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 東京と九州の間の移動は航空機や新幹線またはバスファン的には「はかた号」の選択がある。さらにもう一つの選択肢はフェリーだ。バスマガジンの記事だが今回は西鉄バスをトップランナーとしてフェリーでつなぎアンカーは都営バスという読み物記事だ。

文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)


1日で行く?2日かけて行く?

 九州側のフェリーターミナルは北九州市の新門司港だ。そして東京側は東京港と、最近開設された横須賀港からの便がある。新規航路は何かと話題でニュースになったので記憶に新しい方も多いのではないだろうか。横須賀発着は東京九州フェリーで、夜発翌日夜着で直行というダイヤだ。

オーシャントランスの「フェリーりつりん」

 そしてもう一つの昔からある航路は、東京港を夜出港して翌日に徳島港を経由し、新門司港には翌々日の早朝(逆向きも同じパターン)に到着するオーシャントランスが運航するオーシャン東九フェリーだ。今回は新門司港からオーシャン東九フェリーの上り航路に乗船した。

 同社の航路は暦上は2泊3日だが、実際に乗船している時間は35時間程度なので1.5日ということになろうか。乗船するためには新門司港に行かなければならないが、不便な場所で新門司を発着する船会社はたいてい小倉駅または門司駅から無料送迎バスを出している。公共交通機関はない。

新門司港までの送迎

 オーシャン東九フェリーの送迎は門司駅からのみなので、まずは門司駅に出向く。小倉・砂津から門司港方面の西鉄バス北九州の便が多く出ているのでこれを利用する。小倉駅からならばJR鹿児島本線の方が早いがそこはバスマガジン記者なので砂津から。

小倉営業所にはE高の5982が!

 砂津では夕方の時刻なので到着も発車も多く、向かい側の砂津バスセンターへは小倉営業所から多くのバスが出庫していく。小倉営業所には取材日現在はコロナのために運休している大分線「ゆのくに号」専用車(予備車)になっている北九州に1台しかない西工E型の社番5982の高速車が休んでいた。

 JR門司駅からは他のフェリー会社のように専用のバスがあるわけではなく、集合時刻に改札口横に係員が旗を持って待っているので乗船の旨を伝えるというもの。しかも無料ではなく320円の有料送迎だ。

門司駅改札前に掲げられた送迎の目印

 旗を見つけてその旨を伝え、運賃を現金で支払うと領収証なようなものをくれるので出発時刻まで駅のベンチで待つ。出発時刻になり「行きましょうか」と声がかかるが、待っていたのは記者ともう一人の計2名だけだった。そして送迎車両は普通の「タクシー」だった。

徒歩客は3名

 何のバスが来るのか楽しみにしていたのに、タクシーだったのにはおどろいた。この日は2名だけだったが、もし10名くらい来てしまったらどうするんだろうと思って聞いてみると、その時は無線ですぐに必要な台数を呼ぶということだったので積み残しは発生しないようだ。

門司駅からの送迎タクシー

 門司駅から新門司港までタクシー利用だと2000円から2500円程度かかるとのことで、その意味では320円の運賃は安い。この航路はそもそも徒歩客や一般利用をあまり見込んでいないダイヤに感じる。

 どちらかというとトラック輸送に特化した、渋滞にかからない早朝着ダイヤになっていることから、徒歩客は繁忙期以外は少ないのかもしれない。新門司港と言ってもかなり広く、船会社によりターミナルが分かれている。

案内書と乗船券とオマケのマスク

 もちろんタクシーはオーシャン東九フェリーのターミナル前に横付けされ、建物の2階で乗船券を購入・発券し3階からボーディングとなる。実際に乗船した徒歩客は3名だった。

クラス分けはシンプル

 この日の担当船舶は4隻ある同社の船舶の中で最も新しい「フェリーりつりん」だ。同社のフェリーの船室は大きく分けて2種しかない。2等洋室は個室ではないが大部屋に壁に囲まれた階段式2段ベッドが並ぶ個室感覚の寝台船室だ。

出港準備中のフェリーりつりん

 そして個室は2等運賃に4000円(新門司-東京間の場合)の個室料金で乗船でき、折り畳み2段ベッドが仕込まれている個室だ。最大で3名利用が可能なようだ。他に4名個室やペットが同伴できるwithペットルームとバリアフリールームがある。

 定員の違いはあれども基本的には洋室と個室しかなく、1名で個室を利用しても貸切料金は掛からない。よって記者は2等個室を利用した。個室かそうでないかの違いだけで、1等も特等もないので等級としては2等だけのシンプルな船室だ。カーペット敷きのいわゆる「雑魚寝」はない。

レストランがない

 本船のもう一つの特徴はレストランがないことだ。供食はすべて自動販売機での主に冷凍食品による提供になっている。アルコールを含むドリンクやおつまみ、パンやご飯、助六寿司からうどん・パスタまで多く取り揃えられていて、専用の業務用高出力電子レンジが並んでいるので指示されたレンジで調理して食べる。

2等個室は折り畳みの2段ベッドが設置してある

 コンビニ弁当等の持ち込みもOKなので、通常の家庭用電子レンジも備えてある。また緑茶・ほうじ茶・水は冷温両方がサーバーで無料提供されている。これらはアルコールを除いて24時間営業いつでも購入可能なので深夜でも好きな時間に食事をとることができる。

 アメニティも自販機で販売されていて、お風呂は展望大浴場があり、コインランドリーでは最新式のドラム乾燥洗濯機が備えられている。いずれも24時間利用可能だ。

うどんもおにぎりも冷食だが美味しい

 これらのことからオーシャン東九フェリーはセルフサービスにできるところはすべて省力化し運航費用を削減している。多くがトラックドライバーの乗船だろうが、一般乗船客がいたとしても自分で船旅がアレンジできるように工夫されている。

徳島港

 19時に新門司港を出港した本船は翌朝9時過ぎに徳島港に入港する。約2時間の荷役作業の後、11時過ぎに出港する。この航路では区間利用が可能なため、乗用車で下船する光景も見られた。

徳島港から発車する徳島バス

 また徳島から東京への利用は比較的あるようで10名前後が徒歩客として乗船したようだった。乗用車はもっと多かっただろうか。徳島-東京間は高速バスか航空機の選択になるだろうが、新幹線がないので本船の利用は北九州よりも現実的な選択になっているようだった。

 徳島港では入港時刻に合わせて徳島バスの路線バスや直行便のバスがターミナル前に停車するので、北九州側とは違いJR徳島駅への連絡はスムーズだ。ちなみに徳島港で南海フェリーに乗り換えれば和歌山港まで行くことができるが港が違う上、直接のバス連絡はないので途中で乗り換える必要がある。

ダラダラと昼下がりを過ごす

 徳島に停泊中の2時間に通しで乗船する旅客は下船できないので、展望風呂に入るなり、ターミナルのフリーWIFIをつかまえてロビーで仕事をするなり、それぞれの時間を過ごす。

日が落ちると月や星がきれいに見える

 上部甲板に出れば気持ちの良い海風に吹かれるので写真撮影をしたり海を眺めたりと、非日常を楽しむのもよい。ちなみに夜間の客室減光後はデッキに出ることはできないが、日が沈む時間にスマホを夜空に向けてシャッターを切ると肉眼では見えない満天の星空が写るのでちょっと感動する。

 昼間の航海は太平洋上なので海を眺めるしかないが、テレビを見たり(衛星放送も受信可)おやつを食べたりすればよいが、意外にもすぐに夜になるので早めに寝た方が良い。

 平日であれば東京港入港は0530で休日でも0600なので少なくとも午前5時には起床して下船準備をしなければならないからだ。記者が新門司港で乗船したのは金曜日だったので東京港の入港は日曜日。よって午前6時に着岸した。

JRバス関東のセレガで東京駅へ!

 東京港フェリーターミナルは東京ビッグサイトの隣の埋め立て地にあり、これまで公共交通機関はなく北九州と同様の方式で国際展示場駅まで独自の送迎を行ていた。しかしコミケの時に話題になったJRバス関東の路線が開設されたので東京駅まで乗り換えなしでバス移動できるようになった。

東京港フェリーターミナルで待っていたJRバス関東の日野セレガ

 下船後ターミナルビルの目の前に設置されたバス停にはすでにJRバス関東の日野セレガが待っており、記者を含めて3名の乗車があった。つまり他の乗船客は乗用車とトラックということになるのだろうか。

 乗車時に降車地を申告して運賃を支払う(ICカード可)のだが、2名がビッグサイトまでの乗車だったので、ビッグサイトから東京駅まではセレガを記者一人で貸し切った状態で走った。

 東京港フェリーターミナルを出るとビッグサイト、国際展示場駅前に停車して後は東京駅日本橋口までノンストップだ。日曜日の午前6時過ぎなので渋滞はなく終点には数分早く到着した。この始発便は本船の入港時刻に合わせて発車時刻が異なるので曜日による時間調整の心配はない。

アンカーは都営バス

 さて、東京駅日本橋口からJR線や地下鉄東西線は徒歩でスムーズに乗り換えができるが、都営バスにも横断歩道を渡るだけで乗り継ぎが可能だ。呉服橋停留所からは東22系統(錦糸町駅前行き)があるので、城東地区にはこの乗り継ぎが便利だ。

呉服橋に到着する都営バス東22系統

 残念ながら東20系統は廃止されるので今後の利用はできなくなるが、元々便数が少なく早朝には走っていないので不便はない。東22系統に乗車すれば東西線・都営大江戸線・都営新宿線・半蔵門線にも接続するので悪い乗り継ぎ方法ではない。

船旅は実は優雅

 今回、バスマガジンの記者のくせに「はかた号」に乗車しなかったのは個室が満席だったからで、はかた号はまたの機会にしたい。コロナの影響で運休路線が多い中で「はかた号」は元気に走っているので乗車したかったのだが今回は船旅にした。

東京港フェリーターミナルから見たフェリーりつりん

 2泊3日の船旅だが船上での楽しみといえば食べること。冷凍食品のどこが楽しみだと思われるかもしれないが、最近の技術はすごいので馬鹿にはできない美味しさだった。またWiFiがない環境で(沿海ではキャリアの電波は結構拾うので通信不可能というわけではない)、短時間ネットなし生活というのもいいものだ。

 何度でもお風呂に入っておつまみを片手にお酒を飲んで(缶詰もある)、満天の星空を撮影してとやることはいくらでもあるので、時間があれば船旅も楽しんでいただきたい。もちろん東京港発着はハイデッカーで!

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