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トヨタは世界販売首位を死守! トヨタvs VW販売戦争の行方を結果づけたもの

 自動車産業界の世界ツートップが2021年も激しい販売競争を繰り広げた。ドイツのフォルクスワーゲングループ(以下、VW)は2022年1月12日、2021年のグローバル販売台数を前年比4.5%減となる888万2000台と発表した。

 一方、トヨタ(ダイハツ、日野などを含む)は昨年1~11月までの累積台数で前年同期比12%増の956万2000台となっており、昨年11月末時点で台数はVWを凌いで世界第1位となっている状況だ。こうした2社の事業実績の差には、どのような背景があるのだろうか?

文/桃田健史
写真/AdobeStock、加藤ヒロト(中国車研究家)、トヨタ、フォルクスワーゲン

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■コロナ禍と半導体の影響は2社にとって同じ?

  まずはグローバル市場全体の動きを俯瞰してみたい。

 国際自動車工業連合会(OICA)の直近データによると、2021年上期(1月~6月)の加盟41の国や地域による世界自動車販売総数は4440万1850台と、前期比29%増であり、コロナ禍での販売回復が鮮明になっている。

 さらに1年前のデータを見ると、2020年通年で7797万1234台となり、前年の9042万3687台から大幅に減少となった。

 そうして2020年に起こった世界市場全体での販売台数のアップダウンを詳しく見ると、2月から3月には新型コロナ感染症が最も早く大規模で広がった中国市場でのダメージが大きかった。

 4月以降は中国での販売減少は落ちつく一方、欧州や北米で大幅な販売減少に転じた。日本は比較的ダメージが少なく、秋以降に確実な回復傾向となった。

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写真は上汽VWサンタナ。1987年から2012年までの間、約350万台が中国の上海で生産され、中国でのドイツ車のブランドイメージ確立に貢献した

 2021年に入ると、デルタ株の影響で欧米での町の生活が制限されるロックダウンが再び行われ、自動車販売に影響が出たものの、2020年に比べるとコロナ禍での市場動向全体は安定していたといえるだろう。

 だが、世界的な半導体不足で各メーカーの製造における制約が出たことが販売全体を押し下げる要因となった。

■仕向け地別でのトヨタの強味との比較

 このような世界的な市場の動きは、トヨタにとってもVWにとっても基本的には同じだ。それにもかかわらず、年間販売台数で大きな差が生じている。なぜか?

 現時点で、トヨタの詳しいデータが公開されていないため、VW発表データを仕向け地別に検証してみたい。

 それによると、中国で330万4800台(前年比14.1%減)。次いで、西欧が286万400台(2.7%減)、北米が90万8400台(15.6%増)、中欧および東欧が65万8300台(2.8%減)、南米が51万4600台(5.1%増)、中東が32万9600台(13.4%)、そして中国以外のアジアが30万5800台(11.9%増)となった。

 このように、VWにとっての最大市場である中国での大幅減少の影響が大きいことがわかる。

 VWはカントリーリスクが高いとされていた中国に、かなり早い段階で積極的に参入し、中国政府との友好関係を築くことで、中国でのブランドイメージを確立してきた。

 だが、2010年代以降に中国の経済発展が安定期に入ってからは、ユーザーのクルマに対する志向が徐々に変化してきており、直近での品揃えではトヨタをはじめとして日系メーカーが強味を発揮している。

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中国市場ではレクサスLMのように、日本メーカーの放つクルマに対する人気も高い

 また、新エネルギー車政策において、中国政府は社会の現実に沿った軌道修正を行いながら、トヨタをはじめとするハイブリッド車との共存共栄を示唆するようになったことも、トヨタにとって中国市場での安定的な成長をもたらしている大きな要因といえるだろう。

 そのほかの仕向け地で、トヨタとVWで大きな差となっているのが北米市場だ。近年の北米市場は、ピックアップトラックとSUVを含めたライトトラックが市場全体の約6割を占めるまでに成長しており、品揃えと北米でのディーラーの販売力でトヨタはVWを大きく凌いでいるといえる。

 トヨタの北米での勢いは強く、その証明として2021年のアメリカ国内販売台数でGMを抜いてトップに立った。アメリカ現地の各種報道によると、GMが首位陥落するのは1931年以来だという。

■半導体不足でわかったトヨタサプライチェーンの特異性

 別の視点で、トヨタの強味を考えると、サプライチェーンにおける特色が挙げられる。これを筆者、および経済関連メディアが強く意識したのが、2020年半ばのことだった。

 四半期決算の報道陣向けオンライン説明会で、経理担当役員は「半導体不足は大きな影響を及ぼしていない」と発言したのだ。その前後に説明会を開いた、ほかの日系メーカー各社は「半導体不足の影響が出ており、今後の回復については不透明な情勢だ」とトヨタとは違う見解を示したのだ。

 トヨタの説明によれば、常日頃からティア1(第一次部品メーカー)のみならず、実質的にはティア2(第二次部品メーカー)の領域に属する半導体メーカーとも、中長期における納入計画について担当者同士がかなり頻繁に調整を繰り返しているという。

 そのため、2020年中盤時点では、半導体の供給について多少の増減があっても生産への影響は最小限度に食い止めることができたというのだ。

 このように、トヨタは「人と人」との関係性を重要視している点を強調した。

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半導体不足などのサプライチェーンの混乱は新型コロナウイルスの世界的流行に大きな理由がある(snvv@AdobeStock)

 この点は、VWやGMなど欧米企業におけるメーカーと部品メーカーとの関係とは、ひと味違うと感じる。いわゆる、日本企業文化における「すりあわせ」なのだが、日系メーカーのなかでもトヨタが行う「すりあわせ」の精度が高いといえるだろう。

■全方位戦略の強味、将来的には果たして……

 もうひとつ、トヨタの強味として、製品開発の全方位戦略がある。

 トヨタが2021年12月14日に当時のMEGA WEB(東京都江東区)で実施した、「バッテリーEV戦略に関する説明会」で、豊田章男社長が改めて強調したのが全方位戦略だ。

 その会見の舞台で収録された俳優、香川照之氏との「トヨタイムズ」CMでの掛け合いでも、EVにも本気、ハイブリッド車にも本気、燃料電池車にも本気という、わかりやすい表現で、多様な形でカーボンニュートラルを目指すと指摘している。

 さらには周知のとおり、豊田社長自らがマスタードライバーを務めて、水素燃料を使ったスーパー耐久参戦マシンを操るなど、まさに走る広告塔というイメージで創業家社長として「押しの強さ」を見せつけている。

 結果的に株価も上がり、発行株式の時価総額も上昇した。

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水素は単体燃料だけでなく、二酸化炭素を合成して作られるe-Fuelでも注目されている。精製することで、ガソリンや軽油が取り出せる(luchschenF@AdobeStock)

 こうした経営手法が現状ではプラス効果を生んでいるが、今後さらにEVシフトが加速すれば全方位戦略の大幅修正の必要性も出てくるかもしれない。

 いずれにしても、トヨタの強味は創業家社長によるフレキシブルでタイムリーな意思決定と、ディーラーやサプライヤーを含むトヨタに関わる「人と人」との繋がりの強さが大きく影響していることは間違いない。


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