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新型YZF-R7の2気筒は和製ドゥカティ!? 次は3気筒のYZF-R9で何を目論む?

 「速さから楽しさへ」従来型から価値観を180度振ったヤマハの新型YZF-R7が発売された。エンジンは並列2気筒ながら、走らせてみると純粋にファンライドが満喫できるスーパースポーツの新たな可能性が感じられるものだった。

 既報の通り、新型YZF-R7の次には新型YZF-R9も控えているという情報もある。昨今のスーパースポーツはどのようなトレンドになっているのか? 新型Rシリーズの動向を通して探ってみたい。

文/市本行平、写真/YAMAHA、DUCATI、HONDA

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新型YZF-R7は和製ドゥカティと言われたTRX850の後継

 1980~1990年代に「レプリカ」と呼ばれたフルカウルのスポーツバイクは、現在はスーパースポーツと呼ばれている。新型YZF-R7はこれの最新機種となり、日本のメーカーに従来なかったコンセプトで、新たな楽しみを提案している。

 新型R7は、乗ってみるとドゥカティを思い出させる走りを見せてくれた。2気筒エンジンの大型スーパースポーツは近年の日本メーカーで久しぶりの新作で、あまり比較対象がないことから「ドゥカティっぽい」という印象になったのだろう。

 ヤマハは並列2気筒ながらドゥカティが採用する90度V型2気筒(Lツイン)と同じ爆発間隔の「CP2」エンジンを2014年にリリース。今回スーパースポーツに初めてCP2エンジンを組み合わせることで、新型YZF-R7はドゥカティを彷彿とさせる走りとなったのだ。

 実は、CP2エンジンは1995年のヤマハ・TRX850がルーツとなり、実はTRXこそ元祖和製ドゥカティと言えるもの。新型R7はこれの後継モデルに位置づけられるだろう。

99万9900円という並列4気筒スーパースポーツよりも大幅に安価で発売されたヤマハの新型YZF-R7。並列2気筒688ccのネイキッドモデル「MT-07」をベースとすることでコストを抑えている
ヤマハが1995年に発売したTRX850は、並列2気筒エンジンのクランクシャフトを90度捩ることで、Lツインエンジンと同じ爆発間隔にした。さらにトラスフレームでドゥカティと同じ構成としている
TRX850がお手本にしたと思われる1990年前後のドゥカティモデル。レースベースの851(写真)や空冷エンジンのSS900などと同じトラスフレームをTRX850は採用。今見ると外観もTRXと似ている

新型YZF-R7はドゥカティを超えたオリジナリティを持つ

 新型YZF-R7は、回転が落ちてしまってもストトトト〜と粘り強く立ち上がるエンジン特性が、従来の並列4気筒エンジンのスーパースポーツと大きく異なる。加速も一発一発の爆発が体で感じられるもので、単純にアクセルを開けるのが気持ちいい。ヤマハはもっと早くから新型R7を出していればよかったのでは? と思わされる仕上がりだ。

 さらにハイレベルな話をするとLツインやCP2エンジンの不等間隔爆発はトラクション性能に優れ、スライドを抑制する効果があるという。ヤマハは、これを得るために並列4気筒で等間隔爆発のYZR-M1およびYZF-R1のエンジンを、90度V4と同じ不等間隔爆発になるように変更したくらいレースでは重要な要素になる。

YZR-M1は2004年からクロスプレーンクランクシャフトで90度V4と同じ爆発間隔になるように変更された。写真は2009年のYZF-R1に採用された時のもの。直4がV4サウンドを奏でる

 もちろん、ハイレベルな走りができなくても新型R7の2気筒エンジンは高回転型の4気筒エンジンに比べフレキシブルに反応してくれるので、中級者レベルまでなら楽しめる領域が広いのだ。

 加えて、新型R7の楽しさはヤマハならでは設計思想に支えられている。ヤマハはすでに独自の車体パッケージを確立しており、新型R7にはそのノウハウが存分に注ぎ込まれているのだ。それを一言で表すと、コンパクトシャーシ+不等間隔爆発エンジンとなる。

 YZR-M1、YZF-R1の歴史はこれを徹底的に追求してきたもので、MotoGPを始めとするレースでの活躍がその効果を実証している。もはやTRX850の頃のようにドゥカティを模倣しなくても、新型R7はヤマハならではのコア技術だけで充分に成り立つものなのだ。

筆者はサーキットや公道で新型YZF-R7に試乗。ドゥカティのようなエキサイティングさと日本メーカーらしい扱いやすいやすさがバランスよく同居しており、ファンバイクの理想形に思えた
最近試乗した2006年型のドゥカティ749。下から湧き出るトルクからズバババっと鋭く加速する。問題はシャーシで、Lツインの前後に長いライディングポジションで気軽に楽しめない感じだ

差がつくのはハンドリングのヤマハが極めた車体パッケージ

 バイクレースの最高峰MotoGPとスーパーバイクで日本メーカーに唯一対抗しうる海外メーカーはドゥカティしかない。それも国産車とは全く異なるアプローチで時に輝かしい成功を収めてきたことから、日本のメーカーからも一目置かれる存在となっている。

 それ故、ドゥカティは徹底的に研究され、ホンダはその特殊なフレーム構造を模範とした市販車を投入したこともある。それがピボットレスフレーム構造で1997年にVTR1000Fを発売した。エンジンはホンダも得意としていた90度V型2気筒でドゥカティと同じだが、フレームをアルミ製としていたことが異なる。

写真のVTR1000FもドゥカティのVツインも共に90度なのだが、ホンダは上に開いていることからV型と言われる。ちなみにドゥカティは前に開いているのでL型だ

 VTR1000Fはモリワキなどが開発して鈴鹿8耐レースなどに参戦したが、輝かしい成績は収められていない。ピボットレスフレームはエンジン全長が伸びてしまうL型エンジンのデメリットを克服するためのものであり、ある程度長さを短縮できるV型には必要がなかったとも言える。

 そして、エンジン全長をコンパクトにするのであれば、並列配列でありながらV型と同じ効果を発揮するヤマハの取り組みが最適解であり、ドゥカティの進化形がヤマハのスーパースポーツと言えるだろう。

 しかし、ヤマハのエンジンには振動対策が必要で、バランサーを搭載する分最高出力が不利となる。ヤマハがレースで苦戦するのは主にパワーの劣勢が原因で、振動面で有利なV型エンジンを使うホンダやドゥカティと勝負ができているのは、優れたハンドリングのおかげだ。

 そんなレースの世界と一線を画す新型YZF-R7は、ラップタイムや勝敗抜きで「楽しい!」ところだけを満喫すればいい。高性能すぎないのでワインディングに、遅すぎないのでサーキット走行会にもおすすめの新しいスーパースポーツだ。

新型YZF-R7の鉄フレーム+不等間隔爆発2気筒は、ドゥカティと同構成だが大幅にコンパクト。ホイールベースは1405mmで現行ドゥカティ・スーパースポーツの1478mmより70mm以上も短い
2010年代までLツインを採用していたドゥカティのスーパーバイクはこのような車体構成になっていた。エンジンが前に突き出ているのでコンパクト化が難しい
現在のドゥカティはホンダと同じように上に開いたV型4気筒を採用する。フレームもアルミを採用しており、今ではドゥカティが日本メーカーの手法に寄せている状況だ

新型YZF-R7の次に控えるのは新型YZF-R9!? こちらは3気筒だ

 これまで日本のレプリカやスーパースポーツは、4ストローク並列4気筒エンジンでほぼ横並びだった。例外として、ホンダのRC30などV型4気筒モデル、V型2気筒のVTR1000SP-1/2があったが、販売の主力は並列4気筒のCBRシリーズだった。

 それも今は昔、令和になってヤマハが新型YZF-R7で並列2気筒のモデルをより安価な価格で提案し、さらにこれの上級版としてネイキッドモデルのMT-09ベースをベースとした新型YZF-R9を開発しているとウワサされる。

 MT-09のエンジンは並列3気筒を採用しており、発売されればトライアンフのデイトナやMVアグスタのF3シリーズに次ぐ3気筒スーパースポーツモデルになる。現在、3気筒エンジンは世界グランプリのMoto2クラスでも使われており、かなりメジャーな存在なのだ。

 日本では、国内最大の草レースと呼ばれるテイスト・オブ・ツクバに「DOBER ストリートファイター」クラスが新設され、並列3気筒のMT-09やトライアンフも参戦可能となることが発表され、ますますその存在が定着してきている。

 レプリカブームは1980年代で終息し、現在スーパースポーツの販売はわずかなシェアしか取れていない。この流れに風穴を開けるべく、ヤマハは過去のフォーマットを捨て再構築を図っている。

新型YZF-R9(手前、CGイラストは編集部が制作したもの)は2023年モデルで発売されるという情報。これの詳細は当Webで2月22日に掲載したスクープを参照されたい。奥はベースのMT-09

2022年型YZF-R7主要諸元

・全長×全幅×全高:2070×705×1160mm
・ホイールベース:1395mm
・シート高:835mm
・車重:188kg
・エンジン:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ 688cc
・最高出力:73PS/8750rpm
・最大トルク:6.8kgf-m/6500rpm
・燃料タンク容量:13L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=Wディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70ZR17、R=180/55ZR17
・価格:99万9900円

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