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この連載の目的は、今世界で起きている国際問題を、国際政治学の理論やフレームワークで説明することである。理論やフレームワークは、今起きている国際問題の複雑な情報を構造化し、論理的に思考する一助となる。第2回は、アメリカによるウクライナ支援を取り上げる。

Yaraslau Mikheyeu /iStock

アメリカとウクライナの関係

アメリカは、ウクライナがソビエト連邦から独立した1991年に外交関係を樹立した。

2008年、オバマ政権下で両国の関係強化を基礎づける「戦略的パートナーシップ憲章」が初めて署名され、さらに2021年にバイデン政権下で同憲章は刷新された。

同憲章では、全体を通してロシアによるウクライナへの侵略を非難し、ウクライナの安全保障を支援するために、アメリカは最も強い表現を用いている。アメリカは、ウクライナの領土の一体性が回復されるまで、ロシアへの制裁を維持し、ロシアによる武力攻撃、経済・エネルギーの混乱、悪意のあるサイバー活動に対抗するウクライナの努力を支援する意向である旨が書かれている。

アメリカはウクライナと公式の同盟関係ではないが、戦略的パートナーとしてロシアの侵略に対して、ウクライナを支援すると公に発表していた。

国家の取りうる手段 “MIDFIELD”分析

国家安全保障戦略とは、“目的(ends)”、“方法(ways)”、“手段(means)”の組み合わせを示すものである。

今回はアメリカのウクライナへの支援を分析するため、3つのうち“手段”に焦点を当てる。

この“手段”を網羅的に示すフレームワークとして“MIDFIELD”がある。

MIDFIELDは、軍事(Military)、情報(Informational)、外交(Diplomatic)、金融(Financial)、インテリジェンス(Intelligence)、経済(Economic)、法律(Law)、開発(Development)のそれぞれの頭文字を取った略語であり、米軍の戦略に関する統合ドクトリンノートでも用いられている。

それぞれの手段は、具体的にはこの図に示したような要素で構成される。今回はこの8つの“手段”ごとに、アメリカのウクライナへの支援を分析してみたい。

軍事

アメリカは、対戦車ミサイルや対空ミサイルなどの武器をウクライナに供与している。その額は、バイデン政権発足以降、合計20億ドル(約2,400億円)にも達する。ウクライナへの直接的な軍事介入はしないと強調しているが、ポーランドなどウクライナ周辺のNATO加盟国への米軍を増派している。

情報

バイデンは、一貫してロシアのウクライナ侵攻を批判。欧州諸国と団結して、世界的にロシアの行為を容認できない、団結してロシアに圧力をかけるという世論の形成に成功したと見ていいだろう。

外交

アメリカは、ウクライナ侵攻前から、ウクライナのNATO非加盟等を求めるロシアとの外交的交渉に応じ、NATO非加盟は確約できないとしながらも、軍備管理などについては交渉の余地を認め外交による緊張緩和を目指した。ウクライナ侵攻後も、西側諸国以外のアメリカの同盟国・パートナーや国際機関とともに、ロシアの侵攻を止めるための外交的努力を続けている。

昨年9月、ホワイトハウスを訪れてバイデン氏と会談するゼレンスキー氏(写真:AP/アフロ)

金融

アメリカは、ロシアの中央銀行によるドル建て取引を禁止し、外貨準備の大部分を事実上凍結し、ロシアの最も重要な金融機関に懲罰的な制裁を科した。世界の金融システムを支える銀行間メッセージングシステムであるSWIFTからロシアの銀行7行を排除し、多くの主要ロシア国有企業との取引を制限した。

インテリジェンス

ロシアのウクライナ侵攻に至る過程で注目すべき要素の1つは、アメリカが機密情報の公開に踏み切ったことであった。アメリカの情報機関は、情報収集にとどまらず、情報をほぼリアルタイムに効果的に利用した。バイデン政権は、ロシアの偽旗作戦を先取りするために、戦略的に情報の機密解除と公開を行ったのである。

経済

アメリカは、ロシアの石油と天然ガスのアメリカへの輸入を全面的に禁止することを発表した。さらに、多くの欧米企業がロシアとの関係を絶ち、ロシアから事業を撤退させる措置をとっている。その後も、ロシアのWTOにおける最恵国待遇の取り消しや多国間金融機関における借入特権の拒否などの追加制裁を実施している。

法律

常任理事国であるロシアの否決権の行使により否決となったが、アメリカとアルバニアは、ロシアの軍事侵攻の停止を求める安保理決議案を提出した。また、国連安保理決議と異なり法的拘束力はないが国連総会緊急特別会合では、ロシア軍の即時撤退を求める決議が193か国中141か国の圧倒的多数で可決され、ロシアに更なる圧力をかけている。

開発(援助)

アメリカは、国際的および非政府的なパートナーへの資金援助を通じて、食糧、安全な飲料水、保護、アクセス可能なシェルター、緊急医療の提供を支援している。アメリカは、2月下旬以降、ウクライナやその周辺地域で約2億9300ドル(約350億円)規模の人道支援を行っている。

3月上旬、ヨーロッパへの脱出列車を待っているリヴィウ駅のウクライナ難民(Ruslan Lytvyn /iStock)

アメリカの葛藤

MIDFIELDのフレームワークを使うと、アメリカのウクライナ支援の全体像が浮かび上がる。バイデン政権は同盟国・パートナーと協力して、8つの手段でロシアへの圧力を高めている。

一方で、アメリカ人はこれらの支援について、不十分と見ている人の割合が適切と答える人よりも多い。アメリカ国民が不十分と考える理由の1つが軍事的手段であろう。

アメリカの戦略目標は、ロシアとの直接的な対立のリスクを最小限化しつつ、ウクライナのゼレンスキー政権を支援するという非常に舵取りの難しいものである。そのため、国民の目から見ると不十分に映るのかもしれない。

戦闘機や戦車等の攻撃的な装備の供与やウクライナ周辺のNATO加盟国への更なる米軍増派を求める声もある。

日本への意味合い

日本が注目すべきなのは、公式な同盟関係がない国にアメリカがどこまで支援するかということである。

アメリカのウクライナ支援を、台湾有事の際の台湾支援と結びつけて考えるのは時期尚早かもしれない。

しかし今回のアメリカの動向で、バイデン政権下の米国が持つカードがある程度が明らかになった。

バイデン自身が、アフガニスタンやリビアの経験を経て年々外国での軍事介入に慎重になっているとの指摘もある。今回のアメリカのウクライナ支援は、インド太平洋を含む他の地域においても、バイデン政権が何をどこまでするのかという一つの見極め材料になるだろう。