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【編集部より】村山恭平さんの先日の論考「フランスのようにジェンダー平等を進めれば、日本の少子化は解決するのか」は、際どいゾーンを攻めた問題提起とあってSNSでも話題になりました。それでもフランスが少子化打開の「理想例」との見方にこだわる方からの異論が続いている様です。村山さんが独自のデータ算出を元にジェンダー平等と少子化との“不都合”な関係について改めて論じます。

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前回の記事で提起したイシューに、先輩女子からの反論が続きます。

確かに、フランスも現状では少子化問題を完全に解決したわけじゃないけど、出生率は約1.9で1.3そこそこの日本からみれば十分目標にすべき優等生じゃない?学生時代、私が村山君に『君は一流の研究者を目指すまえに、まずはマトモな人間になりなさい』と口を酸っぱくして言ってあげてたのと同じことよ。

「平凡でも真面目な学生として生きるか、才気あふれるマッドサイエンティストの道を選ぶか」迷っていた青春の日々。そしてどちらも果たせぬ夢となった今日この頃を想い、感慨にふけりました。

けれども、フランス君は少子化克服に関しては、必ずしも真面目な優等生とは言えません。カンニングの疑惑があるからです。本当の優等生である外国人君の答案を丸写ししていないかということです。例のアゴラの記事(注・衛藤幹子氏『少子化問題を考える② 出生率上昇の鍵は「ポストモダン」家族の受容』)でも、その記事の引用元の論文でも、フランスの高い出生率には外国人の影響が示唆されています。ただし、どちらでもあまり影響はないという結論になっていますが、本当にそうでしょうか。

出生率への外国人の影響

まず外国人の定義です。通常、EU諸国では数か月以上の在住するには申請を出す必要があり、その段階で統計上の定住外国人になってしまいます。季節労働者、外国企業や政府機関の駐在員やその家族、どころか留学生まで含まれてしまいます。これらに含まれる女性のうち、わざわざ身重で入国する人は少数でしょう。また、現地で妊娠した場合でも、出産する前に帰国してしまう人も多いでしょう。

つまり、数字上外国人女性には普通あまり出産しない短期滞在者が大量に含まれているということです。しかも、留学生が含まれているということは、出産年齢のピーク前後の女性が多いわけですから、よほど「発展的な学習」が盛んにならない限り、その年齢での出生率を大きく引き下げることになり、外国人全体の数字にも影響がでるはずです。それでも外国人の出生率がフランス人のそれを大きく上回っているのは、「いずれはフランスに定住するつもりの外国人(つまり移民希望者)の女性」がいかに多くの子供を産んでいるかということです。

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一方、両親が外国人であってもフランス生まれの子供の大部分はフランス国籍を取得し成長後はフランス人として子供を産みます。彼らには出身地の文化や習慣が影響は色濃く残っていますから外国人並みの率で出産しそうです。フランス人女性の出生率にはこうした層の影響も含まれているはずです。

ですから、フランスの高い出生率には見かけの数字以上に移民の影響が大きく、単純に(今のところ)ほとんど移民のいない日本と比較して、ジェンダー平等政策の優越性を主張する議論には、大きな無理があるとしか言えません。

「何のかんの言ってもフランスの出生率1.9はゴールまであと0.2じゃない。移民の影響もわずか0.1。何を細かいこと言ってるのよ。少し頭を冷やしなさいな。モンサンミシェルに行って半日ぐらい砂風呂にはいるといいわ。案内したげる。ところで、『ユンボ』って言葉はフランス語だって知ってた?」

先輩女子からの優雅で物騒なお誘いに、「早速、次の氷河期にでも御一緒いたします」と答えておきました。まあ、いくら海水面が低下していても重機で埋められるのならたいした問題ではなさそうです。一方、出生率の0.1程度の違いもたいした問題ではないのでしょうか。

出生率を半減期に換算する

半減期」という言葉は放射性廃棄物や年代測定の話でしか聞きませんが、何かが減少していくスピードを「見える化」するには有効な数字だと思います。出生率という数字には「あと、どれぐらい女性が子供を産めば少子化が止まるか」という「原因側のこと」はよく分かっても、「このままいくとどうなるか」という「結果側のこと」は見えにいという欠点があります。

ですから、これを半減期に換算して、その影響を見える化しようというわけです。ただし、出生率から求めた半減期は、人口が半分に減るまでの年数というわけではありません。少し詳しく計算方法を解説しましょう。なにしろ私のオリジナルのやり方で、サキシル以外には載ってない「新理論」ですから。

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まず、出生率(bとします)を人口置換水準の2.1で割ります。人口置換水準の数字は国によって違いがありますが、よほど特殊なことが無い限り2.0から2.2の範囲には落ち着くようで、誤差は最大5%程度です。というわけで、国際標準の2.1で行きましょう。この計算で、「一世代」で出産可能年齢の女性がどれぐらい減るかの割合が出ます。

次に、対数を使って出産年齢の女性の数が半分になるまでの世代数(gとします)を求めます。ここまでの式は、

g = log(0.5)/log(b/2.1)となります。

さて、ここで言う「一世代」についても、定義の問題や国によるばらつきがありますが、今回は出生率の影響の比較が目的ですから、現在の日本女性の平均出産年齢に近い30年を用います。これにgをかけて、「半減期」のhが求められます。まとめて、

h = 30×log(0.5)/log(x/2.1)となります。

では、実際の計算をしてみましょう。

まず、日本の最新(2019)の出生率1.36で計算すると、47.9年となりました。さっきも書きましたが、このペースが続いても50年ごとに日本の人口が半分になるわけではなく、約50年で出産できる女性の数(49歳までの男女の人口も)が約半分になるということです。ということです。ただし、高齢者が死亡するスピードは変わらないわけですから、この50年で極端な高齢化が進みます。

G20の19ヶ国の半減率も表1にまとめましたので参考にしてください。

筆者作成

ではでは、問題のフランスの少子化状況を調べてみましょう。さっきの記事の数字(2018)を使いますから、表1の出生率(2019)とは若干異なります。まずフランス全体では出生率が1.88ですから、188年。フランス人だけだと1.77 で122年、外国人は2.60で -97.4年となります。ここでマイナスが出てきますが、負の半減率とは倍増率のことで、「出産年齢」の女性の数が倍になるまでに約97.4年かかるということを示しています。

まとめて言えば、「今の出生率で考えれば、フランスの人口が半分になるのに200年ぐらいかかるが、150年ぐらい後にはフランス人は半分になる一方、外国人(現在の外国人の子孫でフランス国籍の人を含む)は3倍ぐらいになり、両者はほぼ同数になる」ということです。

この試算が示す日本の暗黒未来…

ここで言う外国人の多くは恐らくイスラム教徒であり、この状況が良いのか悪いのかはフランス人自身の問題ですからここでは議論しませんが、よほど同化政策が成功しない限り、近未来小説「服従」の世界がやって来かねないということです。

そして、今後フランス並みに移民がやってくる可能性も、それをまともに受け入れる可能性も皆無である日本は、そのころには人口2000万程度の高齢者大国になり、見る影も無く衰退しているということです。フランス流のジェンダーフリー政策や若年層への手厚い福祉をやったところで、それが50年ぐらい先送りできるかどうかというだけの話でしょう。ちなみに、コロナの影響はこの問題に拍車をかけることは間違いありません。

さて、今回の極端な結論、はっきり言って自分でもあまり自信がありません。一流科学者でも真人間でもなく、況してや人口学者でもない素人の議論ですから、大きな見落としがあるのかもしれません。いろんな視点からの反論を期待しております。特に、上野千鶴子さんをはじめとするフェミニズム研究者各位からのコメントをお待ちしております。