世界的な電動化の動きの中で、国内外の自動車メーカーのBEV(バッテリー電気自動車)のラインナップが整いつつある。大容量のリチウムイオンバッテリーをはじめとして高価な部品が多いこともあり、BEVのコストはどうしても高くなってしまう。
そこでクリーンでプレミアムなイメージを利用した、高価なモデルなども登場している。しかし、台数を増やすには普及価格帯のモデルがどうしても必要である。もちろんインフラの整備も重要だ。
大きな節目となりそうな2030年代に向けて、最新のメーカー製BEVのラインナップを確認してみよう。
文/塩見 智、写真/ベストカー編集部
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■意外な購買理由から問題点が浮かぶ
つい最近ラインアップにPHVを加えたスーパーラグジュアリーブランドの中の人。冗談半分、口元は笑っているけど目元は笑っていないくらいの表情で言う。
「我先にオーダーするという感じではありませんが、うちの顧客は皆さんPHVやEVに関心をおもちですよ。“うちには充電設備が整ったガレージがある”とアピールできるわけですから」。
なるほど、EVは自動車業界における最新のマウンティングアイテムということか。
古今東西、見られることを意識してクルマを選んできた富裕層は、かつては車体が大きく立派で、大排気量の速いクルマを好んだ。
今もその傾向は残るが、一方でいつからか、ハイブリッド車をはじめとするエコカーも好まれるようになってきた。ハリウッドセレブがこぞって2003年に登場した2代目プリウスで人前に現れたのが懐かしい。
エコカー=ハイブリッド車の時代には、彼らは環境保護への意識が高いことをアピールできるという理由でエコカーを選んだ。時は流れ、技術の進化によってPHV、EVとプラグインタイプのエコカーが増えた。
それらは意識の高さ、新しいモノへの敏感さをアピールできるとともに、充電可能なガレージ付きの家に住んでいることを、走行しながらアピールできるという新たなマウンティング要素が加わったという見方も、できないわけではない。
実際、ここ数年、私は自分のクルマをPHVかEVにしたくてたまらないが、集合住宅に備わる駐車場で充電できないため、購入に至っていない。見栄を張るわけではないが、一昨年購入したクルマよりも安いPHV、EVも存在する。
頑張ればクルマ自体は買えるのだ。けれどもプラグイン電動車の真価とも言える、夜間に自宅で充電するガレージ付きの戸建てや集合住宅を手に入れるのは、少なくとも今すぐには難しい。悔しい。こういう人は都市部を中心に少なくないはずだ。
自宅で充電できなくても、PHVならハイブリッド車のように給油を中心に使うこともできるが、毎朝、一日の平均走行距離分の電力が充電されている状態で出発できるという本質的な性能を享受できない。
それならハイブリッド車でいいということになる。また大容量バッテリーを積むEVなら、街なかの急速充電器を頼りにEVライフを送るのも不可能ではないが、いくら航続距離が長くても、充電したい時に充電できるだろうかという不安は付きまとう。iPhoneだって、自宅や勤務先以外でしか充電できないことを想像すると不安だ。
■EVを買う人は自宅で充電できる人!?
世界初の量産EVである三菱i-MiEVと日産リーフは、いずれも世界に先駆けて2010年に発売された。しかしあまり売れなかった。クルマの良し悪し以前に自宅で充電できる人しか検討しなかったからだろう。
だからその後に登場したPHVやEV、とりわけEVの多くが、自宅に充電環境を確保できる富裕層をターゲットにした高価格のモデルが中心だったのは自然なことだ。
テスラモデルSが2012年発売(日本は2013年)と図抜けて早く、その5~6年後にジャガー I-Pace、メルセデスベンツEQC、アウディe-tron、ポルシェ タイカンが続いた。
最近発売されたBMW iXも富裕層向けEVの一台だ。巨大なキドニーグリル(穴は開いていない)によってBMWであることは一目瞭然。水平のリアコンビランプは初期の携帯電話の顔文字のようで面白い。
上級の50は前車軸に最高出力258ps、最大トルク365Nmの、後車軸に同313ps、最大トルク400Nmのモーターを備え、システム全体で同523ps、同765Nmを発揮する。
これだけのハイパワーモーターが前後に組み込まれ、四輪を駆動するのだから遅いわけがなく、車両重量2530kgをものともせず、0-100km/h加速4.6秒。ワープのように発進する。
もちろんマイルドに踏めばマイルドに加速する。走行フィールはなめらかそのもの。アクセルペダルを戻せば強い減速が得られる。エアサス特有の当たりの柔らかい乗り心地は快適。EVならではの高い静粛性と相まって、おしゃれなリビングルームでくつろぎながら移動しているような感覚に包まれる。
バッテリーの総電力量は111.5kWhと市販車として最大級だ。一充電走行距離は650km(WLTCモード)。車両側は最大出力150kWでの急速充電に対応する。これなら残量がなくなった状態からでも40分で80%まで回復させられ、約500km走行できる。
ただ残念ながらそこまでの性能をもつ充電器が日本にはまだない。次世代型CHAdeMOが普及した暁には真価を発揮するだろう。
ユニークなのは、静粛性を活かして音で遊んでいること。スタートボタンを押した時の効果音やドライブモードごとに変わるアクセル操作と連動したサウンドが実に凝っているのだ。
サウンドを手掛けたのは数々の映画音楽を手掛けるハンス・ジマー。道理でカッコいいわけだ。昨年の映画『007ノータイム・トゥ・ダイ』のクライマックスでは、彼の音楽に泣かされた。
はっきり言えば、EVはすべからく十分なパワーがあって加減速はスムーズ、低重心でハンドリングも良好なため、走る、曲がる、止まるといった基本性能で差別化を図りにくい。EVはユニークなデザインとサウンドで遊ぶiXのように、これまでになかった付加価値による競争になってくるのだろう。
■EVを実用車として普及させるためには
1000万円級ラグジュアリーEVの発売ラッシュに続き、ここへきて500万〜1000万円級EVの発売が相次いでいる。
プジョーe208、e2008、シトロエンe-C4、DS3クロスバックE-TENSE、ボルボC40、ホンダe、マツダMX-30EV、メルセデス・ベンツEQA、BMW i4、iX3、レクサスUX300e、トヨタbZ4Xとスバル・ソルテラ……。
ちなみにやっぱりこれらが発売された数年前にテスラモデル3が発売され、ダントツの累計販売台数を誇る。何事も早すぎるがゆえに波紋を広げがちなテスラだが、EVの先鞭をつけた存在であるのは間違いない。
EVには1000万円を堺にその上と下に商品群が形成されつつあるが、アンダー1000万円といってもほとんどは500万円以上のため、EV全体が自宅に充電環境を整えられる層向けのマウンティングアイテムとしての側面は相変わらずだ。
まもなくフィアットが500ベースのEV、500eを発売し、日産、三菱も今年のどこかで新型のEV軽を発売する。500eは400万円以下、日産三菱の軽EVは300万円以下であることが予想される。
しかし車体が小さく価格が安いとなると、確実にバッテリー容量は小さく、航続距離は短い。そうなると余計に自宅充電が基本となる。だからEVは車両価格が安くても、やっぱりマウンティングアイテムとしての性格は帯びたままだろう。
EVが真に実用車として普及するのに必要なのは、車両価格が下がることや車種が増えることではなく、街なかに充電環境が整うことだ。
車種が増えないとユーザーが増えないから充電器も増えないというジレンマはあるが、EVを増やしたいのはメーカーやユーザーではなく政府だということを考えると、民間よりも行政が努力して環境を整えるべきだ。
i-MiEVや初代リーフが登場した2010年頃に全国に数百台しかなかった急速充電器は、現在は8000台弱存在する。そして政府は2030年までに3万基を設置する目標を掲げている。
何基あれば十分なのか明言できないが、とにかく街なかのいたるところにあって、買い物や食事のついでに短時間の充電を繰り返すことができるようになれば、EVはマウンティングアイテムに留まらず、便利で快適な乗り物になるはず。そうなったら私も引っ越さないでもEVを買える!
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