楽天グループの三木谷浩史会長兼社長が岸田政権の水際対策に対する批判をヒートアップさせている。外国人の新規入国を原則停止にしている現行の水際対策の見直し論もあった中で「江戸の鎖国を彷彿」「判断があまりに非論理的」などと連日ツイッターで酷評している。
ただ、水際対策は、三木谷氏が不満を爆発させる直接のきっかけに過ぎない。岸田政権が誕生して以来、株式市場では規制改革に後ろ向きとの印象が強く、新興市場の株価は下落の一途。三木谷氏以外にも岸田首相の政治姿勢に不満を募らせる投資家や新興のベンチャー経営者は多い。
三木谷氏の水際対策への批判は今週に入って加速している。10日にはツイッターで「現在の水際対策は江戸の鎖国を彷彿させる。特に新規外国人の入国禁止、ホテルでの劣悪な監禁は見直して欲しい。世界のどこかにコロナはあり、国境は必ず開かなければならない」と苦言。このとき一部報道で、政府が水際対策をもう少し柔軟にするのではないかとの見方も浮上したが、岸田氏は結局2月末まで、外国人は現行通り新規入国を停止する方針を表明。その直後、「判断があまりに非論理的すぎる」と失望をあらわにした。
さらにここにきてサッカー日本代表の国内組選手への隔離措置も三木谷氏の苛立ちを爆発させた。国内組選手は、国内の試合にもかかわらず、政府とサッカー協会の方針で、2週間の隔離措置を義務付けられた。三木谷氏がオーナーのヴィッセル神戸は、大迫勇也、武藤嘉紀の両選手を代表に派遣しているが、シーズン前の貴重な2週間、所属クラブに合流できず、「移動の自由、人権、営業権の侵害だ」と猛反発。
一方で、海外クラブから来た選手は、所属先の国の方針で日本ほど隔離措置が厳しくなく、短期で復帰していることも問題視。「頭おかしんじゃないの?」(原文ママ)「そもそも政府に日本にいる人間がサッカーの代表戦に出たというだけで、行動を制限する法律的な権利はないと思う。裁量行政の濫用だ」と痛烈に言い放った。
新しい資本主義は「単なるポピュリズム社会主義」
振り返れば昨秋の自民党総裁選、三木谷氏は、「小泉改革以降の新自由主義的な政策の転換」を掲げた岸田氏を全く評価しておらず、対抗馬の河野太郎氏の投稿をリツイートするなど明らかに“河野推し”だった。当時の河野陣営には、衆院選で三木谷氏が応援演説に駆けつけた議員も参加。河野氏は、規制改革を中心に三木谷氏の方向性と一致するところが多かったが、結局、岸田氏が総裁選に勝利して国のトップに。
その岸田氏は施政方針演説に「規制改革」や関連用語を盛り込まないという過去40年でも異例の姿勢を示し、分配を重視する「新しい資本主義」を政権の看板政策に掲げた。これにも三木谷氏は政権発足直後から、「単なるポピュリズム社会主義にしか聞こえないのは僕だけではないと思う」と苦言。
岸田政権のもう一つの政策的柱である経済安全保障政策についても、「名目にして政府の統制経済化を進める気ではないか」(三木谷氏周辺)と警戒している向きもあるようだ。
もちろん、岸田政権が「反改革」と言い切れない面もある。地方創生にDXを掛け合わせた「デジタル田園都市国家構想」を掲げ、その実現会議に参加した民間有識者の中には、岸田氏が敵視しているはずの「新自由主義」の筆頭論客といえる竹中平蔵氏が名を連ねた。このときは「岸田首相は何をやりたいのかわからない」との困惑の声があった。新興企業の後押しについても、年頭記者会見で「本年をスタートアップ創出元年として、「スタートアップ5か年計画」を設定して、スタートアップ創出に強力に取り組む」「公的出資を含めたリスクマネー供給の強化、公共調達等の大胆な開放、海外展開への徹底的支援、株式公開制度の在り方の見直しなど総合的に取り組む」と力説した。
「サラリーマン社長型宰相」支持率上昇の裏で…
それでも岸田政権への不満は、経済界の中でも新興企業の経営者や投資家の間では根強いものがある。岸田政権が発足した昨年10月以降、東証の株価は2万円近くを推移しているものの、新興のマザーズは1100円から下落の一途をたどり、880円にまで後退。政権の政策だけが理由ではないが、投資家が力強さを感じていないは確かだ。
昨年12月には、SBIホールディングスの北尾吉孝社長が記者会見で「(岸田首相は)成長と分配の好循環というが、まずはどうやって成長に繋げるのか」と疑問を呈した。また、近年上場したネットベンチャーのある経営者は「岸田さんは典型的な日本のサラリーマン社長。敵を作らないように無難に、無難にやろうとして何もできなくなりそう」と懸念する。実際、感染症法改正案や出入国管理法改正案など、タイムリーな重要性があっても、野党と揉めそうな法案の提出は見送られる公算だ。
しかし、経営者や投資家の評価と、一般大衆の評価はまるで違うのも事実だ。NHKが最新の世論調査で、岸田内閣の支持率は7ポイントも上昇。野党は総崩れ状態だ。首相がこのまま「無難」「懸案先送り」に終始すれば、三木谷氏らを筆頭に岸田政権への不満は、鬱積しそうだ。
ただ、「岸田一強」は盤石とも言えない。前述の経営者は「菅さんにもう少し首相をやってほしかった」と嘆く中で、永田町では、菅氏が今春、政策グループの立ち上げをするのではとの観測が絶えない。総裁選で河野氏を支援した中堅議員の1人は「いずれどこかで改革勢力の結集をはかることになる」と、水面下で模索する。菅氏が派閥再編に乗り出し、政局を動かし始めると、待望論が加速する可能性がある。