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老兵はただ去りゆくのみ…それでも日産にはマーチが必要な理由

 日産の名門コンパクトカー「マーチ」の現行型が、近いうちに生産終了となるという。マーチといえば先日、先代までマーチとモデル共用だった欧州日産の「マイクラ」が、次期型でバッテリーEVとなるという発表があったばかりだが、現時点、日本のマーチの今後については明らかになっていない。

 4世代、約40年にもわたって日産を支えてきた名門コンパクトカーのマーチ。日産のコンパクトカーといえば、軽自動車のデイズ/ルークスやノート、キックスなどの最新モデルがあるが、マーチには、ノートやデイズ/ルークスでは埋められないものがあると、筆者は考えている。

文:吉川賢一
写真:NISSAN

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実はいまでも結構売れている

 現行型のK13マーチは、2010年の登場からすでに11年が経っているが、実は今でも案外売れている。2021年1~12月は8,819台(前年比1.5倍)、しかも、直近の2022年2月には1,080台も売れているのだ(自販連2月統計データより抜粋)。

 現在の日産コンパクトカーの代表格といえばノートだ。軽自動車だとデイズやルークスがある。日産製のコンパクトカーが欲しければ、こうした最新鋭のモデルがあるのだが、ノートは最新鋭だけあってそこそこ高いし(税込203万円~)、軽自動車はどうしてもイヤ(※免許証を取り立ての子供に与える一台目として、普通車を望む親御さんもいる)という人も一定数いる。

 ジャストサイズのコンパクトカーで、性能もそこそこ良くて、特別な先進装備なんて別にいらないという人には、税込123万円~と軽よりもリーズナブルなマーチが、第一の選択肢として浮上しているようだ。

2010年7月に登場した4代目となる現行マーチ(K13)。2021年1-12月は8,819台(前年比1.5倍)、しかも、直近の2022年2月には1,080台も売れている

マーチの存在は日産ユーザーの裾野を広げてくれるはず

 ノートやデイズ/ルークスにはないマーチの特徴、それはやはりなんといっても「かわいさ」だ。マーチブランドが持つ「かわいらしさ」は、現在の日産ラインアップにおいては唯一無二の存在。特に、3代目のK12マーチは、カエルフェイスで、どこから見ても丸くてかわいらしく、男性ではちょっと選びにくい存在ではあったが、ボディカラーも豊富にあり、マイチェンのたびに新色が追加されるなど、常に「かわいい」を追い求めていた存在だった。

 ブランド造りにフロントフェイスの意匠を合わせることはもちろん理解できるが、一台くらい、丸いクルマがあってもいいじゃないか。昨今は、先進性を強く感じるカッコいいフェイスに圧倒的需要があるとはいえ、それがいい人ばかりではないし、いずれ「飽き」はくる。かわいいに全振りしたムーヴキャンパスのようではなく、「適度なかわいさ」を備えたマーチの存在は、日産ユーザーの裾野を広げる役割を果たしてくれるはずだ。

今回の会見で公開された短いプロモーション映像からのスクリーンショット。LEDのヘッドライトと、デイタイムライトが光る正面顔のフォルムは、まさに「マーチ」だ

マーチそしてキューブの復活は、日産を助けてくれるはず

 冒頭で紹介した次期型マイクラのティザー動画では、まるでK12マーチ(マイクラ)を彷彿とさせる楕円形のヘッドライトリングやキャビン形状がみてとれる。ボディサイズも、フィアット新型500(バッテリーEV)といった、Aセグメントサイズのようにみえ、スタイリッシュで先進的とは言えないが、最先端の中身とは対照的に、クラシカルな雰囲気をまとったオシャレでかわいいデザインのようだ。

 小型バッテリーEV向けとして日産とルノーが共同で新開発したCMF B-EVプラットフォームを使用し、ルノーからは「5(サンク)」、日産からは「マイクラ」として発売するという。ただ、マイクラに関しては、デザインは日産が行うが、開発と生産はルノーに一任されるそうだ。

 この次期型マイクラがそのまま、「マーチ」として日本に導入されるかはわからないが、マーチが生き残るためには、e-POWER化やバッテリーEV化は避けられず、そうなると「安い」という現行マーチのよさはスポイルされてしまうが、それでもこの次期型マイクラのような「かわいさ」が残るならば、それはマーチがこれまで辿ってきた道を大切にしていることであり、マーチが受け入れなければならない現実でもある。

 マーチのかわいい雰囲気は、エンジン臭くないバッテリーEVがよく似合う。使われ方を考えても、日産の現行ラインアップのなかで、これほどバッテリーEVに適したモデルはないのではないだろうか。

 筆者としては、この新生マーチバッテリーEVと共に、キューブの復活が、日産の国内販売を救う救世主になると考えている。世界中を見渡してもあれほど仕上がった「四角いクルマ」はない。デザイン、安全装備、燃費、明確なキャラクタを磨いた新生キューブとして復活し、e-POWERやバッテリーEV化されたら、再び人気モデルとしてランキングに復帰するのではと予想している。

 「丸いマーチ」と、「四角いキューブ」、誰もが知っているこの2大ブランドは、日産にとって大きな財産であり、電動化にも適したサイズ感をもつこの2台は、いまこそ活用すべきではないだろうか。

 この春には、軽のバッテリーEVの登場を控えている日産。はたして、それにつづくバッテリーEVはどのモデルとなるのか。今後の展開が楽しみだ。

2002~2010年に販売されていた3代目K12マーチ。日欧で共通デザインとして販売され、ヨーロッパの街並みにもよく合うタイムレスなデザインとして、評判も高かった
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