「偉大すぎた初代を親や兄とする2代目」の生きる道というのは、どんな世界でもなかなか難しいもの。そしてそれは、ホンダの“タイプR界”においても同様だ。
偉大すぎるほど偉大だった初代インテグラタイプR(DC2/DB8)の最高値中古車が約900万円であるのに対し、2代目(DC5)は140万円ぐらいから狙える状況。
それと同様に、偉大なホットハッチだった初代シビックタイプR(EK9)の最高値は500万円レベルに達しているのに対し、2代目(EP3)は100万円そこそこから探すことができる。
とはいえ、今のところは中古車相場が比較的安い2代目世代も、初代と(ある意味)同じく優秀なVTECエンジンを搭載しているネオクラMT車ゆえ、今後は初代と同水準まで相場が高騰してしまう可能性はある。
でも今は、嵐の前の静けさではないが、まさに大穴といっていい状況ではないだろうか? ここで改めて、タイプRの中古車事情を追ってみた。
文/伊達軍曹
写真/ホンダ、ベストカーweb編集部
■インテグラタイプR 初代は小さいボディと1.8L、2代目は3ナンバーサイズと2L化へ
まずはホンダインテグラタイプRの初代と2代目について。
ご承知のとおり初代インテグラタイプRことDC2(3ドアクーペ)とDB8(4ドアハードトップ)は、3代目ホンダインテグラに珠玉の「B18C Spec-R」1.8L、直4DOHC VTECエンジンを搭載して1995年に誕生。
その後、俗に「98Spec」「00Spec」と呼ばれることになるマイナーチェンジを経て、2001年6月まで販売された。
そして2001年7月に登場したのが、本稿の主題のひとつとなる2代目インテグラタイプR、いわゆるDC5だ。
4ドアハードトップを廃止して3ナンバー化されたDC5は、より強力な2Lの「K20A」エンジンを搭載することになった。
■2代目DC5はマニアから酷評 中古車相場が初代より約100万円ほど安い
だがファンからは「肥大化してしまった」という旨の意見が続出。その結果として現在も、古い年式である初代DC2/DB8より、新しい年式であるDC5のほうが中古車価格は安いという状況になっている。
両車の具体的な数字を見てみよう。
●初代インテグラタイプR(DC2/DB8)
中古車相場:220万~889万円
平均価格:約282万円
●2代目インテグラ タイプR(DC5)
中古車相場:140万~350万円
平均価格:約180万円
見てのとおり、最高値同士で比べるとDC5のほうが540万円ほど安く、平均価格においてもDC5のほうが約100万円安い。
ただ、上記の数字は「889万円の初代インテグラR」というかなり特殊な1台の中古車が見た目の数字を釣り上げているだけで、実際の価格の開きはそこまでは大きくない。
標準的な諸条件の個体同士で比較し直すと、両者の相場はおおむね下記のとおりとなる。
●標準的なDC2/DB8の中古車相場:260万~440万円
●標準的なDC5の中古車相場:160万~340万円
もちろん何をもって“標準的”とするかは意見が分かれるところだろうが、両者の価格差は「おおむね100万円」であるというのが筆者の見立てだ。
2代目インテグラ タイプRであるDC5は、マニア筋から「重くなった」「曲がりにくくなった」「そのことを2Lエンジンでごまかしてる」等々と評価されてきたせいで、「初代よりおおむね100万円安」の相場に落ち着いているわけだ。
しかし今後、その相場はどうなっていくのだろうか? 現在の比較的手頃な水準をキープし続けるのか、それとも、ネオクラシック系MTスポーツの例に漏れず高騰していくのか?
……未来を正確に予測することなど不可能なわけだが、仮に「歴史に学ぶ」のであれば、2代目インテグラタイプRの中古車相場は今後、じりじり上昇していく可能性が高いと推測される。
その根拠となるのは「996型ポルシェ911の相場的歴史」だ。
ご承知のとおり、往年のポルシェ911はすべて空冷方式の水平対向エンジンを搭載していたが、1997年デビューの996型から水冷方式のフラットシックスに刷新された。
だがその996型の評判はまったく芳しくなかった。
「エンジンがつまらない」「乗り味が乗用車的」「インターミディエイトシャフトにガンを抱えている」等々の風評および事実にさらされたのが、初の水冷911となった996型であり、その不評っぷりはホンダ インテグラ タイプRの2代目であるDC5の比ではなかった。
その結果として996型ポルシェ911の中古車相場は、ポルシェ911という世界的な名車にあるまじき激安相場に陥っていたのだが、ここ最近……実は上昇に転じている。
その後のポルシェ911があまりにも(サイズ的に)大きくなり、あまりにも高度な各種制御が用いられるようになったことで、評価的には最悪に近かった996型が「今にしてみると小ぶりでいいサイズ感じゃない?」「余計な電子制御がなくていいよね」「最新の911と違って“使い切れるパワー”なのもうれしいじゃない!」というニュアンスでまさかの再評価を受け、その中古車相場もまさかの上昇に転じているのだ。
もちろん、これとまったく同じことがDC5型インテグラ タイプRにも起こる100%の保証はない。
だが2LのK20Aエンジンが「珠玉の自然吸気エンジン!」であることは間違いなく、デビュー時は「肥大化した」「曲がりにくくなった」とされたボディおよび車台も、その後のさらに肥大化されまくった車たちと比べれば「小ぶりでシャープなMT車」であることも確かだ。
……となれば、その中古車相場は周囲の電動化や自動化、サイズ的な肥大化が進めば進むほど――じりじりと上昇していくのが、おそらくは歴史の必然なのだ。
もちろん、オンボロな修復歴ありのDC5までが超高値になる未来はないはずだが(ないと信じたい……)、ノーマル基調の良質な個体に関しては、「初代よりもおおむね100万円安い今がチャンス!」と煽っても、決して間違いではない。
■ホンダ シビックタイプR 初代は軽量ボディ・1.6L、2代目は2Lでハイパワー化
続いて、ホンダシビックタイプRについてはどうだろうか?
こちらも「2代目より、偉大な初代のほうが中古車相場は圧倒的に高い」という状況になっている。
なお、今さらモデル自体についてのご説明は不要かとも思うが、軽くおさらいしておくと、初代ホンダ シビック タイプR(EK9)は1997年、6代目シビックのマイナーチェンジ実施時に追加された3ドアの超スポーティハッチバック。
搭載エンジンは最高出力185psの「B16B」で、そのエンジン自体と軽量化された車体がもたらす切れ味鋭い走りによって「ホットハッチ界のカリスマ」になった一台だ。
そして2代目シビックタイプR(EP3)は、7代目シビックのフルモデルチェンジから遅れること約1年の2001年12月に登場。搭載エンジンは2LのK20A R-Specで、最高出力は215ps。
エンジンパワーでいえば初代よりも上なわけだが、2代目シビックタイプRはインテグラ タイプRの2代目と同様に「衝突安全ボディのため重くなった」「重心が高くなった」「曲がりにくくなった」「それらをごまかすために2Lエンジンを採用した」などと、けっこう辛口に評価されてしまった。
初代および2代目シビックタイプRの現在の中古車相場は下記のとおりだ。
●初代シビックタイプR(EK9)
中古車相場:250万~498万円
平均価格:約293万円
●2代目シビックタイプR(EP3)
中古車相場:100万~250万円
平均価格:約154万円
こちらも「初代の最高値」と「2代目の最安値」を比べるとドえらい開きがあるわけだが、両者の「狙い目な個体(専門店がある程度ビシッと整備した、最高値ではない物件)同士」で価格を比較するならば、おおむね下記のとおりとなる。
●狙い目のEK9の中古車相場:280万~390万円
●狙い目のEP3の中古車相場:180万~250万円
両者の価格差は「100万円から140万円ぐらい」といったところだろうか。つまり「今この瞬間は、2代目のほうが100万円以上安く買える」ということだ。重くなったことで(初代と比べれば)切れ味を失い、いじるにしても部品が少ないということで、2代目EP3の相場は安めな水準にとどまっている。
これが今後どうなっていくかといえば――もちろん100%正確な予測などできないがインテグラ タイプRの場合と同様の「ポルシェ996理論(周囲の車がどんどん重厚長大&電子制御になっていくことで、人気薄だったち世代が「今にしてみるとシンプル&軽量でいいじゃん!」と再評価される現象)」により、じりじりと上昇していく可能性は高いと考える。
もちろん、もしも両者ともに完調な状態であるならば、乗って楽しいのは初代EK9のほうなのだろう。
だがクルマというのは古くなればなるほどフレーム部分にサビが発生しやすくなり、その他の部分もくたびれてくる。そうなると、新車時は比較的低評価だった2代目EP3の末期年式が再評価される機運は、より高まっていくはず。
であるならば、これまたインテグラタイプRのDC5と同様に「まだ買える値段である今のうちに買っておけ!」とするのは、あながち間違いではないはずなのだ。
■3代目シビックタイプRはどうせ買っちゃうなら早い方がいい
そして最後に、3代目のシビックタイプRであるFD2(2007~2010年)。
こちらについては、100万円台でイケるFD2はかなりの多走行車や修復歴ありの個体ばかり。まあまあ条件の良い個体はおおむね250万円以上であり、「かなり条件の良い個体」は400万円台だ。
つまり3代目シビックタイプRの相場は初代EK9とだいたい同じぐらいであるため、特に「今ならまだ安い! 今がチャンスだ!」と強く煽るほどのことでもないのである。
とはいえ、このFD2も今後、「シンプルで小型軽量なMTスポーツ」として微妙な上昇トレンドに入るだろうことはほぼ間違いないはず。
そのため、「どうせ買うなら早いほうがいいんじゃないですか?」というひと言だけは、一応言っておきたいと思う。
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