2022年3月にソニーとホンダが電気自動車を共同で開発と販売を行うことを発表した。2025年には販売を想定しているという。元ホンダ社員・自動車評論家の小沢コージ氏が、ホンダの抱える問題に触れながら、ソニーとホンダの協業EVについての不安と期待を語る。
文/小沢コージ、写真/SONY、HONDA
【画像ギャラリー】ソニーの「VISION-S」シリーズ、ホンダのピュアEV「Honda e」をギャラリーで見る(26枚)画像ギャラリー
■世界に対抗できる日本製EVに期待
寝耳に水だった今回の「ソニーとホンダのモビリティ分野における提携」。
個人的には今後コロナ禍や電動化で立ち行かなくなった日本の自動車メーカーが、余った自動車生産設備でソニー主導のEV作りでもしたら面白いのに! とは思っていたが予想は完全に外れた。
ただし、ソニーのアイデアでホンダがクルマを作る。この組み合わせ自体には期待しかない。
というかアップルカーやグーグルカーが期待される今、対抗できる日本製EVは素人目にもソニーカーくらいしかないのではないか。
リリースによれば、「新会社からのEV車両の初期モデルの販売開始は、2025年を想定しています。新会社はEV車両の企画、設計、開発、販売などを行う想定ですが、製造設備は自ら保有せず、製造は、初期モデルについてはHondaの車両製造工場が担うことを想定しています。
また、モビリティ向けサービスプラットフォームについては、ソニーが開発し、新会社に提供することを想定」とのことだが、今後活発化する電動化時代、正直バッテリーEVがどれだけ普及するかはわからない。
■現在の日本でEVが主力になるには課題が山積み
ホンダは昨春に「2030年に40%、2040年に100%」という戦略的な電動化目標を立てたが、これ外向きとしては正しいのだろう。
今やEV事業は完全に政治マターであり、グローバルで環境問題の主導権を巡り、欧米を中心に理想論を掲げてあっているのだからしかたない。
だが、実際の電動化はまさに現実だ。
1kWhあたりの車載電池が2030年に何万円になるのか? どこから素材を調達するのか? ただでさえ枯渇しつつある電力はどうするのか? わからないことは山積み。
個人的にはガソリン価格の変動は大きいと考えていて、マジでレギュラーガソリン1リッター200円超えになれば爆発的にEVが普及する可能性はある。
その場合、電気をどうやって発電するのかも問題だが。原油をあまり使わない方法があればもしや……だ。
■日本製EVに抱く違和感
さておきソニー&ホンダEVに期待することは明白。
今の自動車屋が作るEV、特に日本製EVにガッカリさせられるのは驚きのなさだ。具体的にはデジタル体験ショックのなさに尽きる。
先日、トヨタ&スバルEVの開発者と話をしていて「今後のEVは普及期に入るので今までのガソリン車から乗り替えて違和感がないことが重要です」と言ったのには驚いた。
要はbZ4Xやソルテラがクルマとしてはよくできているものの、新しさがないことへの疑問に対する答えなのだが、これから普及期? 単純にまだでしょ! と思ったし、そもそもほかのEVに乗ったことあるんですか? と思った。
確かに「違和感のなさ」というのはひとつの見識であり、安心安全を大切にする実に日本らしいやり方だ。
が、その方法で失敗したEVを何回見てるんですか? と小沢は言いたい。
日産初代&2代目リーフ、三菱iMiEV、どれもガソリン車の置き換えで大失敗している。それと同じことをやろうとしているのが正直歯がゆい。
しかも日本製EVはぜんぜん安くない。刺激がなくても安ければ売れる可能性があるが、日本製EVは構造的に安くなるわけがない。
レアメタルであり、レアアースが中国ほかより安く入らないうえ、人件費が高いのだから、一番の核である日本製電池が「世界的に安く」はほぼ確実にならない。
■自動車メーカーが積み重ねてきた「経験」こそが新しい発想を阻む
今後出るソニー&ホンダの新EVにもまったく同じ心配が存在し、ホンダが開発を主導したらおそらくコラボは失敗する。
今の自動車メーカーには、これまでにないまったく新しい乗りものを作ろうという気概がない。
いや、当初はあったとしても、例えばインパネ設計から「このタッチパネルの配置、見え方は使いにくいんじゃ?」と反対されたら既存の延長線上に戻す。そうやって牙はどんどん削がれていくのだろう。
いやいや、無理やりホンダ開発者の気持ちになったとしよう。
確かにチャレンジはしたい。だが自動車開発はお金も時間もかかるし、既存の自動車メーカーはリコールで死ぬほど苦労している。また新しいやり方をしても成功するという保証がない。
■ホンダが抱える「病」
なんだかんだ現状トヨタは北米や日本で売れているし、ホンダも北米で売れている。
何より今のホンダで心配なのは、いいクルマを作っても、それを適切な価格設定で、狙いに合った販売戦略で売れないことだ。
いい例が日本におけるオデッセイ、ステップワゴンや世界的にみたシビック、レジェンド、NSXなどで、けっこう売れていて出来もいいオデッセイを工場閉鎖にかこつけて販売を止める理由がわからないし、ステップワゴンもシンプルなデザインはいいのだけど、販売の主役がゴテゴテしたスパーダというのがナゾ。
基本、ホンダはエンジニアが作りたいクルマを作って、それを勢いで売る会社なのだ。
設計製造部門と販売部門の連携のなさが最大の問題であり、今後新コンセプトのEVを作ってそれを適切に売れるかは疑問。
さらにレジェンド、NSXを見ても、クルマ好きやクルマ通にウケる味付けやコンセプトばかりで、クルマにまるで興味なし! スマホ大好き、SNS大好き! って人に向けて売るクルマが作れるとは到底思わない。
しかもホンダの開発陣にはプライドがありすぎる。これが最大のネックで、本来多少間違っててもソニーコンセプターが描く、クルマへの想いに忠実に、ホンダの技術で斬新EVが作れたら面白いと思うが、途中で「ここは違うでしょ?」と普通のクルマ的コンセプトに戻してしまいそうなのが怖い。
今回のコラボは、ホンダの自動車エンジニアがいかにプライドを捨てられるか? が一番の鍵になるだろう。
■企業と企業間のプライドを捨てた、類を見ないEVの出現に期待
かたや現状ソニーのビジョンSを見ても中のエンターテイメント性はともかく、外観はまったくもってツマラナイ。
孫悟空のキント雲についてそうなSマークは面白いが、クルマ好きはどうでもいいとして、ホントにスマホクレイジーがあのデザイン、あのコンセプトに萌えるのだろうか?
要するに今回のコラボはソニーまかせ、ホンダ任せでもどちらでも期待薄。
両者のプライドをなんとか捨て、両者の本当の意味でのアイデアの出し合い、情報を持ち寄り、技術を出し惜しみせず、切磋琢磨してその先に初めて成功が見えてくると思う。
一番怖いのは「とりあえず思いつきでコラボしました。一応、それっぽいものはできたでしょ?」で終わること。
本業は本業で各々集中し、コラボは片手間。そんな生ぬるいモノ作りでは間違いなく失敗する。
果たしてソニーとホンダが本当の意味で背水の陣に立ち、殴り合いでモノが作れるのか。危機感は保てるのか? 本気で世界を驚かせるつもりがあるのか? そこが大切だ。
まずは開発リーダーが決まったら、今の気概をぜひ直接聞いてみたいと思う。
ゼロ戦を作った、あの堀越二郎ばりの気迫とコメントを期待しております!!
【画像ギャラリー】ソニーの「VISION-S」シリーズ、ホンダのピュアEV「Honda e」をギャラリーで見る(26枚)画像ギャラリー
投稿 元ホンダ社員が考える、ソニーとホンダのコラボで期待したいこと~「ホンダはプライドを捨て、ソニーに全面的に任せるべし!!」 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。