2022年2月28日に判明した、小島プレス工業へのサイバー攻撃。トヨタ自動車に内外装部品を提供するサプライヤーがサイバー攻撃を受け、システムに障害が発生した。この影響により、3月1日、トヨタ自動車が国内に有する全ての完成車工場(14工場28ライン、日野自動車の羽村工場とダイハツ工業の京都工場を含む)が稼働を停止している。
コロナなどの影響で減産が続く自動車生産にとって、今回のようなサイバー攻撃は、新たな脅威となるだろう。先日のサイバー攻撃はどの程度、新車の納期に影響を与えたのか、販売現場を取材した。
文:佐々木 亘
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■操業停止の影響はどの程度?
今回のサイバー攻撃による完成車工場操業停止で、生産遅れが発生したクルマの台数は、約1万3000台だ。
全完成車工場がストップしたため、その影響は全車種に及ぶ。自社内で生産しているトヨタ・レクサスはもちろん、日野の羽村工場で生産されているランクルプラドやダイナ、ダイハツで受託生産されるプロボックスやOEMのピクシスシリーズ、パッソ、ルーミー、ライズまで影響は及ぶ。
製造工場では、丸1日分の仕事がなくなったわけだが、通常通りに従業員は出社しているようだ。一例としてトヨタ自動車東日本(宮城県大衡村)では、岩手工場の2ライン、宮城大衡工場、宮城大和工場が停止したが、3工場の従業員550人は通常通り勤務し、工場稼働時には行えない、作業効率化「カイゼン」などに取り組んだという。
■1日の停止では、販売店への影響は大きくない
実際に1万3000台の生産が遅れたが、今回の稼働停止はわずか1日で済んだ。そのため、ユーザーが注文した新車の納期が大幅に遅延するということは無いだろう。
実際に販売店で話を聞いても、サイバー攻撃による納期の大幅な変化は起こっていないという。元々コロナの部品不足によって、3月に稼働停止を決めている工場は多く、そちらの影響の方が大きいと話してくれた。
工場自体は生産台数を高めるため、かなり臨機応変に動くようで、3月1日の稼働停止分を、どこかに振り替えて、遅れを取り戻す動きも出てきているという。
また、工場から販売店までクルマを輸送するために必要な「リードタイム」を、どこかで1日短縮することによって、製造の遅れを取り戻そうとする動きもあるようだ。いずれにしても、製造現場はコロナによる大幅減産となった遅れを取り戻そうと必死の様相だ。
今回のサイバー攻撃の影響を強く受けるのは、直近1か月で納車になるクルマたちだ。生産が1日遅れたのは事実であり、輸送タイミングによっては、1週間程度の遅れにつながる可能性もある。ただ、納期が3か月以上先というユーザーには、サイバー攻撃による1日だけの稼働停止の影響は限定的だ。
製造・輸送・販売のどこかで、1日分の遅れを取り戻すための取り組みが続いている。血のにじむ努力で、1日も早く新車を届けたいと動き続ける方々には、ただただ頭が下がる思いだ。
■カンバン方式やジャストインタイムの弊害か?
トヨタの工場といえば、カンバン方式やジャストインタイム(JIT)という手法が有名だ。トヨタ生産方式の2本柱がJITと自働化であり、そのツールがカンバンである。
簡単に言えば、過剰な生産を行わず、過剰な在庫も持たない。必要なものを、必要な時に、必要なだけ供給することで、ムリ・ムダ・ムラな状態を発生させないというものだ。生産量に対する在庫量が適切に管理される。
部品在庫を持たないことや、綿密なシステム管理が、今回のサイバー攻撃による工場稼働停止を生み出したという見方もあるが、稼働停止の直接的な原因とは結び付かないと筆者は思う。
東日本大震災以降、トヨタの工場における部品在庫の数は増えたと聞く。部品供給がカツカツの状態で作る徹底的な効率化が本来の姿だが、それだけでは有事の際に対応が出来ないと判断したのだろう。一部のサプライヤーから供給が止まっても、数週間は動けるだけの体力を持っているのが、今のトヨタ生産の本質だ。
したがって、今回の小島プレス工業へのサイバー攻撃では、工場を全面停止させるほどの威力は無かったのではないかと考える。しかしながら、不安定な世界情勢を鑑み、日本の工業全体への警鐘を鳴らすために、全面停止という措置を取ったのではないだろうか。
大企業の本体が狙われなくても、下請けや孫請けが攻撃を受け、製造が止まるケースはトヨタ以外にも考えられる。こうした状況が、他の業種、会社に起こらないよう、「気を付けないとダメだぞ」と、意識させたようにも感じるのだ。今回の衝撃的なニュースに、ふんどしを締め直した企業も多いだろう。
大手メーカー以外でも、どこがサイバー攻撃を受けてもおかしくないこのご時世。攻撃を受ける前提で、問題をカバーできる体制をしっかりと作り、企業活動・経済活動への影響を最小限にとどめたいものだ。
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