新規投入されたクルマの名前を見ると、既存の人気車の名称を頭に付けていることがある。2021年に発売された新型車であれば、カローラクロスやワゴンRスマイルなどが思い浮かぶ。
なぜ既存の車名を付けるのか? 商品企画担当者に尋ねると、理由はさまざまだ。
カローラクロスは「時代のニーズに応えるため、カローラのプラスαの思想でSUVを開発した。そこでカローラの車名を冠した」という。
今までにもカローラは、カローラクーペ、ミニバンのカローラスパシオ、4ドアクーペ風のカローラセレスなど、時代に応じて多彩なバリエーションを用意してきた。カローラクロスもその流れに沿っている。
ワゴンRスマイルについては「ワゴンRのお客様にリサーチしたところ、40%の方が、スライドドアが欲しいと返答された」という。
カローラクロスはカローラ、ワゴンRスマイルはワゴンRの派生車種だが、売れ行きは「本家」を上まわるほど好調だ。ここでは派生車種が人気を高めた理由を探ってみたい。
文/渡辺陽一郎、写真/トヨタ、スズキ
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■トヨタ カローラクロス
カローラクロスは2021年9月に発売されたコンパクトSUVで、売れ行きは好調だ。2021年11月には7300台、12月には6290台を登録した。
カローラシリーズ全体に占めるカローラクロスの比率は、11月が54%、12月も53%に達する。かつて主力だったカローラセダンは、11月が650台、12月は600台だ。カローラクロスの9%しか売られていない。
人気車とされるワゴンのカローラツーリングも、カローラクロスの35%前後に留まる。今のカローラシリーズでは、カローラクロスの売れ行きが圧倒的に多い。
カローラクロスが好調な一番の理由は、SUVの人気が高いからだ。しかもカローラクロスは、RAV4やハリアーよりはコンパクトで、ライズやヤリスクロスに比べると大きい。
中間的なちょうど良いサイズになる。最近は同程度の大きさのC-HRが伸び悩んでいることもあり、カローラクロスが好調に売られている。
そしてカローラクロスの商品的な魅力は、外観がSUVの典型になることだ。今はSUVのカテゴリーが高い人気を得ているので、典型的なデザインの車種が好まれる。
このボディスタイルは実用性も優れている。天井を少し高く設定して、全長も4490mmとコンパクトSUVでは長いため、後席や荷室の広さに余裕がある。ファミリーユーザーから厚い支持を得た。
価格も求めやすい。1.8Lノーマルエンジンを搭載する中級の2WD・Sは240万円、ハイブリッドの2WD・Sも価格アップを35万円に抑えて275万円としている。
割安な価格の背景には、2つの理由がある。1つ目はライバルへの対抗だ。コンパクトSUVには、ヴェゼル、キックス、XV、CX-30などの車種が用意され、競争も激しい。そこでカローラクロスも価格を割安に抑えて対抗している。
2つ目の理由は、トヨタのSUVラインナップが豊富なことだ。サイズが比較的大きなRAV4も、ベーシックな2Lエンジンの2WD・Xは価格を277万4000円に設定した。
コンパクトSUVにはライズとヤリスクロスが用意される。こういったSUV各車の価格帯をバランス良く整えると、カローラクロスの価格も自然に決まり、結果的に割安な設定に落ち着いた。
カローラセダンが低迷する背景には、セダン市場の伸び悩みがある。2021年におけるセダンの最多販売車種はクラウンだが、1か月平均は1784台だ。
1990年にクラウンは1か月平均で1万7000台を登録したから、今の販売規模は当時の約10%まで縮小された。
今のカローラセダンは3ナンバー車になったが、グレイスが廃止された今、セダンとしては継続生産されるカローラアクシオの次に小さい。
後席が狭いといった欠点もあるが、コンパクトセダンでは選ぶ価値が高い。それなのにセダンというカテゴリーの人気低迷により、カローラセダンも売れ行きを下げた。今はどのカテゴリーに属するかにより、売れ行きの明暗がハッキリと分かれる。
■トヨタ ヤリスクロス
ヤリスクロスは2020年8月に発売されたコンパクトSUVで、2021年には1か月平均で8667台が登録された。
ベースとなったコンパクトカーのヤリスは8455台だから、ヤリスクロスは、派生車種でありながら販売が好調だ。
売れ行きが伸びた理由はカローラクロスと同様で、SUVというカテゴリーの人気が高いことだ。
それに加えてヤリスクロスは全長を4180mmに抑えたから運転しやすく、外観のデザインは力強い。後席と荷室は狭いが、ヤリスに比べれば少し余裕がある。
高人気の背景には、残価設定ローンの残価率が高く、返済額を安く抑えられることも影響した。ヤリスクロス1.5Zの価格は221万円で、3年間の残価設定ローンを組むと、月々の返済額は均等払いで4万100円になる。
一方、コンパクトカーのヤリス1.5Zは、価格が197万1000円だが、ヤリスクロス1.5Zと違ってアルミホイールはオプション設定だ。そこでアルミホイールを加えて条件を合わせると、総額は205万3500円に高まる。それでもヤリスクロス1.5Zよりは15万6500円安い。
ところが残価設定ローンの月々の返済額は、ヤリス1.5Zが4万4000円で、ヤリスクロス1.5Zの4万100円を超えてしまう。
ヤリスクロスはSUVとあって中古車になっても好条件で売却できるから、前述の通り残価率が高く、残価設定ローンを利用すると返済額がヤリスよりも安くなる場合があるのだ。
今は残価設定ローンの利用者が増えたので、残価率の高さと返済額も売れ行きに影響する。
人気車は返済額が安くなって売れ行きをさらに伸ばし、不人気車は割高だからますます低迷する。つまり残価設定ローンは、販売格差を拡大させるのだ。
■スズキ スイフトスポーツ
スイフトスポーツは、コンパクトカーのスイフトをベースに開発されたスポーティモデルだ。販売は好調で、2021年のデータを見と、スイフト全体の47%をスポーツが占めている。
スイフトスポーツが好調に売られる理由として、手頃な価格で購入できるスポーツモデルの減少が挙げられる。
86やBRZは、売れ筋グレードの価格が300万円を軽く超える。ロードスターもSスペシャルパッケージの6速MTが284万200円だ。いずれも2ドアだから、ファミリーカーとしては使いにくい。
その点でスイフトスポーツの価格は、6速MTが201万7400円と割安だ。エンジンは1.4Lターボで、2.3Lに匹敵する動力性能を発揮する。
足まわりにはモンロー製のパーツも使われ、ベース車のスイフトが軽いボディを生かして走行安定性が優れていることもあり、スイフトスポーツも運転の楽しい優れたスポーツモデルに仕上がった。
つまりスイフトスポーツでは、200万円少々の価格で本物指向の走りが手に入り、ベース車は実用的なコンパクトカーだから、少々狭いものの4名乗車にも対応できる。その結果、スポーツモデルのニーズがスイフトスポーツに集中した。
以前は各メーカーとも、スイフトスポーツのような割安なスポーツモデルを豊富に用意したが、今は大幅に減ってしまった。
スイフトスポーツの高人気は、いわばユーザーの不満の裏返しといえるのかも知れない。
■スズキ ワゴンRスマイル
スライドドアを装着する軽自動車は、全高が1700mmを超えるスーパーハイトワゴンが中心だが、「スペーシアほど背が高い必要はない」という意見も根強い。
そこで2021年には、全高が1700mm以下で、スライドドアを装着するワゴンRスマイルが登場した。2016年には、同様の考え方に基づいてムーヴキャンバスが発売され、ワゴンRスマイルもそれに続いている。
販売店はワゴンRスマイルの売れ行きについて、以下のように説明した。「今はスライドドアの人気が高く、スペーシアではニーズに合わないお客様がスマイルを購入している。
その一方で、スライドドアは不要だから、価格を安くして欲しいという意見もある。そのようなお客様は従来からのワゴンRを購入され、両車は売れ行きを偏らせずに共存できている」。
ちなみにライバルメーカーのダイハツには、全高が1800mmを超えるウェイク、上質感を重視したキャストなど、背の高い軽自動車が豊富だ。重複を避けるため、各車に独自の個性を持たせる傾向があり、ムーヴキャンバスも後席の下に引き出し式の収納設備を配置した。
引き出した状態で中敷きを立ち上げると、バスケット状になり、中に置いた買い物袋が倒れない。
ワゴンRスマイルにこのような工夫はないが、後席の背もたれを前側に倒すと座面も連動して下がり、フラットで広い荷室に変更できる。機能的にはスライドドアの装着も含めて、スペーシアの全高をワゴンR並みに低くしたようなクルマに仕上げた。
そのために機能や魅力が分かりやすく、売れ行きも堅調だ。ヤリスクロスも含めて、各メーカーのラインナップに応じた適切な車種を投入することも、売れ行きを伸ばす秘訣になっている。
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