2001年にヒュンダイとして日本に進出したが販売不振から2010年に撤退した。あれから12年目にして新たに「ヒョンデ」と呼び名を変え、EVとFCVを引き連れて日本に再進出を開始した。
今回はオンラインのみで販売するらしいがうまくゆくのだろうか? すでに一般の試乗が始まっており、都内では角ばった独特のカタチのアイオニック5を見かけるようになった。おおむね好評で出だしは好調のようだ。
さて、今回はそんな「ヒョンデ」について、前回2000年代の日本進出の話と今回の再進出について考察してみる。
文/桃田健史、写真/ヒョンデ、奥隅圭之
■ヒョンデが12年ぶりに再上陸
ヒョンデが12年ぶりに日本再上陸。と聞いても「ヒョンデって、なに?」。そう思う人が、日本には大勢いるはずだ。
韓国の現代自動車が2020年、それまでの「ヒュンダイ」という呼び方を韓国語により近い「ヒョンデ」に改めている。
今回の日本再上陸については、2年ほど前から日本の自動車業界内では「噂」が絶えなかった。日系メーカーや輸入車関連企業からの転職が徐々に増えるなどしていたため、ヒョンデの日本新事業が着々と準備されていることは、業界内では暗黙の了解だったといえる。
迎えた2022年2月8日、ヒョンデ・モビリティ・ジャパンが日本市場への再参入を正式に発表した。
■ディーラーを持たない完全オンライン販売とした理由
そこには、業界の常識を覆すような驚きがいっぱいだった。最大の驚きは、ディーラーを持たないことだろう。完全なオンライン販売をするというのだ。
現実的な話をすれば、12年前の2009年をもって、全国各地で展開していた当時のヒュンダイディーラー網が終了している。その後は、協力整備工場などが既販車に対するアフターサービスを続けてきた。
この状態から、新たにゼロからヒョンデ・ディーラー網を全国で構築するには、ヒョンデ・モビリティ・ジャパンとしての初期投資もさることながら、12年間前の日本撤退について徹底した説明をすることが求められる。
むろん、韓国のヒョンデ本部である、ヒョンデ・モーター・カンパニーも2009年の日本撤退について、張在勲(チェン・ジェフン)CEOは「当時の私たちヒョンデが、(日本の)一人ひとりの大切なお客様の声にしっかりと耳を傾けることができていなかった」と真摯に受けとめている。
そのうえで、ヒョンデは秘策として、ディーラーを新規開拓するのではなく、メーカー側がお客様の声を直接聞くことができる、完全オンライン販売へと大きく舵をとったといえるのではないだろうか。
■ボルボもオンライン販売を導入していた
いわゆるオンライン販売については、例えばボルボ・カーズ・ジャパンが新型BEVの「C40 Recharge」を皮切りに実施している。
ただし、同社のマーティン・パーソン社長は筆者から「オンライン販売で、これから既存のボルボディーラーはどうなっていくのか?」という質問に対して、「オンライン販売といっても、最終的な売買契約はディーラーで行う」として、ディーラー網を現状のまま維持することを説明している。
そのほか、最近では中古車市場でもオンライン販売が進んできており、日系メーカー系のディーラー網で全国各地の在庫を閲覧して購入できるが、売買契約について書面でのやりとりがあるなど、完全オンライン化までには至っていない印象がある。
■「完全オンライン販売」ってメンテナンスはどうするの?
一方、ヒョンデの場合、売買契約と決済までオンラインで完結するという、完全オンライン販売となる。
購入した後、新車は購入者の自宅など購入者の指定する場所に納車され、メインテナンスについても全国の協力整備工場が対応する体制を整えている。
ディーラーがないという、本来ならば大きな弱みを、大きなビジネスチャンスに変える発想の転換だ。
オンライン販売については、自動車メーカー各社がその可能性について充分認識してきているのだが、既存ディーラーとの基本契約のなかで、どうしても「さらなる一歩」が踏み出せないというのが実状だと思う。
■2000年代と比べてみると?
では、肝心の『モノ』はどう変わったのか?
今回、ヒョンデが日本市場に導入したのはZEV(ゼロエミッションヴィークル)オンリーだ。BEVの「IONIQ5(アイオニックファイブ)」と燃料電池車の「NEXO(ネッソ)」の2モデルである。
一方、2001年から2009年までの、当時のヒョンデの日本市場向けモデルは、小型から高級車までフルラインナップだった。
具体的には、エントリークラスとしてはコンパクトカーの「エラントラ」、同ハッチバックの「エラントラユーロ」、SUVの「サンタフェ」、Dセグサルーンの「ソナタ」、上級セダンの「XG」、スポーツカーの「ヒュンダイクーペ」、そしてミニバンの「トラジェ」などだ。
■日本に再進出するヒョンデの勝機
2000年代といえば、ヒョンデがアメリカ市場で一気に頭角を現した時期だった。筆者はその様子を全米各地において肌感覚で捉えてきた。各種のメディア試乗会、またはレンタカーなどでヒョンデ、および同系メーカーのキアの各モデルを体験したが、マイナーチェンジやフルモデルチェンジによって、クルマのデザイン、動力性能、ハンドリング、乗り心地などすべてにおいて急激に品質が上がっていった。
北米市場でのヒョンデの勢いは、欧州やインド市場などでも広がり、グローバル企業としての存在感を示し始めていた。
そうしたなかで、日本市場進出となったわけだが、日本における輸入車のイメージに対して、当時のヒョンデのラインナップでは「日本車との違い」がユーザーにしっかり伝わらず、ユーザーが「日本車ではなくヒョンデを買う理由」が明確にならなかった印象がある。
それが今回のようなZEVオンリーとなると、日系メーカー各社にとっても、本格普及に向けたスタートラインに並んだ状態であり、ヒョンデとして「勝ち目がある」と考えるのは当然だ。
■独自の世界観あり
では、実際の乗ってみて、今回の『モノ』はどうなのか? すでに、各方面で「IONIQ5」と「NEXO」に関する試乗記事が公開されており、概ね高評価という印象がある。
筆者も、ヒョンデ・モビリティ・ジャパン主催のメディア向け試乗会に参加し、一般路、ワインディング路、高速道路などで、2モデルをじっくり乗った。
結論からいえば、「IONIQ5」には独自の世界観があり、日系、欧州系、米系のBEVとは一線を課するBEVである。
外観は、1974年発表の「ポニーコンセプト」がモチーフであることから、未来感だけではなく、どこか懐かしさを感じるところが魅力的だ。
インテリアの部屋感のアレンジも、人の生活を充分に理解している発想だと感じる。
■実際に乗って触って完成度の高い2台
さらに、なんといっても、走りがいい。リア駆動ベースのBEVとしてクルマ全体の一体感と、ワクワク感がとても強い。
「NEXO」については、事実上のライバルがトヨタ「MIRAI」のみという現状では、燃料電池車ユーザーの選択肢のひとつに成り得ると思う。
こうして改めて、2000年代と2022年代のヒョンデ日本市場での動向を比較してみると、今回のヒョンデは「まったくの別物」だ。
カーシェアのAnycaなどでの試乗も始まったので、ぜひ一度、体験することをお薦めする。
【画像ギャラリー】過去に日本で販売されたヒョンデのクルマと再上陸する2台を写真でチェック!!(34枚)画像ギャラリー投稿 今度のEVとFCVは間違いない!? ヒョンデ日本12年ぶり再上陸の現在と2001年を比較する は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。