三幸製菓工場火災 11日で1カ月
2月11日深夜に新潟県村上市長政の三幸製菓荒川工場で6人が死亡し、1人が負傷した火災は11日で発生から1カ月となる。同工場で清掃業務中に亡くなった近ハチヱさん(73)=胎内市=の長男(48)はいまだに現実を受け入れられずにいる。女手一つで育ててくれた母はなぜ犠牲になったのか。悲しみとともに憤りが募る。
「母でもあり父でもあった。弱音も吐かず一人で育ててくれた」。長男は2歳の時、父を交通事故で亡くした。以来ハチヱさんが長男と妹を育てた。「いつも自分のことより人のこと。母は誰かが喜んでくれる姿を見るのが好きな人だった」と涙ぐむ。
火災があった11日夜の翌朝午前5時ごろ、当時火災現場にいた従業員が長男の自宅に駆け付けた。「大変だ、大変だ。お母さんが出てこないんだ」と告げた。何が起こったのか理解できなかった。会社から連絡があったのはその後、午前5時半ごろだった。
ハチヱさんは月~土曜日の午後9時半ごろから数時間、同工場で清掃のアルバイトをしていた。「いつも仕事が楽しいと言っていたし、仲のいい同僚が多くて、職場が好きだった」。長男夫妻は共働きのため、毎日、出勤前にハチヱさんが用意した夕食を、孫も一緒に4人で食べていた。
当たり前だった家族の幸せが突然奪われた。「未然に防ぐことができなかったのか。あの日何が起こったのかを伝える気持ちが三幸製菓には本当にあるのか」
「まだ笑い声が聞こえる気がする。扉が開けば母が帰ってきたかと思う」。長男には、いつも明るく笑顔があふれていた母を亡くした実感が、今も湧かない。
誰とでもすぐに仲良くなり、人を喜ばせるのが大好きだった。趣味の山菜採りに行くと近所の人に配ったり、引っ越しをしてきた人に声を掛けたり、学校帰りの近所の子どもに「学校どうだった」と声を掛けたり。通夜の前の一般参列には多くの友人らが訪れ、誰からも愛されていたハチヱさんの人柄を物語った。
孫娘への思いも強かった。17日に開かれる大学の卒業式を前に、ずっと積み立ててきたお金ではかまを用意していた。「いつも、孫と一緒に入学式や卒業式の写真を撮るのを楽しみにしていたけれど」
火災から1カ月となるが、三幸製菓の経営陣はいまだに記者会見を開かず、謝罪や説明の場も設けていない。「毎日、新聞やテレビ、雑誌の小さな書き込みを探しながら情報を集める日々。直接三幸製菓に話を聞きたいのに。説明の文書や手続きの書類を持ってくるだけ。事態の大きさを自覚しているのか」と憤る。
ハチヱさんら清掃のアルバイトをしていた女性4人は、閉じた防火シャッター付近で逃げ遅れて亡くなった。4人は避難訓練に参加できておらず、シャッター脇にある避難用扉に気付かなかった可能性がある。また、荒川工場では過去に村上市消防本部が把握しているだけでも8件の火災が発生している。
長男は「事前の訓練に参加できていたら助かったかもしれない。過去にこんなに火災が起きているのに、どうしてもっと対策を練らなかったのか」と悔しさをにじませる。
三幸製菓は火災を受けて、全3工場の生産を約3カ月間停止している。「工場は3カ月で再開する。でも母はもう戻って来ない。3カ月たてば忘れられてしまうのではないか」。長男はこの悲惨な事実が風化することを懸念する。
誰にでも気さくに話し掛け、たくさんの人に愛されてきたハチヱさん。「母はいつも明るくて悪口も言わない人。職場を好きだったし、争いごとが嫌いだ。だから三幸製菓の人と争いたくない。でも二度とこんなことは起きてほしくない。真実を明らかにしてほしい」と唇をかみしめた。
新潟日報 2022/3/9 21:00
(最終更新: 2022/3/9 21:11)
https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/35912
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引用元: ・遺族に悲しみと怒り 三幸製菓、1カ月近くも謝罪なし [蚤の市★]
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