日本トレンドリサーチが、全国の男女計2700名を対象に「運転免許の返納」についてアンケートを実施したところ、運転免許の返納義務化に賛成派が多数も、22.3%のドライバーが「免許を返納するつもりはない」と回答した。
高齢ドライバーの事故が問題となっている現在だが、公共交通機関の整備されていない地域や、クルマが生活必需品となっている人にとっては、免許返納すれば生活が立ち行かなくなる……という問題もある。
高齢ドライバー向けの講習を主宰されている松田秀士氏が、免許返納ありきではない免許返納が必要になるポイントや、日本が抱える免許返納したあとの生活をどう支えるべきなのかという問題について語っていく。
文/松田秀士
写真/TOYOTA、NISSAN、HONDA、MAZDA、MITSUBISHI、SUZUKI、DAIHATSU、AdobeStock(トップ写真=fusho1d@AdobeStock)
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■ここから先、運転を続けたいというアナタに向けて
はじめに「免許返納適正年齢」?
そんなものあるわけがない。この言葉が独り歩きすること自体、クルマの運転というものをわかっていない人たちが大勢いる証拠。自動車大国ニッポンでこのありさまがっかりする。
なぜ「免許返納適正年齢」はないのか? その理由は、人それぞれ自動車の運転技術レベルが違うからだ。さらに言うと、初めて運転免許証を手にした時点、つまりスタートの時点ですでに運転技術には差があるもの。だからひとくくりにして何歳になったら免許返納しなさいはおかしい。
もちろん年齢とともに老化により運転技術は低下する。人それぞれの運転技術、人それぞれの老化。この2つを総合して判断しないと「運転もうやめなさい」なんて決めつけられるものではない。
まわりの目があるからとか、クルマなくても困らないから、と思っている人は返納してよいと思う。
それはそれで素晴らしいことです。たとえ芸能人の言葉に背中を押されたとしても、その程度の意思なら運転しないほうがいいです。なんといっても1tを軽く超える岩の塊に大きなキャスターを付けたようなものが、時には100km/hもの速度で走り回るのですから。
なので、ここから先はどうしても運転を続けたいんだ、クルマがないと生活が困るんだという人に読んでいただきたい。
■ドライバーへの交通教育のレベルの低さを感じる日本の現実
まず日本という国の交通環境。これが最悪です。
米国や欧州の一部では歩車分離による安全環境がしっかり整っています。特に米国は国土が広いですから、ほとんどの駐車場も前方駐車。日本のようにバックで駐車することもほとんどありません。クルマも大きいですが道幅も広く、クルマなしでは生活できないというお国事情をちゃんとフォローしています。
欧州に行けば一般道でも制限速度が80~100km/hという道路がたくさんあります。しかし、市街地に進入すると制限速度は50km/h以下、学校があると30km/hあるいは20km/h以下となり、ほぼすべてのクルマは確実に速度を落とす。
日本だったら+10km/hぐらいで走り抜けるドライバーが半分以上いるはずです。交通規則に対する考え方に大きな隔たりがあるように思えるのだ。
特に日本は歩車分離ができない交通環境にある。そんな環境なのに速度に対する注意不足がはなはだしいドライバーの多さにはがっかりする。それなのに高速道路で制限速度内だからといって延々と追い越し車線を走り続けるドライバーの多さ。欧州ではありえないことです。
日本の交通環境で強く感じるのは、ドライバーへの交通教育のレベルの低さだ。
免許取得時は慣れないからある程度緊張感もあり、正しいドライビングポジション(運転姿勢)で速度も控えめ、ブレーキも早めに安全運転する。しかし、慣れ始めると徐々にそれらのことが緩慢になり、時間の経過とともに楽な方へと変化してゆく。
その後はフリーな状態が続き、気が付いた時には高齢者と呼ばれる年齢に達している。こういう高齢ドライバーが次々と踏み間違いなどの操作ミスによって悲しい事故を起こしてしまう。
もちろんドライビングポジションだけが問題ではないにしろ、長く染みついた間違った運転方法があるとき何らかの原因で事故を誘因する。そこで事故率の高い75歳以上の高齢ドライバーに対して免許更新のハードルを上げる。コレ、悪いことではないです。ただ、今はこの方法しかないでしょう。
でも、なぜここにきて高齢ドライバーの事故率が高いのか? その根本的な対策を怠ってきたから今こうなってしまっている、としか私には思えないのだ。
もっと早くから免許の更新ごとに、スクールなどのプログラムを必須項目とするなどの方法があったのではないだろうか? 例えば、免許更新の10年ごとに実地や法令の試験を課す。こうすればペーパードライバーのゴールド免許なんて馬鹿げた事象も防げるだろう。
違反経験者には実地も伴うさらにハードルの高い更新研修を課すなど、高齢化して突然判定試験を課すのではなく、若年時代から段階的に行っていれば今のような悲しい事故の何割かは減少させることができると思うのだ。
■どうなったら免許を返納すべきか? その決め手となるものは「視力」
私は一昨年、中高齢者に向けた「安全運転寿命を延ばすレッスン」(小学館)という本を執筆し出版した。これまでに中高齢者に向けた講演や講習も行ってきている。
このようなイベントに参加される方々は、いずれもクルマが好きで移動の自由を長く楽しみたい、という人。あるいはクルマがないと生活ができない、例えば農家の人、公共交通の希薄な地域に住む人、などだ。
このような人たちは、運転レベルも高く、安全に対する意識レベルも高い方々がほとんど。このような人たちでも講習に参加することで新たな気づきもあって、より自分の安全運転レベルを上げようと努力している。
大切なことは、このような運転への意識・意欲を持たない人にも安全運転に対する教育を継続的に行うことだと考える。
さて、そうはいっても人の老化は進む。いったいどの時点で運転を諦め免許を返納するべきなのだろうか?
認知症などの認知能力の低下については、これはいくら身体がしっかりしていても運転をしてはいけないし、させてはいけない。返納すべきだが、こういう人は返納したからといって運転しないとは限らない。家族など周囲の配慮が必要だろう。
難しいのは認知の問題がない人の場合、どういう状態になったら返納すべきか。最近の新型車はミリ波レーダーやカメラ、さらにはライダーを装備して事故へのリスクヘッジに長けたモデルが多くなってきた。
まずはそのようなクルマに乗り換えることを推奨する。このような新型車は高齢者の事故原因のひとつである運転疲労を軽減してくれるからだ。
では、身体がどのような状態になったら免許返納すべきか? 私は視力を挙げたい。クルマの運転の90%は視力に頼っていると考えている。また視力は脳と直結している。特に一点に注視したときだけでなく、その時の周辺視野に注目したい。
前方で起きた異変に気付きにくくなっている場合、この周辺視野が狭くなっていることが多い。眼鏡の度数など、特に左右の視力差などが影響して見るレベルが低下していることもある。
補正で回復することもある。最近では視野狭窄や、緑内障による視野の一部欠損にも運転対応できるよう研究も進んでいる。とにかく視力に異変を感じたら、専門的知識の高い眼科医を受信することだ。
そして運転に適さない自分だと悟ったならば、免許は返納すべきだと考える。ただし、このように視力に問題を抱える方々は、速度も控え非常に慎重に運転を続けていることも報告しておく。
誤解をされないように願いたい。移動の自由は誰もが平等に持つ権利なのだから。
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