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【編集部より】「自衛隊(防衛大)→大手通信社記者→ITベンチャー人事→フリーランス」と、異色とも言えるキャリアを積んできた松田小牧さん。働く女性たちのキャリアを聞き続け、人材業界にも携わってきた松田さんが、キャリアチェンジへの苦労やこの間の気づき、そして見出した「活路」を語ります。

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一見、一貫性のない転職を繰り返しているようにも見える筆者。それぞれ離職の理由があり、自分の選択に後悔はないが、順風満帆にキャリアチェンジし続けてきた、というわけでもない。

特に筆者の前に大きく立ちふさがったのが、「地域」「スキル」「年齢」「育児」の4つの壁だ。なお、筆者自身にあまり当てはまらなかったため今回は説明を省くが、一般的に転職を阻む要因としてはほかにも、「大黒柱」「学歴」といった名の壁もある。

「地域の壁」東京と地方の格差

第一子出産後、東京を離れ夫のいる仙台で職を探すことにした筆者がまず感じたのは、顕著なまでの求人数の差だった。たとえば、転職支援実績NO.1を謳う転職サイトをみてみると、勤務地が「東京」の求人は7万4000件を超えるが、「宮城」では2800件に満たない(2022年2月現在)。生かせるスキルが「文章力」では、マッチする求人も少ない。

賃金にも格差がある。賃金基本統計調査によると2020年度の東京の平均賃金が37万3600円なのに対し、宮城では28万1900円。物価の高さも違うが、おしなべて地方は賃金が低い。加えて筆者は「記者から人事」という未経験での転職を選んだため、賃金は大幅に下がった。夫がいなければ、もしくは自分が大黒柱であればまず取らなかった選択肢だろう。

次に夫の異動に伴い居を構えた兵庫でも、同サイト内の求人数は約5000件、平均賃金は30万1500円。宮城よりは増えたとはいえ、東京とは比べるべくもない。夫の異動先が東京であれば、ひょっとしたら正社員の道を選んでいたかもしれない、とも思う。

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「スキルの壁」ポータブルスキル不足

次に直面したのが、自身のポータブルスキルの乏しさだ。自衛隊も記者も、極めて汎用性が乏しい職種と言わざるを得ない。おまけに生産性やコストの概念もあまり持ち合わせない。ただ給与はそれなりに高いので、同水準の給与を別の仕事に望んでもなかなか難しい。どちらも体力と根性はつくが、それがアピールポイントとして通用するのはかなり若手のうちか、何よりも行動量が求められる営業職くらいなものだろう。

この2職種でキャリアチェンジに成功した人を見ると、「英語ができる」「企画・発信力が飛び抜けている」など、何らかのスキルを持っている人が多い。筆者で言えば人事の仕事はまだ汎用性があるが、経験を強みとするには勤務期間が短すぎた。自分の持っているスキルがほかの仕事で活かせず、かついずれは業界をまたいだ転職を視野に入れているならば、もっと危機感を持ち、現職のうちに他の会社でも通用するスキルを身に着けておかねばならなかったのだ。

「年齢の壁」35歳転職限界説は本当か

フリーランスになると決断する前、いくつか正社員の求人も探してはみた。しかし、30半ばという年齢とスキル、経験を顧みたとき、企業が求めるレベルのものを提供できないことを痛感した。

転職をめぐっては、35歳を迎えると転職が難しくなる「35歳転職限界説」がまことしやかに囁かれている。人材業界に携わっている身からすると、これはある部分では事実、ある部分では嘘だ。確かに、中途社員の求人ターゲットを「35歳以下」に定めている会社は多い。

なぜ35歳までなのか。企業の人事に聞いてみると「チームリーダーが30半ばなので、リーダーより歳下の方がいい」「年齢が高くなると組織になじむのに時間がかかる」「歳を取ると成長スピードが鈍化する」などと話す。

しかし、これはあくまでメンバークラスでの転職の話だ。スキルを生かした転職に年齢は関係ない。40歳でも50歳でも決まる人は決まる。転職先が見つからないことを年齢のせいにしすぎてもよくないだろう。

「育児の壁」“夫婦で育児”は現実的か

筆者が記者を辞めた直接的な理由は第一子の出産だった。妊娠発覚時に担当していた「首相番」と呼ばれる職務は持ち回りと言えど、基本勤務時間は7時半~24時。夫とは離れ離れ、実家も遠い。とても満足のいく仕事と子育てを両立できる自信が持てなかった。

このような状況で時折投げかけられるのが、「夫も育児を分担すべき」「親に頼ればいい」「そうなるって分かって結婚したんでしょ」というもの。いずれも一定の説得力があるようにも思えるが、実のところかなり空虚な言葉だ。

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そもそも、日本人男性の平均労働時間はOECD諸国の中で一番長い。子育てをする男性への理解や応援は一定得られるようになってきたが、それでも肩身の狭さやライバルと比べ成果を出せなくなることに焦りを感じる男性は多い。子育てのために夫婦とも残業をしないとなれば、夫婦双方の給与が下がることも大いに考えられる。「家事育児は女性がするもの」という価値観も根深い。

核家族化、晩婚化、就労の長期化、地域社会のつながりの希薄化などが進行した結果、子育てを誰にも頼れない家庭も多い。結果、「じゃあ妻である私が家事育児はメインで担当するよ」との結論になってしまうのはある種当然とも言える。それでも日本には、「自己責任論」がはびこる。女性の選択肢が増えたからこそ、「探そうと思えば家事育児を担ってくれる男性も探せたはずなのに、そうしなかった」などと責められるのだ。

企業の人事と話していると、「中途入社の時短希望は不可」と条件をつける会社は多い。なんなら、「20~30代の既婚の女性は子どもを生む可能性があるので雇わない」という会社すら1社や2社ではない。男女雇用機会均等法により求人票には表記できない条件だが、実際の運用は法律とはかけ離れたところにある。

本来すべきは、女性ばかりに育児の責を負わすのではなく、「家事育児は両親が同じ責任を持って行うもの」という意識の醸成とそれが可能となる社会づくりのはずだ。

リモートワークという活路

これらの壁を感じた結果、筆者が選んだのが「フリーランス」という道だった。この選択に踏み切らせたのには、新型コロナウイルスによる数少ない正の影響がある。リモートOKの仕事の件数が格段に増えたのだ。特に、私が培ってきたライティングスキルはリモートワークとは相性がよい。スキルや性格、やりたいことを考えたときにフリーランスが最善の道だと判断した。

近年のキャリア論では、キャリアはめまぐるしく変化する環境に合わせ、自律的に形成していくべきものだと叫ばれている。入社した企業で定年を迎えるのもよいが、そうでない人生を否定する理由はない。

人生には、予期していなかったハプニングがつきもの。ハプニングをチャンスに変えるのは、自分次第だ。