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なぜルノーは対応に遅れ? ロシアから撤退相次ぐ自動車メーカーの動向と最前線を解説!!

 連日、各メディアから、ロシアによるウクライナ侵攻の被害状況が報道されている。

 この状況下のなか、さまざまな産業の企業がロシア国内事業を停止、もしくは撤退する意向を示している。自動車メーカー各社からも、ロシア国内工場の稼働停止、完成車輸入の停止やウクライナへの支援が発表されている。

 いっぽう、他の自動車メーカーに比べ、数週間遅い2022年3月23日に、仏・「ルノー」はロシア国内事業を一時的に停止すると発表。さらに今後の対応は、露・「AVTOVAZ(アフトヴァーズ)」との資本関係を考慮しつつ決めていくとのことだ。

 そこで、本稿では今回の各自動車メーカーの対応、ロシア国内の自動車事情や、ルノーと「AVTOVAZ」の関係性など、多方面の角度から解説していく。

文/桃田健史
アイキャッチ写真/andy – stock.adobe.com
写真/ルノー

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ウクライナ侵攻で世界の産業界はどう動いた?

 いま、ウクライナ侵攻を続けるロシアを巡り、世界の産業界が大きく揺れている。

 例えば、英国の石油大手シェルは2022年3月8日、ロシア事業からの完全撤退を発表した。ロシアには原油や天然ガスなど化石燃料の資源の埋蔵量が多く、ロシアにとってエネルギー関連事業を国家の主要産業に位置付けてきた。

 その大口の取引先であるシェルが事業の一時停止ではなく、完全にロシアから撤退するというニュースは、ロシア国内のみならずグローバルで多方面の産業に大きな影響を与えた。

 飲食関連では、アメリカのマクドナルドがロシアから完全撤退を発表。また、スターバックスやコカ・コーラはロシア事業の一時停止を決めている。

 自動車業界でも、2020年2月から3月上旬にかけて、自動車メーカー各社がロシア事業に対する厳しい決断を下すようになった。

 トヨタはまず、2月24日にウクライナ国内で販売とサービスの拠点37カ所の事業を一時的に停止した。ロシアでは3月4日から、ロシア第二の都市であるサンクトペテルブルク工場での新車製造を一時的に中止し、日本などからの完成車輸入も一時的に取りやめた。販売とサービスについてもロシア国内168カ所での事業を一時的に中止している状況だ。

 トヨタはその理由について、「(ウクライナとロシアでのトヨタ関連の)すべての従業員、販売スタッフ、仕入れ先の皆さんの安心と安全を、何よりも優先している」と説明した。

 また、報道によると、トヨタの豊田章男社長は3月9日、トヨタ本社で開いた春闘での労使交渉の場で「激しい憤りを感じている」として、ロシアのウクライナ侵攻という、戦争や国家間の対立について厳しく批評したという。  

 日産は、本稿執筆時点(2022年4月上旬)で、グローバル本社のニュースリリースでロシア市場に関する資料を公開していない。2022年3月11日には、日産広報部の発言として、サンクトペテルブルクの最終組立工場の稼働を3週間停止するとの報道がある。その時点で、日本からの完成車輸出も止まっていたとしている。

ロシア自動車市場の現状とは? 2015年から伸び悩み

 では、ここでロシア自動車市場について、過去からこれまでの流れ、また市場の現状についてご紹介しておく。

 1991年にソビエト連邦社会主義共和国が崩壊し、ロシア連邦が成立する。90年から2000年代にかけて、ロシアの経済体制は西欧やアメリカに大きな影響を受ける形で、国営企業から民間企業へとシフトが進んだ。こうしたなかで、最近報道でよく耳にするようになった、国家とのつながりが強い民間企業を経営する、オルガルヒという新興財閥系の超富裕層を生むことになる。

 2000年代中旬になると、アメリカの大手証券会社がBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国等)という表現で、ロシアを含む経済新興国の潜在的な経済力に対する評価を行うようになる。

 そうした時代の流れに乗って、ロシアの自動車市場は2000年代から2010年代前半に向けて右肩上がりとなる。

 だが、2012年の年間294万台をピークに、原油安による景気の低迷、さらに2014年のクリミア併合を伴うウクライナ侵攻に対する国際的な経済制裁の影響などで、2015年には160万台まで一気に落ち、その後も2020年まで200万台レベルに復活することはなく、市場全体の伸び悩みの傾向が鮮明になっていた。

 欧州ビジネス協会によると、直近2020年のブランド別販売台数では、1位がAVTOVAZ(アフトヴァーズ)のLADA(ラダ)で34万4000台。次いで、韓国ヒョンデ(20万2000台)、韓国キア(16万3000台)、ルノー(12万8000台)、フォルクスワーゲン(10万台)、チェコのシュコダ(9万5000台)、トヨタ(9万2000台)、そして日産(5万6000台)と続く。

 そのほか、日系メーカーでは、三菱(2万8000台)、マツダ(2万6000台)で、ホンダは1500台と極めて少ない。ホンダはロシアでのブランド展開が思わしくないため、今回のロシアによるウクライナ侵攻が発生する前の時点で、2022年でのロシア市場撤退を決定していた。

ルノー今後の方針に苦悩? 露自動車メーカー「AVTOVAZ」との関係性とは

2022年3月23日に、ルノーはロシアのモスクワ工場の活動停止を発表

 こうしたロシア市場の現状を踏まえると、ルノー日産三菱アライアンスとして、ロシア市場への今後の方針をどう展開するべきか、苦悩するのは当然だと言えるだろう。

 実際、ルノーがロシア市場に対して正式コメントしたのは2022年3月23日と、日系メーカー各社等と比べると数週間遅い。3月23日の発表は、ルノーとしてのもので、ロシア国内での事業を一時的に停止すると発表した。さらに、ロシアの自動車メーカーのAVTOVAZとの資本関係を考慮して今後の対応を進めていくとした。

 AVTOVAZはロシア最大の自動車メーカーで、2014年にルノー日産(当時)が経営権を取得している。そのため、AVTOVAZのブランドであるLADAは現在のルノー日産三菱アライアンスと車体や部品などの共通性が高い。

 また、AVTOVAZはロシア政府とのつながりが強いとされている企業だ。ロシアのウクライナ侵攻が続き、世界の主だった企業はロシアの政治姿勢に対して批判し、前述のようにロシア市場から完全撤退する動きが高まるなかで、ルノーとしてロシア事業に対する今後の事業方針を精査するため、他の自動車メーカーと比べてより多くの時間を要したと考えられる。

 今回のルノーのロシア市場対応策の発表を受けて、ロイター通信の報道によると、ルノーの時価総額はロシアによるウクライナ侵攻が始まった1カ月間で、なんと40%も下落している。また、同じくロイター通信は、アメリカのシティバンクからの情報だとして、ルノーのAVTOVAZに対する株式の保有比率は69%。そこからの利益が、ルノー全体での利益の8%に相当するとのデータを公開している。

 1991年以降、ロシア連邦として経済の民主化活動が活発になったとはいえ、中央政府による集権的な社会主義国家であるという実態が、今回のウクライナ侵攻で鮮明になったロシア。

 そのなかで、国家とのつながりが深いとされるAVTOVAZとの関係が強い、ルノーにとって、極めて大きな正念場だといえる。

 ただし、ロシアとウクライナの国家としての関係が今後どのような形になろうとも、両国で暮らす人々にとって自動車は生活必需品であり続けることに変わりはない。

 ルノー日産三菱アライアンスのみならず、自動車産業界全体として、さらにエネルギー関連など全ての産業界にとって、ロシアとのこれからの付き合い方を、生活者の立場で考えていくことが重要だと感じる。

 すでに多くの犠牲者を生んだ2国間の戦争。一刻も早く終戦をむかえることを心から祈りたい。

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