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 阪神高速での登場から約1年、半固定式移動オービスの運用に大きな動きがあった。2022年3月上旬のある日、オービス(速度取り締まり機)の製造メーカーである東京航空計器(以下TKK)本社工場近くの道路(通称:尾根幹道路 東京都町田市)にて、半固定式移動オービスのテスト風景が動画に収められた。実はこの道路では、TKKの本社工場が近いこともあってこれまでもたびたびオービスに関連したテストが行われてきた経緯もある。

 設備の老朽化などで「固定式オービス」が全国で減少していくなかで、本格的に実装、運用開始されれば自動車の速度取り締まりに大きな変革を起こす可能性もある「半固定式」移動オービス。その実態と特徴、今回のインパクトの大きさを解説します。

文/加藤久美子
写真/取り締まり情報ワニ(動画からスクリーンショット)、加藤ヒロト

【画像ギャラリー】これが…全国に配備……(ゴクリ)速度取り締まりが変わる!! 半固定式オービス実装テストを目撃!!(16枚)画像ギャラリー

■半固定式移動オービスの全国展開が近い!?

「オービス」(ORBIS)と聞けばクルマ好きのほとんどは速度違反の自動取り締まり機を思い浮かべるだろう。

「オービス」は古代ギリシア語で「眼」を意味する言葉に由来する。ボーイング社の商標であり、日本で製品名として使えるのはボーイング社の認可を得た東京航空計器(本社工場:東京都町田市)の製品だけである。

 速度計測を目的としたオービスの歴史は意外と長く、TKKがボーイング社の特許を買い取って「オービス」を登録商標として製造を開始した1976年に始まる。

 オービスは年々進化しており、2016年からは「移動式オービス」による取り締まりが、まずは埼玉県からスタートし、その後は急速に普及。約6年間で全国47都道府県すべての警察が採用するに至っている。

 約1年前となる2021年4月にはなんと、まったく新しい「半固定式」移動オービスなるものが大阪~神戸エリアの都市高速道路「阪神高速」に登場した。そして今年3月上旬にはその「半固定式」移動オービスがTKK本社工場近くの一般道でテストを行っていることがわかり、動画に収められたのである。

 ここで改めて移動式オービスとは? 半固定式移動オービスとは? …について説明しておきたい。

 近年は「移動式オービス」による取り締まりが急速に増えている。正式名称は「車両速度計測装置」(可搬型)で、可搬式の名の通り、持ち運びが可能なオービスである。

 俗にいう「ネズミ捕り」(定置式速度取締り装置)と同様、任意の場所で取り締まりが可能であり、従来の固定式オービスのように速度違反を検知するとフラッシュライトが光って自動で写真を撮影し、後日、速度違反の通知書が送られてくるシステムだ。

 ネズミ捕りに比べて警察官の数も少なくてすみ、通称「サイン会場」と呼ばれる違反車両を引き込むためのスペースも必要ない。住宅街の狭い道でも約1mの幅があれば設置できる。省スペース、少ない人数での速度取り締まりが移動式オービスの大きな利点だ。

 取り締まり効果も絶大で、千葉県を例にとると本格導入したのは2019年でその時は1台だけだったが、2021年には新たに2台を加えて3台体制となり、スピードが出やすい生活道路で積極的に取締りを実施。2021年1~4月末までで前年同期6.6倍となる1440件の速度超過違反を検挙している。

 そして、移動式オービスがどんどん普及していく一方、撤去が進んでいるのが従来型の固定式オービスだ。

 近年急速な勢いで全国各地の設置場所から撤去されている。理由は設備の老朽化はもちろんだが、何十年も同じ場所に設置されていることで、日々その道路を利用するドライバーにはすっかり知られた存在となっており、取り締まりの効果が得られないのだろう。電波法改正(※2022年12月を予定していたが当分のあいだ延期)を理由として使用できなくなる固定式オービスもあるため、全国的に撤去が進んでいる背景もある。

■半固定式は2021年4月に阪神高速に出現!

 2020年春以降は、交通量が激減した首都高を暴走するルーレット族の取り締まりを目的として、首都高速都心環状線や9号深川線などの首都高速上で移動式オービスを使った取り締まりも行われるようになった。

 なお、移動式オービスの怖いところは、これまで速度取り締まりが行われることはほとんどなかった狭い住宅地の道路や、歩車分離ができていない繁華街の道路など、いわゆる生活道路での運用が可能となったことだ。これらの場所は最高速度が30km/h以下に制限されていることも多い。超過速度が10-20km/h以下、走行速度が40-50km/h程度であっても速度違反の取り締まり対象となるので、「ゾーン30」など歩行者が多い片側1車線の道路であっても慎重に運転する必要がある(編集部注/安全運転は大前提です!)。

 そして、2021年4月には阪神高速に「半固定式」移動オービスなるものが登場した。筆者は昨年、運用が開始される直前(土台だけの状態)と、直後(土台の中にオービスが入った状態)に阪神高速上の3か所で確認しているが、半固定式とはオービスを使用するための土台を複数個所に設置し、オービス本体だけを入れ替えながら取り締まりを行う方式だ。

2021年4月阪神高速に国内初導入された半固定式移動オービス

 つまり、金網で囲まれた土台の中にオービスが入っているかどうかは直前になるまで確認できないため、土台がある場所ではおのずとスピードを落とすようになる。そのような土台が増えて行けば全体として速度が落ち、安全運転が行われ、速度超過による事故を減らすのが警察の狙いだ。

 オービスを入れて取り締まる場合も、半固定式であれば取り締まりのための人員も不要なので、通常の移動オービスのように、ワンボックスを出して警察官が乗り込んで……という手間もいらず、また「ワンボックスが停まっているからあそこで移動式オービスによる速度取り締まりをやっている!」と気付かれることもない。「半固定式」ではまさに固定式と移動式の「いいとこどり」をした取り締まりが可能となる。

■これからは「半固定式」移動オービスが全国に増える?

 半固定式移動オービスのテスト風景を撮影したのは、Twitter(取り締まり情報ワニ@一都三県)やYoutube(取締りワニ)で交通取り締まり情報を発信するワニさんだ。

尾根幹道路で行われていたテスト風景。台車の上にオービスのカメラ部分と測定器が並んでいる(ワニさんYoutubeよりスクリーンショット)

 ワニさんにテスト風景を撮影した時の様子を聞いてみた。

「パッと見た時、民間人がなぜオービスを? と不思議に思ったのですが、その直後にオービスガイドさんが『半固定の動作テストが行われています』とツイートされたので撮影に入りました。

 1台のワンボックスが停まっており、その前に移動式オービスの機械が設置されていました。最初はもう1台クルマがいましたが撮影に入った時は一台だけになっており動画のとおり2人体制でのテストが行われてました。

 私が撮影を開始してから15分ほどで撤収を始めたのですが、第一報から2時間ほど経っていたので、単にテストの終了時間だったのか? それとも私の撮影を嫌がって撤収したのかは不明です。

 ちなみに手前の男性は終始こちらを睨みつけるように見てました。私も以前、人から興味本位で撮影されるような職業に何度かついてたことがあるので嫌な気持ちは分かるのですが、ちょっと異様な感じを受けました。」

■取締りワニ(Youtube)
■取り締まり情報ワニ@一都三県(Twitter)

 ところで、なぜこれがLSM-300や同310など通常の移動式オービスではなく、半固定式と言えるのか? それは阪神高速に設置された半固定式オービスと比べるとよく分かる。

半固定式ではカメラと計測器が横並びの状態で設置される他、土台からの脱着がしやすいよう上部に取っ手がついているのが特徴

 ワニさん撮影の画像を見ると、

・二つに分離している機器の左側はストロボ。右側にカメラとレーザー計測器が収められている
・二つの機械の上には持ち運びをしやすくするための、「取っ手」がついており、複数の土台で入れ替えながら使うことが想定されている

 なお、オービスの前にはセンサーらしきものも認められている。これはなんなのか?

 全国のオービス設置情報や取り締まりに関する情報を知らせてくれるアプリ『オービスガイド』を運営する有限会社パソヤ代表の大須賀克己氏によると、

「おそらくこのセンサーは、出荷前の半固定式移動オービスが計測した速度が正しいかを検証するためのものと思います。手前の2本のラインはループコイル式オービスと同じ仕組みで正しい速度を測っていると思います。それぞれの計測した速度が合っているか? を照合することが目的ですね。もちろん他の移動式オービスの近辺にはこのようなものはありませんから、出荷前の最終テストでしょう。」

 なるほど、出荷直前の最終テストのようだが、果たしてここでテストされた半固定式移動オービスはどこで運用されるのだろうか?

 少し調べてみたところ、長野・熊本・茨城の3県で導入が予定されていることが分かった。おそらく新年度となる2022年4月1日以降、半固定式移動オービスを使った取り締まりが行われるのだろう。

 最後にオービスガイド大須賀氏に今後の見通しについて聞いてみた。

「最近ハイペースで固定式オービスの撤去が進んでいます。今年に入りすでに12箇所の撤去が確認できました。移動式オービスは近くに警察官が待機し、通常2〜3時間の運用で取締りをします。さらに高速道路上などでは、設置も運用も警察官にとって危険です。

 それに対し、半固定式オービスは無人で24時間体制で運用し続けることができます。さらに、ベースとなる土台が3箇所あれば3箇所で速度抑止の効果が見込めます。もちろん固定式オービスを3箇所設置するよりも費用は大幅に安くすみますし、柔軟な運用が可能です。

 今後は半固定式が増えて行くでしょうね。生活道路を含む一般道は移動式オービスで、高速道路などでは半固定式オービスと移動式オービスの併用という運用になってゆくのではないでしょうか。」

 なお、半固定式の移動オービスは今のところLS310とほぼ同じ機能を持っているとのことだが、まったく同じではない。レーザーレーダー探知機による事前の探知は可能とのことだった。

 これまでオービスが撤去された場所の近くには半固定式オービスが設置される可能性が高いと考えられる。撤去されたからといって安心することなく、これまでどおり、制限速度を守った安全運転を心がけてほしい。

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