多くの協業を行っているスバルとトヨタであるが、これからの電動化の時代に重要なBEV(バッテリー電気自動車)についても共同で開発した新型車を発表している。それがスバルソルテラ、そしてトヨタ bZ4Xである。
今回はそんなスバルソルテラのプロトタイプの4WDを雪上で試すチャンスを得た。スバル車といえば4WDが大きな魅力となっているが、果たしてモーター制御による4WDの実力はどのようなものだろうか?
文/渡辺陽一郎、写真/平野 学
■スバルとトヨタの提携から生まれたEV
スバルとトヨタの提携から生まれたクルマとして、スポーツカーのBRZとGR86があるが、電気自動車のスバルソルテアとトヨタbZ4Xもそこに含まれる。両方ともに2022年の半ばまでには日本国内でも発売するという。
スバルとトヨタの販売店に今後のスケジュールを尋ねると、両社とも「受注の開始時期や価格などは今のところ不明」と返答された。
開発に際しては、スバルとトヨタの開発者が一緒に作業を行った。走行性能についても「両社で協議して、1つの目標を立てた」という。
そこでソルテラのプロトタイプ(試作車)を雪上で試乗した。試乗車は車両の前後にモーターを搭載する4WDだ。上級グレードだから、タイヤは20インチのスタッドレス(ブリヂストン・ブリザックDM-V3)を装着していた。
モーターの最大出力は、前後とも80kWとされ、システム最大出力は160kWだ。駆動用リチウムイオン電池の総電力量は71.4kWhで、1回の充電で走行できる距離は、2WDは約530km、試乗した4WDは460kmになる。これらの数値はbZ4Xもほぼ同じだ。
その一方でソルテアとbZ4Xには異なる点もあり、分かりやすいところでは、フロントマスクとリヤビューがある。
ソルテラのフロントマスクを見ると、スバル車の象徴とされるヘキサゴン(六角形)グリルをブラックで縁取り、レヴォーグなどと共通性のある顔立ちに仕上げた。その点でトヨタのbZ4Xはシンプルで独自性も強い。
ソルテラがヘキサゴングリルを際立たせた背景には、スバルの考え方がある。開発者は「電気自動車のソルテラも、スポーツカーのBRZも、スバル車に変わりはない。基本となるクルマ造りの考え方やデザインは同じ」という。
ソルテラは電気自動車である以前にスバル車で、その方針をデザインにも反映させたわけだ。後述するパドルシフトの採用にも「ほかのスバル車から乗り替えたお客様に違和感を生じさないように」という配慮がある。
■ソルテラはパドルシフトを採用
ソルテラの車内に入ると、メーターが奥まった高い位置に配置されており、独特の立体感を持っている。着座姿勢などにより、メーターパネルがステアリングホイールの陰に隠れそうになることもあるが、開発者は「速度など大切な表示は、常に見えるように配慮した」という。
車内の基本的な造りはbZ4Xと共通だが、ソルテラにはパドルシフトが備わる。エンジン車のパドルシフトはエンジンブレーキの度合いを調節するが、電気自動車では機能が異なる。減速エネルギーを使って発電を行い、駆動用リチウムイオン電池に充電する回生の度合いを調節するからだ。
そしてソルテラでは、Dレンジの状態でパドルシフトをプラス側に操作すると、コースティングによる走行も可能にした。この時には走行抵抗が大幅に減り、回生による充電がほとんど行われない代わりに、アクセルペダルを踏まなくても惰性で滑らかに走っていく。
一般的に電気自動車では、アクセルペダルを戻すと同時に、強めの回生と減速を開始する「ワンペダル運転」が注目される。ソルテラもスイッチ操作でこの制御を行えるが、コースティングを可能にしたことも特徴だ。この点について開発者は次のように説明した。
「回生による充電では、回生に伴う一定のロスも発生する。従って緩やかな下り坂を走り続ける時などは、回生を行わずにコースティングを使った方が燃費効率が向上する」という。
それならアクセル/ブレーキペダルを頻繁に踏み換える街中以外では、積極的にコースティングを使うと良いのではないか?
電気自動車ならブレーキペダルと回生の協調制御が行われ、ブレーキペダルを踏んでも、実際にはディスクブレーキを作動させずに回生量を増やして減速することが多い。
常にプラスモードで走れば、コースティングと、ブレーキ操作による回生充電のメリットを両方とも十分に発揮させられる。この点も開発者に尋ねると「私もそう思う」と返答された。
■パドルシフトの採用でより多彩なドライブモードに対応
このようにソルテラは、パドルシフトの採用で、エコドライブの方法を広げた。その点でbZ4Xは、Dレンジと、アクセルペダルを戻した時に即座に強めの回生を開始する回生ブーストモードの2種類しか選べない。
開発者は「トヨタさんもパドルシフトを採用しないのか、数回にわたり確認を取ったが、結局は装着しなかった」と語った。
そこで路面状態がデリケートな雪道を試乗すると、パドルシフトは使い勝手が良い。下り坂の度合いやカーブの曲がり具合に合わせて、減速の仕方と回生による充電状態を細かく調節できるからだ。
bZ4Xと同じく、アクセルペダルを戻すと同時に速度を下げる回生ブーストモードも装着され「ワンペダル運転」も行える。これも試したが、アクセルペダルを戻した時の減速度を選べるパドルシフトはメリットが大きい。bZ4Xに対するソルテラの優位性を感じた。
動力性能はbZ4Xと同様に力強い。モーターの特性として、アクセルペダルを踏み増すと、駆動力を即座に高める。感覚的には3.5~4Lのガソリンエンジンに匹敵する性能だ。モーター駆動だから、加速は滑らかでノイズもきわめて小さい。
ソルテラは駆動用リチウムイオン電池を前後輪の間に位置する床下に搭載したから、重心が低く、雪道における走行安定性も優れている。
4WDの車両重量は2トンを超えるが、カーブを曲がる時もボディの重さを意識させない。安定性を乱すムダな動きが生じにくく、操舵角に応じて正確に曲がる。旋回軌跡を拡大させにくく、ステアリングホイールを若干切り込みながらアクセルペダルを踏み増すと、車両を内側へ向けやすい。
この運転しやすさの背景には、進化した4輪制御技術がある。アクセルペダルを踏みながらカーブを曲がる時でも、必要に応じてブレーキを自動的に作動させ、ステアリング操作に忠実に曲がるように制御する。
特に電気自動車では、4輪制御技術の効果が一層高まる。モーターはエンジンに比べて、駆動力の増減を機敏に行えるからだ。これらの相乗効果により、ソルテラの4WDは車両重量が2トンを超えるのに、1400kg前後に軽量化したような運転感覚を味わえた。
■Xモードで悪路走破力をテスト!
悪路走破力を高めるXモードも試した。スノー/ダートモードでは4輪が滑りにくく、安定して走行できる。ディープスノー/マッドモードは、抵抗の大きな深雪や泥道を走るためのモードだから、ホイールの空転をある程度は許容する。雪を跳ね飛ばしながら、迫力の伴う走りを行えた。
このほかグリップコントロールも採用した。滑りやすい下り坂やデコボコの激しい悪路をゆっくりと安定して走破するための機能で、モーターの駆動力と4輪独立ブレーキ制御が自動的に行われる。ペダル操作はすべて車両に任せて、ステアリング操作に集中できることもメリットだ。
今回のテストコースには、大きなデコボコが用意され、後輪が大きく浮き上がる場面があった。ここにグリップコントロールを作動させて進入すると、ペダル操作をしなくても、モーターとブレーキが最適に制御される。
空転するホイールには自動的にブレーキが作動して、駆動力の伝達ロスも抑えられ、スムーズに走破できた。
なお乗り心地は、雪上のデコボコを乗り越えた時など、少し硬さを意識させた。bZ4Xは舗装路上の試乗だったから直接比較はできないが、ソルテラの方が硬く感じられた。
開発者は「ソルテラのショックアブソーバーは、走行安定性を向上させるため、bZ4Xに比べると縮み側の減衰力を少し高く設定した」という。
居住空間の広さなどはbZ4Xと同じで、前後席ともに広い。床下に駆動用リチウムイオン電池を搭載したから、床と座面の間隔は少ないが、前後席に座る乗員同士の間隔は1000mmと長い。
そのために身長170cmの大人4名が乗車すると、後席に座る乗員の膝先には握りコブシ3つ分の余裕ができる。SUVでは足元空間が比較的広いフォレスターでも握りコブシ2つ半だから、3つ分のソルテラは広々としている。床と座面の間隔が不足して、足を前方に伸ばす座り方になっても窮屈には感じない。
ただし後席の形状により、座面が短く感じられるから、購入時には座り心地を確認したい。
またボディの基本スタイルはbZ4Xと同じだから、スバル車としては、サイドウインドーの下端が高めでボディ後端のピラー(柱)も太い。この影響で斜め後方の視界が良くないから、スバル車のユーザーが購入する時は、縦列駐車や車庫入れを試したい。
それにしてもソルテラは、bZ4Xと基本部分を共通化しながら、スバルらしさを盛り込んで機能をさらに向上させた。リーフやbZ4Xと併せて、電気自動車の主力商品になるだろう。
【画像ギャラリー】スバルらしさがタップリ!! 4WDのスバルが自信を持って送り出す新型BEV ソルテラを試す!!(25枚)画像ギャラリー投稿 これはダイナミック! スバル4WDの走りは電気自動車でも健在!! 新型ソルテラを雪上で試す!! は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。