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<p>『トライアングルストラテジー』レビュー。思い出の輝きに現在はいまだ追いつかず – AUTOMATON</p><p>【レビュー・インプレ】『トライアングルストラテジー』レビュー。思い出の輝きに現在はいまだ追いつかず</p><p>『トライアングルストラテジー』レビュー。思い出はいつだって美しい。それでも、私達は今に生きていることを忘れてはいけない。</p><p>「昔懐かしいゲーム体験を最新の技術で提供する」。デベロッパーとして、パブリッシャーとして、ここ数年におけるスクウェア・エニックスの活動から読み取れる傾向のひとつだ。旧作のリマスター作品をはじめ、『オクトパストラベラー』や『ブレイブリーデフォルト2』、『アクトレイザー・ルネサンス』 、現在開発中にある『HD-2D版 ドラゴンクエストIII』、『ライブアライブ』のリメイクなど、同社がかねてより得意とする分野、特に古典的な特徴を持つRPGを現代風にアレンジすることにより、販路を拡大していきたいという狙いが見て取れる。 そして『 』もまた、同じ流れを汲む作品のひとつである。『タクティクスオウガ』『ファイナルファンタジータクティクス』など、スクウェア時代に傑作と評価されたシミュレーションRPGの因子を色濃く受け継ぐ本作は、「古典の魅力を現代に届ける」というミッションこそ十分に達成できている。だが「現代に登場するにふさわしい水準に達している」と言われれば怪しい。ユーザーインターフェースの進化が古典のまま今に追いついておらず、未来に向けての挑戦に関しても十分になされていないきらいがある。 『トライアングルストラテジー』は古典主義の作品として登場したのではなく、古典を蔵から直接持ち出したかのような、煩わしい埃をかぶった作品になってしまっている。思い出はいつだって美しい。それでも、私達は今に生きていることを忘れてはいけない。 『トライアングルストラテジー』はスクウェア・エニックスより2022年3月4日に発売されたシミュレーションRPG。塩と鉄の利権をめぐり3国が争いを繰り返してきた「ノゼリア」大陸を舞台に、信念と正義が紡ぐ英雄譚を描く。スクウェア時代の傑作シミュレーションRPGの遺伝子を引き継ぎつつも、目玉となるシステムとして、プレイヤーの振る舞い次第でストーリーが分岐する「信念の天秤」を掲げている。 メリハリのある素晴らしい戦闘と、ツメの甘いUI スクウェア時代のシミュレーションRPGを親とするであろう本作の戦闘は、「箱庭状で高さの概念があるマップ内で行う」「速度のパラメータに基づいて順番にユニットが行動する」という外見こそそっくりではあるものの、絞る箇所を絞り、鍛える箇所を狙って鍛えることで、メリハリの効いたやりごたえ十分の体験、それこそ「制作者に対しプレイヤーが挑戦する」懐かしい体験を提供することに成功している。 かねてよりシミュレーションRPGの課題は、客観的な視点から物事の推移を楽しむウォーゲームと、主観的な視点から個人による行動の差分を楽しむRPG要素が衝突してしまうという点にあると考えている。たとえばウォーゲームの祖先にあたるチェスは、駒……ユニットの性能と数が固定化されていることによって、用意されている情報を客観的な視点から読み取り、フル活用しなければ勝てない仕組みとなっている。しかしRPGはプレイヤー毎の差分を楽しむものだ。 つまりRPG要素を取り込んだことで、用意された情報をフル活用するかどうかをプレイヤーに委ねる仕組みになっている。結果、性能いかんによっては一切使用しないユニットが出てしまったり、ステータスの暴力によって作り込まれたステージが崩壊するなど「デザインしたのに意味がない」という事態に陥ってしまうことがある。 この状況を打開したことで有名な作品といえば『XCOM』シリーズと『ファイアーエムブレム』シリーズだろう。両者ともに、ランダム性のある戦闘に彩られた難易度へ「ユニットロスト」の仕組みを取り入れることにより、育てたユニットに対する個人的な思い入れを生み出し、死なせないためならば用意されたものをフル活用しなければいけない、というプレイングを引き出している。客観と主観の両立だ。特にシリーズ最新作にあたる『ファイアーエムブレム 風花雪月』はこの性質が顕著に現れている作品である。 では『トライアングルストラテジー』はというと、RPG要素を簡素な形にすることでこれを解決している。本作に登場するユニットはすべて得手不得手が予めはっきりしており、装備品で多少なりともステータスは底上げできるが、育成を通じて弱点をカバーすることはできず、持ち味を変更することもできない。また、ステージごとにユニットの推奨レベルが設定されており、これを越えるまでレベリングすることは難しくなっている。残るRPG要素は「仲間になるユニットがプレイヤーの選択によって異なる」くらいである。 さらに敵のAIが優秀で、地形を活かした攻撃や、状態異常の付与、傷ついた味方の回復を積極的に行う傾向がある。よってレベル差による一騎当千は不可能であり、ユニットの選出時点で勝敗が決するため、プレイヤーは満遍なく育成を行わなければならない。ただこれは、育成で特徴を変更できる点がほとんどないことも合わせ、とりあえず何も考えずにフリーマップで仲間を全員レベリングして備えろという意図も汲み取れる。 「TP」というリソース管理も興味深いシステムだ。これは『オクトパストラベラー』で使われた「BP」システムのアレンジであり、1ターンに1ポイント、ユニットの強化次第で最大5ポイントまで貯めることができる。このリソースを一度に消費すればするほど強力なコマンドを使用することができる仕組みなのだが、通常攻撃以外のコマンドはすべてTPを使用しなければならないため、強力な技を使用したあとに、ターンをスキップするユニットが出てしまうということもある。先述した敵の傾向も相まって、大技を出したのに回復されて行動が帳消しになる、せっかくTPを貯めたのに行動阻害を受けて動けずコマンドを当てられないといったことも日常茶飯事である。勘の良い読者の中には「じゃあ敵味方のTP増減ができるユニットを必ず投入すれば解決するな」と考えた方もいるだろう。たしかにそういった特徴をもったユニットは存在するが、TP増減しかできず盤面に影響を与えることができないという点がミソである。 マップを観察し、高低差やギミック、ボスユニットに適用できる状態異常を確認。我が軍に所属しているユニットから攻略に適したメンバーを選出する。タンクと回復役は何枚必要か、魔術師の属性相性は大丈夫か。魔術師を出すならTP調整役も出したい、だが枠の都合上無理だ……なら弓兵を出そうか……前衛、後衛、遊撃部隊の配分調整。 実際に戦う段階に移れば、TPコントロールを通じた、巧妙な差し引きの腕が問われる。どこで大技を仕掛けるか、敵を誘い込むか攻めるか、先の先にある勝利を掴むために何ができるのか、連続する選択肢に適切な判断を下していく。熟考が必要となるメタゲームからはじまり、勝利条件を満たすまで緊張の糸が緩むことのない『トライアングルストラテジー』の戦闘は、入り口となるRPG要素を簡素にしたことで、「古き良き」高難易度と挑戦の手軽さを両立している。 また、本作はシナリオが進行するパートの量と比較すると戦闘を行う時間が少なく、マップのバリエーションも多くない。それでもこの難易度のおかげで、戦闘に関して物足りなさを感じることはなかった。筆者は本作を終始「Normal」の難易度でプレイしたが、数回はゲームオーバーになってしまうくらいに歯ごたえのある内容であった。ただゲームオーバーになったとしても、その戦いで上昇したレベルがリセットされないのはありがたい。育成要素と合わせ、シミュレーションRPGに馴染みのないユーザーでも、高難易度に対し挑戦を繰り返すことがストレスになりにくいアプローチである。 ただ残念なのは、この素晴らしい戦闘体験を支えるためにあるはずのユーザーインターフェース群があまり良い出来栄えではないことである。要素と要素をつなげるための導線が弱く、デザインの意図も伝わりづらい。結果、システムの構造を理解するために時間や手間がかかる仕様になってしまっている。せっかく高難易度に対する手軽さを担保しようとしているにも関わらず、このUIのせいで入り口に進んだ時点から躓いてしまう。 たとえばキャラクターの強化を行う「詰め所」は、パッと見ただけでどこに何の要素があるのか分からない。鍛冶屋なら鍛冶屋らしい、ショップならショップらしいアイコンがどこにも存在しない。唯一フリーバトルマップ「想定バトル」への斡旋所として酒場が存在しているが、酒場=斡旋所の認識につなげられるのは中世風ファンタジーに触れたことがあるユーザーくらいではないか。経験値稼ぎとなるフリーバトルマップの存在意義も説明されることはない。軍事演習など、メインに対するサブを強調するネーミングのほうが良いと思われる。 これを乗り越えて鍛冶屋の強化メニューを開くとユニットが一覧で表示されるが、強化項目がいくつかあるなかで、なぜか最初の画面で「武器が強化できるユニット」しかハイライトされない。次のメニューに進むと強化可能なユニットが一覧でハイライトされるのになぜひと手間入れるのかよくわからない。2つの強化項目を切り替えられる要素も分かりづらい。 UIは戦闘でも課題を残す。戦闘に移るとまず問題になるのはユニットを操作する時点において、「今どの段階にいるのか判別しづらい」ことだ。ユニットの操作は「移動orコマンド→選択しなかった方の行動→方向調整」という流れになっているが、段階を示すウィンドウメッセージや動きを止めるストッパーが存在しないため、操作途中に今どの段階にあるかを再確認したり、方向を調節できずにターンを終える事故が発生しやすい。 一方で、ゲームの速度を速めるにはボタンを長押しし続ける必要がある。プレイヤーが楽をするための機能を使うためにプレイヤーに負担をかけている本末転倒な仕様である。「切り札」という、文字通りゲームメイクを有利に進めるためのバフコマンドにアクセスしづらいのも問題だ。なぜかメインの画面から直接アクセスできず、「ゲームを中断する」項目が並ぶメニューから選ぶことになる。デザインの意図が伝わってこない。 戦闘については、ビジュアルを高めるためのHD-2Dが時折悪い方向にも影響していることにも触れておきたい。本作はオブジェクトに透過処理がなされていないため、マップ内のオブジェクトだけでなく、カメラの位置によっては背景にユニットが隠されて見づらくなってしまう。2Dを採用している都合上、カメラが勝手に移動してしまう角度もあれば、俯瞰視点から見た際に地面の鮮やかな光彩とユニットの色味が喧嘩して、視認性が悪くなることもある。 以上の指摘は、幸いにしてゲームプレイを崩壊させるには至ってはいないものの、周回プレイを前提とし、完結までそれなりのプレイ時間を要する本作において、ゲームのテンポを遅らせ、モチベーションをゆっくりと削いでいく。醍醐味たる戦闘体験が素晴らしい出来栄えであり、ジャンルに馴染みがないユーザーにも遊びやすい仕様になっているにもかかわらず、それを支える柱がおざなりになっているという状況は非常にもったいない。ゲームデザインとして古典主義を採用することは悪いことではないが、あくまでそれは先達に対するリスペクトの姿勢を取ることであって、ユーザーにデザインの意図を納得させられない古臭さを「味がある」と曲解することではないのだ。 王道を征く骨太ストーリーと十分に活かせていない今らしさ SRPGの魅力といえばタクティカルな戦闘だけではなく、ウォーゲームというゲームデザインに準拠した設定のもと描かれる物語もまた欠かせない。『トライアングルストラテジー』のストーリーは架空の中世ヨーロッパ風の世界「ノゼリア」地方を舞台に、塩と鉄資源と奴隷、そして流通網をめぐる大戦を素材とした「昔ながらの」軍記物である。物事がまったく思い通りにゆかない乱世のなかで、「信念」とは何かを問う群像劇がじっくりと語られる。中身としては至って王道であり、我欲の薄い大名家の跡取り息子である主人公と、何かしらのエゴを内に秘めたキーキャラクターたちという対比構造を用いながら展開していく。「塩と鉄資源と奴隷、そして流通網をめぐる大戦」という我々の歴史の中でも実際に戦争の原因となる要素をモチーフとして採用し、可能な限り独自の造語を削る作風であるため、物語が展開を繰り返していても、ユーザーとしてはリアリティを強く感じ没入しやすく、内容の理解もしやすい。 また、読み応えもしっかりしている。物事が推移する理由やキーキャラクターたちひとりひとりにしっかりとスポットライトが当たる丁寧な作劇であることはもちろんのこと、千住明氏が手がける重厚で人間の感情を揺さぶる素晴らしい劇伴の存在、そして役者陣の真に迫る演技の数々が、本作の物語に厚みと奥行きを与えている。背景設定を語る資料が多いのも歴史を扱った物語として好印象だ。盛り上がりの絶えない本作の物語は、思わずやめ時を失ってしまう面白さであり、分岐要素も相まってリプレイ性も高い。 一方で、本作の目玉である「信念の天秤」とマスクパラメータによる物語の分岐に関しては機能していないとはいえずとも、挑戦に対し及び腰になっている印象を受ける。本作ではアイテムの売買や戦闘中に採用する戦術など、ゲーム中におけるプレイヤーの一挙手一投足によって、プレイヤーに分からない3種類のマスクパラメータが増加する。これによって中途加入するユニットや物語の分岐に大きな影響があり、時には選んだ分岐とは異なる方向に物語が分岐する……はずなのだが、筆者のプレイ中では特に影響が感じられなかった。予想を裏切る展開がまっていたのはエンディングまで1度だけだった。 なぜなら、マスクパラメータが上昇する典型的な機会となる会話中の選択肢が綺麗に3者3様に別れており、パラメータの増減がある程度プレイヤーにコントロール可能なのだ。分岐を行う上で、選びたい分岐と異なる意見を持つキャラの説得も難しくない。そのためプレイヤーの思い通りに分岐を進めることが簡単にできてしまった。プレイヤーの振る舞いを通じて思い通りの分岐ができなくなるという「信念の天秤」のコンセプトは、物事が思うように推移しない乱世において、民主主義的な手法を採用している主人公陣営、我欲のない主人公のキャラクターを引き立てる要素という形で、ストーリーに大変噛み合っている仕様であり、アドベンチャーゲームライクなシステムデザインとしても興味深い。 だが、見方を変えるとプレイヤーの望んだ選択を行うことができなくなる場合が発生するため、ストレッサーになる可能性がある。そうしたリスクを回避したのだろう。調整に難儀したことが伺えると同時に、コンセプトの達成は十分にできていない印象である。(ちなみに、クリア後になるとマスクステータスの増加に関する情報がすべて明らかとなる。よって周回プレイの際に思い通りの分岐に進むことができない、ということはない。) もうひとつの目玉であるHD-2Dについても活かしきれていない。先述したように戦闘中の邪魔になってしまうほか、古さにこだわるあまりキャラクターアニメーションの種類や華やかなエフェクトに乏しいため、カットシーン、特に戦闘シーンが演出不足に陥っている。素晴らしい劇伴や役者の演技に絵が追いついておらず、きらびやかな背景だけが悪目立ちしている。マップの種類が乏しいことも相まって、盛り上がる場面になったとしても、既視感が漂う場面が多い。 また、一部の場面転換をサブストーリーとして分ける必要性も感じられない。本作は1話が長く、演出不足も相まって、冗長な印象を持たれる危険性がある。だからこそスキップ可能な場面として分けたのだと推測するが、濃密な戦闘体験がカンフル剤として機能しているため、この心配は杞憂に終わっている。場面転換をサブストーリーに分けた結果、ゲームが進行するテンポが悪くなっており、周回プレイを推奨する作風に対して悪影響を与えてしまった。マップを自由に探索できるRPGパートに関しても同様にテンポを悪くし、マップの予習以上の面白さや意義を感じることができなかった。 「昔懐かしいゲーム体験を最新の技術を通して楽しんでほしい」というスクウェア・エニックスの古典主義的な試みは、少なくとも若輩者である筆者にとって歓迎したいものだ。私が生まれる以前より名作と呼ばれるゲームは数々誕生しているが、対応するハードウェアを用意することが難しく、何より現在のゲーム体験になれてしまったせいで、当時の空気感を共有できず、遊びとして正当な評価ができずにいる作品は山ほどある。だからこそ「昔ながら」の体験を最新のゲームデザインに合わせた形で、それこそ『トライアングルストラテジー』のように面白く楽しめる形で提供してくれるのは非常にありがたい。自分のような人間と古典を遊び尽くしている人間が話題を共有して議論を楽しく交わすことができるのも、こういった試みのお陰である。 ただ「最新の技術」という点においてまだまだ改善の余地があることになったのは残念だ。これからも『ライブアライブ』リメイク、『HD-2D版 ドラゴンクエストIII』 など、この古典主義は続いていく。将来的には懐かしさを通じ、スクウェア・エニックスらしい「新しさ」を私達に見せてほしい限りである。思い出はいつだって美しい。それでも、私達は今に生きていることを忘れてはいけない。</p>