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