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[F1情報]メルセデスW13は本当に速いのか? ゼロサイドポッドの効果を中心に各チームを検証してみた

 2022年、F1の全く新しいシーズンの幕が開いた。テストは僅か6日間、バルセロナでの3日間とこのバーレーンでの3日間だけだから、各チーム必死にデータ収集に明け暮れていた。特に注目されたのはもちろんレッドブルとメルセデス、そして復活を予感させるフェラーリの3チーム。その中でメルセデスが持ち込んだ、ゼロサイドポッドにモデファイしたW13は本当に速いのか? 元F1メカニックの津川哲夫氏が解説する。

文/津川哲夫、写真/Ferrari,Mercedes,Redbull,McLaren,Aston Martin,Ferrari,Williams

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レッドブルRB18の仕上がりがいい。メルセデスW13は三味線を弾いてる?

 特にレッドブルが頭ひとつ抜け出ているのだが、もちろんこれはテスト結果だけの事、本番になれば話が違ってくるのは毎年のことだ。しかし、レッドブル、フェラーリ、メルセデスの3チームだけではなく、今シーズンはどのチームも確実にレベルアップし差を縮めてきた感がある。

 さすがに今シーズンのレギュレーションが、長い時間をかけてF1とFIA、そして各チームによって吟味されてきただけのことはある。テスト中各チームとも盛んにエアロ干渉のテストを行っていた。つまりエアロ新規則の狙いである接近戦の向上がどこまであるのか、先行車と後走車の車間やエアロ干渉の大小等をソフトなバトル状況を作ってテストを繰り返していた。テスト中に疑似バトルが演出されることはこれまであまりなかったことだ。

衝撃的だったゼロポッドにモデファイしたメルセデスW13

 面白いのは予定通り各チームともに、バルセロナ型とバーレーンテスト型に違いが出てきた事だが、中でもメルセデスW13の激変は衝撃的だ。

 バルセロナでは比較的オーソドックスで、昨年からのエアロコンセプトを継承してきたと思えたのだが、バーレーンに持ち込まれたのは過激なエアロへのアプローチを試みた不思議なマシンになっていた。

 W13バーレーンテスト仕様は、一般メディア的に“ゼロ・サイドポッド”と称された様に、コクピットの両サイドにはみ出た通常の凸型サイドポッド形状をしていない。モノコックに貼り付く形で密着するようにその断面は裾野の広がるコニーデ型、両サイドに大きな空間を設けて後方へと空気流を送る形になっている。

メルセデスW13のゼロサイドポッド。できるだけ多くのエアを後ろに流すことでダウンフォースを生み出す。理論的にかなり有効とのことだが……

 もっともコクピットにへばりつくようにエントリーダクトが設けられていて、形状こそサイドポッドを持たないが内部機構はしっかりとサイドポッドの役割を果たしている。

 ただしこの形状が正解かどうか、あるいは本戦にこのまま現れるかどうかは未だ不明だ。実際テストではポッド内部のインターナルエアロの流路、流量等の数多くのオプションがテストされていて、これが単に各オプションの基本データ収集なのか、それともエアーフローの動線に答えが見つからないのか……これまた本番を待たねばその答えは出てこない。

 結果的にこのバージョンでのテストは、このバーレーンの3日間だけ。つまりシェイクダウンであり、バルセロナでの3日間のテストが別物になってしまい、6日間連続的なテストにはならず、レッドブル等のライバルに3日間の遅れが出ている感じは否めない。もちろん開幕戦にはしっかりと辻褄を合わせてくるのがメルセデスだが、若干の危惧が無いわけではないのだ。

レッドブルRB18は順調にアップデート。トップエンドを争うポテンシャル

メルセデスの過激なアプローチと違い、基本を崩さず。順調な仕上がりのレッドブルRB18

 レッドブルの一貫したアップデートは好調で、エアロとサスペンションによるメカニカルとのコラボがかなり一体化してきており、最終日の走りは圧巻ですらあった。メルセデスの過激なアプローチと違い、基本を崩さず、メカニカルな車体制御でエアロの効率を高める狙いはこれまで通りのコンセプトで、これを新規則上で磨き上げてきた。

 今シーズンもレッドブルはトップエンドを争う事は間違いなさそうだ。

フェラーリー好調。昨年最下位のハースも速さを見せていた

 さらに面白いのがフェラーリだ。F1-75はバルセロナテストから一貫して好調さを誇示、久々にフェラーリ復活の機運が高まってきた。F1-75は他の多くのチームとはエアロコンセプトで一戦を画す。

フェラーリF175 テストではポーポシングに悩まされていたが問題なさそうだ

 メルセデスとウィリアムズを頂点に、ボディワークの極端なコンパクト化でバックエンドエアロ(後方空気流)の効率向上を徹底した型。そしてレッドブルやアルファタウリ、アルピーヌなどの中間的ローバックダウンのサイドポッドと後方の絞り込みで、ポッド側面下部のアンダーカットを利用した従来型の継承組とにエアロコンセプトをグループ分けできるのだが、フェラーリはさらに後方に延びる大型のサイドポッドを採用。そのポッド上面をある種のデッキ化して上面の空気流を重視してリアウィングへと導くスタイルを選んでいる。これはアストンマーチン、アルファロメオ、ハースなども似た方向を向いている。

 2022年のクルマはこの3つのグループに分けられるのだが、6日間のテストではどれが正解なのかは全く見当もつかない。事実フェラーリも速いのだから。

 加えて中堅組のアルファタウリやアストンマーチンが安定して速く、トラブルはあったものの、マクラーレンもウィリアムズもそしてハースもポテンシャルの高さを垣間見せていた。

今シーズンは下克上の予感。F1戦国時代の幕開けか?

 また今シーズンから厳格化されているバジェットキャップは、資金を湯水の様に使ってきたビッグチームを苦しめるに違いない。人件費の削減は優秀なスタッフの放出にも繋がり、各チームに分散し始めている。つまり小型チームの人材が充実してきているのだ。これもチーム格差の縮小に役立ってくる。

 そう考えると今シーズン、勢力図に大きな下克上があったとしても不思議はない。群雄割拠たるF1グランプリ、戦国時代の幕開け……を大いに期待したいところだ。

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津川哲夫
 1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
 1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
 F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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