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元日産エンジニアも参考に!? 「このメーカーの技術、うちにも欲しかった」クルマ 3選

 筆者は、日産で12年ほど、FR車の運動性能設計の開発に従事していました。開発にあたっては、もちろん他社車の状況を知る必要があるため、競合車を乗り比べるのですが、「なんとかこれを日産で実現できないものか」と感じたことは何度もありました。

  運動性能設計が専門ということもあり、ハンドリングや乗り心地、という偏った視点にはなりますが、筆者が日産で開発業務に携わるなかで感銘を受けた他社車3台をピックアップし、何がよかったのか、ご紹介したいと思います。

文/吉川賢一、写真/ベストカー編集部、BMW、Audi

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フォルクスワーゲン ゴルフ7(2013~2021年)

VWゴルフ7の最終型にあった最上級グレードの「マイスター」。デザインに華やかさはないが、落ち着いた雰囲気の内外装の質感が高かった。特に、ベージュ本革でまとめられたシートが超秀逸。運転フィールも素晴らしく、静かで速い、乗り心地も良い、FFハッチバックの見本だった

 まず取り上げたいのは、平成25年(2013年)に登場したフォルクスワーゲンのゴルフ7です。前型であるゴルフ6(2008年に国内導入)から、新規プラットフォーム「MQB」へと更新したことで、動性能が飛躍的に向上したモデルとして、印象に深いです。

 正確で安定感の高いハンドリング、クラスを超えた快適な乗り心地、静粛性、室内の使い勝手、優れた燃費、最小回転半径5.2m、そしてコストパフォーマンス。なかでも、16インチタイヤを装着したTSIコンフォートラインが秀逸でした。タイヤは貧弱でも、完成度の高いシャーシのおかげで、誰が乗っても馴染みやすく、快適性が高いことが伝わってきます。

 日産時代には、サスペンション(フロントストラット式、リアマルチリンク式)、ステアリングシステム(デュアルピニオン式EPS)、そして車体の剛性感(構造用接着もいち早く導入されていた)など、詳細に分析し、ゴルフがいいと感じる理由をかなり研究しましたが、ボディ構造に使われているメンバーやピラーの板厚が厚かったり、ステアリング系が強固につくられていたりと、すべてがオーバースペックにも感じる高剛性な構造となっていました。当時の日産のハッチバックとは造りが全然異なり、キャッチアップするのは相当厳しいことは、見てすぐに分かりました。

 ちなみに、ゴルフ7のプラットフォームを流用した新型ゴルフ8は、デジタルなインテリアによる先進性は感じられますが、動性能だけを見れば進歩の幅は小さいように感じ、ゴルフ7の最終型「マイスター」が、現時点の「ベストオブゴルフ」と筆者は感じています。

BMW 330i E46(1998~2006年)

E46型の330iは、「ズシリ」と重たいハンドル、路面にあるすべての段差の大きさが分かるほどに絞められた足周りだが、圧倒的に高い高速直進性と、コーナリングシーンでの操舵の正確さは今でも忘れない

 BMWが掲げるブランドキーフレーズ「駆け抜ける喜び」を、筆者が初めて味わったのが、E46型330iでした。そのときは、研究開発の一環で、V35スカイライン、メルセデスCクラス(W203)、アウディA4(B6)などの4ドアのコンパクトセダンをいくつか乗り比べていたのですが、E46型のBMW 330iだけは異質でした。

 パワステが効いているはずなのに「ズシリ」と重たいハンドル、路面にあるすべての段差の大きさが分かるほどに絞められた足周り、外見は地味目で、インテリアも木目調でオジサンくさい。でも、圧倒的に高い高速直進性と、コーナリングシーンでの操舵の正確さ。そして、ストレート6の滑らかなエンジンフィーリング。

 過激な「M3」でもない通常のカタログモデルで、こんな尖りを持ったスポーツセダンがあるのかと、運動性能設計を専門とする筆者としては、驚きをこえて、感動したことを覚えています。

 BMWが出す新車は、必ずベンチマークに入れていた当時の日産でしたが、E46は万人にとって乗りやすいクルマでは決してなく、「走りの良さを望む玄人」好みのセッティングでした。同乗させてもらったテストドライバー達と、「いいねー」と堪能し合っていましたが、多用な考え方がある社内では、決して受け入れられるものではありませんでした。

 現代のBMWは、ハンドリング、乗り心地、NVH(音振)、燃費に至るまで、道具としてはパーフェクトなクルマばかりです。昔のクルマは、ダメなところはあったけれども、そのおかげで良いところがより際立っていた。「個性」が強烈だったので、そこにクルマ好きがときめいていたんじゃないかなあと、BMWに乗るたびに、思い出します。その後も日産時代は、常にあのE46の感動を目指して、研究開発に取り組んでいました。

アウディA6(2011年~)

研究開発の一環で試乗し、感激したアウディA6 3.0 TFSI クワトロ。路面の突起を丸くなめるような乗り心地で、しかもロードノイズも小さく、長距離を移動するシーンでは、実に快適だった

 アウディA6も感銘を受けた一台です。今では高級車の世界でも、4WD仕様を用意するのは当たり前になってきましたが、4WDの絶対的な信頼性と高級車の快適性を、高い次元で両立したクルマとして、記憶があります。当時試乗したのが、3.0 TFSIクワトロ。正直なところ、価格が1000万円強と高いこと以外に、欠点が見つかりません。

 ハンドリングは実に秀逸、滑らかなステアリングフィールと、適切な操舵力&補操力でコントロールがしやすく、また、19インチタイヤを履いていましたが、突起を感じさせない乗り心地と、ダンピングが適切に効いた上品な足回り、ワイドなボディのおかげで、ロールをしている感じがしません。ロードノイズも極わずか。異次元の快適性と安定感の高さを、大いにうらやましく感じたことを覚えています。

 現代のような、先進運転支援はまだ時代でしたので、クルマ本来が持つ安定性や直進性が重要でしたが、FR車の先行技術開発をしていた筆者としては、優れた4WD車の前では、FR車はどう工夫しても敵わないことを、まざまざと見せつけられてしまった一台でした。

■まとめ

 FFならばフォルクスワーゲンゴルフ、FRならばBMWかメルセデス、4WDならばアウディ。運動性能分野のエンジニア視点ですので、多少偏ってはいますが、今回あげたような、いまだに忘れられないクルマに出会えてきたのは、今の仕事に大いに役立っています。このさき、あと何台の名車に出会えるのか、そして新たなベンチマーク車が何になるのか、非常に楽しみです。

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