こんなクルマ見たことありますか? あるいはこのクルマ懐かしくないですか? 2月の初めにパリでおこなわれたRMサザビーズオークションで落札された中から、フェラーリでもポルシェでもベンツでもジャガーでもない8台を選んで、そのモデルの背景と落札額をレポート。 トップバッターはデ・トマソ パンテーラGTSだ。 デ・トマソ パンテーラGTS(1972) ・5.8リッターのフォード351″クリーブランド”V型8気筒エンジンとZF製5速マニュアルギアボックスを搭載 ・FIAグループ4デ・トマソ・パンテーラをモチーフにしたスタイル ・2018年版「ル マン クラシック」に参加 ・アルミフライホイール、4イントワンエキゾーストマニホールド、スパルコレブFIA規格レーシングシート(レーシングハーネス付)などレース仕様のハードウェアを装備 ・今回は落札されず 大林晃平: デ・トマソ パンテーラ、好きな人は猛烈に好き、そんなクルマである。カロッツェリア ギアのトム ジャーダとマルチェロ ガンディー二の生み出したイタリアンなボディにアメリカンなパワーユニットという、もう出てこないような組合せである。総生産台数は7,260台と言われ、かなり多い。今回の一台が落札されなかった理由は、オリジナルから離れた姿のものだから、だろうか・・・。 フィアット8Vクーペ(1954) 落札額: 905,000ユーロ(約1億2千万円) ・わずか114台が生産された8V、そのうちの29台しかないフィアットの自社製セカンドシリーズのうちの1台 ・1965年に渡英して以来、エンスーオーナー歴を持つ ・2015年グッドウッドリバイバル、2016年ヴェルナスカシルバーフラッグなど、ロードとサーキットの両方で楽しまれている ・マッチングナンバーのエンジンを保持 ・シンクロメッシュ8Vギアボックス搭載、オリジナルのトランスミッション 大林晃平: オースティンとかコブラとかいろいろな車に似ているが、それとも彼らが真似したのだろうか。いずれにしろ希少な「フィアット8Vクーペ」、一億円を超える価格での落札である。「8V」はもちろんV8エンジンを意味し、開発者はもちろんダンテ ジアコーサ、とそのエンジニアリングの部分まで名門であることはいうまでもない。他の車種と比べても、意外と価格が伸びていないような気もするのは気のせいか、感覚が麻痺しているのか・・・。 ルノー5ターボ2(1983) 落札額: 126,500ユーロ(約1,680万円) ・1980年代を代表するパフォーマンスハッチバックの1台 ・カタログ掲載時のオドメーターは7,835km ・ブレーキ出力160psの1.4リッター4気筒エンジンと5速MTを搭載 ・記録簿、六角レンチ、全てのマニュアル、スペアホイール付き 大林晃平: ルノーサンク ターボ2、ということはマリオ ベリーニの超絶お洒落な内装のほうではなく、普通のインテリアのほう。とはいってももはや2,000万円目前の価格がつく立派な名車となっている。今回の一台はわずか7,835km走行距離がポイントだが、おかしいのはわざわざ「六角レンチ付き」とうたっていること。いったいどういう六角レンチなのか、見てみたい。 ブガッティEB110 GT(1994) 落札額: 1,805,000ユーロ(約2億4千万円) ・新車時からシングルオーナーで、オーストリアの長期所有者により保持されている ・ブガッティEB110は139台のうちの1台で、「GT」仕様で製造された84台のうちの1台とされている ・EB110 GTの最後の10台のうちの1台と考えられている ・ウッドトリムをふんだんに使ったツートンカラーのグレーインテリアの上に、好ましいグレーメタリックで仕上げ ・オドメーターはカタログ掲載時、25,542kmを表示 ・2021年12月にB-Engineering社で総額20,500ユーロの整備を実施 ・Bugatti Automobili SpAに代わってB-Engineeringが発行した真正性証明書によって確認されたマッチングナンバーエンジン 大林晃平: 「ブガッティEB110」のなかでも、「GT」だけあって、2億5千万円の価格も納得。日本にも正規輸入され、式場壮吉氏が「S」を所有していたように記憶している。内装写真がないのが残念ではあるが、メーターパネルは外観から想像できないようなウッドパネル、それにロールス・ロイスのシートのような形状の本革シートとゴージャス路線であった。それでも2億4千万円の価格は・・・。個人的にはちょっと高いとは思う。 アストンマーティンDB4コンバーチブル(1963) 落札額: 1,130,000ユーロ(約1億5千万円) ・わずか70台しか製造されなかったDB4コンバーチブルのうちの1台 ・左ハンドルの「シリーズV」コンバーチブルは7台しか製造されず、改良されたスペシャルシリーズ「SS」エンジンが搭載された1台と考えられている ・米国で独自に販売された12台のDB4コンバーチブルのうちの1台 大林晃平: 「DB4」、ということは、もうじき60年にもなるアストンマーティン。1億5千万円も納得の価格か。写真の色は本当にお洒落でなんとも素敵だが、ボンドカーの「DB5」がこの色だったとしたら、今ほどの人気になったかどうか怪しい。それでもやっぱり洒落ていて、素敵なオープンボディだ。ちなみに「DB」とは、いうまでもなくデビット ブラウンのこと。そのデビット ブラウンはどんな人だったかと一言でいえば、イギリスの実業家だった。 ディーノ206GT(1969) 落札額: 365,000ユーロ(約4,850万円) ・わずか153台しか製造されなかったDino 206 GTのうちの1台、1969年に製造されたわずか51台のうちの1台 ・2000年からドイツで長期所有されているイタリアのオリジナルマーケット車 ・1988年にモデナのスペシャリスト、オートルーチェs.r.l.によって行われた古い時代のレストア ・オリジナルカラーのロッソキアーロと黒のレザーレットインテリアで登場 ・2021年12月にフェラーリメインエージェント・スクーデリアGTによる6,500ユーロの総合整備を受ける 大林晃平: フェラーリであってフェラーリではない、なぜならディーノにはフェラーリというメーカー名は付いていなかったからだ。フェラーリって付けたら息子を偲んでディーノって名付けたエンツォが泣くぞ! そんなディーノももはや80年代に環八や自動車専門誌で見かけたディーノの価格の10倍近い価格となっている。そして今後ますますこの傾向は強まるに違いない。こういうコンパクトなモデル、もう出してくれないものなのだろうか。来る新作映画、「エンツォ フェラーリ」のアップデート情報に関しては、こちらをご参照ください。 ランボルギーニLM002(1988) 落札額: 269,375ユーロ(約3,580万円) ・1986年から1993年の間に328台のみ製造されたLM002のうちの1台 ・キャブレターエンジン搭載の初期生産型が望ましい ・オリジナルカラーのアルジェントメタリコとグレーレザーインテリアで登場 ・2021年12月にカーテック・ナレッジ社で整備を受け、オリジナルのサービスブックが付属しています 大林晃平: 「ランボルギーニ チーター」と混同されがちだが、まったくの別物。V12エンジンを積み、2.7トンのボディを、最高速度206km/hまで導いた。もちろん燃費など良いはずもなく、リッター2km以下。290リットル(!)の燃料タンクを満タンにしてもあっという間にカラ欠になってしまう。結局328台を生産しただけで(結構多いともいえるが)、生産中止。狙いは間違っていなかったと思うが時期が20数年早すぎたかも。そんな「LM002」も、もはや3,580万円だが、その価格も今となってはランボルギーニ ウルス(オプションつけたりすれば余計に)と大きくは変わらない価格と思えば、納得かも・・・。 アバルト2000スポーツ ティーポSE010(1969) 落札額: 398,750ユーロ(約5,300万円) ・1969年、1970年、1971年のフランスモンターニュ選手権に出場し、1969年に総合3位、1970年に総合6位という成績を残す ・1967年、1968年のフランス・ヒルクライムチャンピオン、ピエール・モーブランを含む3人のフランス人ヒルクライムレーサーが所有 ・250馬力の2.0リッター4気筒エンジンと5速マニュアルギアボックスを搭載 ・2016年、当時を彷彿とさせる赤を基調としたレストアが施された ・1976年当時の販売明細書、FFSAテクニカルパスポート、FIAヒストリカルテクニカルパスポート、多数の歴史的写真コレクションも付属 大林晃平: カルロ アバルトの創設したアバルトの正体はアルピーヌ同様、チューナーでもあったが(カルロ アバルトは、そもそもはモーターサイクルレースのレーサーだったが、その後マフラーなどのパーツで財を成したあと、アバルトを創設した)、本業はレーシングカー作りとレース参戦であったはず、なので、この「アバルト2000スポーツ ティーポSE010は王道中の王道の一台。この車からしたら、現在の「500アバルト」は、ごく普通の実用2ボックスカー。もちろん公道は走行できないので、購入したら、かつての輝かしい歴史のようにヒルクライムイベントに出るか、ぜひぜひグッドウッドのイベントに参加してほしい。その花道への参加パスポート費用と考えれば割安かもしれない。 【おまけ】 アルファロメオ155 V6 TIイェーガーマイスター アルファロメオ155 V6 TIイェーガーマイスター(1995) ・1995年、1996年のDTM、ITC選手権に参戦 ・1995年のディープホルツでのDTMレースで、チームロータスの元F1ドライバー、ミハエル・バルテルスのドライブで両レース優勝 ・現オーナー保有期間中に約17万ユーロ(約2,244万円)をレストアと整備に支出 ・シャシーは2017年にスペシャリストによって完全にリビルドされた ・リンドルマイヤー・モータテクニックとスクーデリアGTがそれぞれリビルトしたエンジンとギアボックスを搭載・スペアホイール2セットとコンピュータメンテナンス機器を付属 ・オークション後に売却されたが、売却額は未公開 大林晃平: この「155」が参戦し、DTMが全盛だった時代、メルセデスベンツ、BMW、そしてアルファロメオのDTMのミニカーをずらっと並べて悦に入っている友人がいた。今は亡き恵比寿の「ミスタークラフト」に足しげく通っては、一台(あるいは複数台)購入し、年代別に整理しては並べて楽しんでいたものである。言ってみればこの車を購入するということは、そういうことなのだろう。原寸大のDTMのよき思い出、それがミニカーではなくホンモノ。そう考えれば数千万円してもいたしかたないだろう(あの当時、ミニカーだって相当高価だったのだから)。 それにしても、アルファロメオ155はかっこいい。お世辞抜きに歴代のアルファロメオのセダンの中で、一番好きなモデルである。 Text & photo: RM/Sotheby’s