かつてはそれぞれが独立した存在だった自動車メーカー。現在では多くのメーカーが提携を行い、場合によっては買収されて別のメーカー傘下となったというケースもある。エンジンやプラットフォームの共通化によるコストダウン、流通の効率化など、メリットの多いグループ化だが、あるメーカーがどのグループに属しているのがわからないこともあり、さらに意外なグループの傘下となっていて驚かされるブランドもある。
このシリーズではそうした「自動車メーカーグループ」に注目し、紹介していくことにしたい。そんな連載第5弾は、かつて世界最高の生産台数を誇ったアメリカのゼネラルモーターズ(GM)が持つブランドと、提携する中国のメーカーを紹介する。
文/長谷川 敦、写真/ゼネラルモーターズ、FavCars.com
【画像ギャラリー】ゼネラルモーターズとチャイナブランドのタッグは前途洋々か!?(16枚)画像ギャラリー誕生直後からグループ化を進めたゼネラルモーターズ
アメリカのゼネラルモーターズが誕生したのは1908年。すでに存在していた自動車メーカー・ビュイック・モーターの社長を務めていたウィリアム・C・デュラントが創立したメーカーだが、その年にはオールズモビルを買収し、さらにはキャデラックやオークランド(後にポンティアックに変更)も傘下に収め、早くも一大自動車メーカーグループを形成する。
1911年には現在も続くシボレーが創業されたが、そのシボレーも1918年にGMの一部になった。こうしたグループ化は、当時T型の大ヒットで巨大企業に成長していたフォードに対抗するという理由もあった。フォードが販売車種を絞っていたのに対して複数のブランドを有するGMは幅広い顧客にアピールし、ついにフォードを追い抜いてアメリカ最大、つまり世界最大の自動車会社になった。
その後もイギリスのボクスホールやドイツのオペル、オーストラリアのホールデンなどの買収を進めた。さらには航空産業など、自動車メーカー以外にもグループ化を広げていき、第二次世界大戦後にはアメリカ最大の会社へと上り詰めている。
77年間守った世界一位の座、しかしその栄光の日々は……
GMが自動車の販売台数で世界1位に躍り出たのは1931年のこと。それまで王座にあったフォードを追い落とすと、以降は常にトップを走り続けた。特に1950~60年代にかけてがGMの絶頂期であり、高級路線のキャデラックを筆頭に、スポーティなシボレー、マッスルカーのポンティアックなど、多彩なラインナップがアメリカだけでなく世界中で人気を集めた。
1970年代に入ると、中東の産油国が原油価格を引き上げたことによりガソリン価格も高騰。オイルショックと呼ばれるこの現象は、大排気量でガソリンを大量に消費する“アメ車”にとって不利となり、GMもエコノミーカーへのシフトを余儀なくされた。だが、この時点においても世界販売台数1位の地位は保持していた。
1990年代もアメリカ国内は好景気で、GMの販売台数も堅調だった。しかし、21世紀になると状況はGMにとって逆風に転じてしまう。2001年に発生した同時多発テロ事件や、消費者のニーズに応えられるような小型車開発の停滞、そして日本ではリーマンショックと呼ばれる金融危機もあってGM車の売り上げは大きく低下し、2008年の総販売台数はついに首位から陥落。77年間も続いたGM王朝は終わりを迎えた。
王座を明け渡したGMの業績は悪化の一途をたどり、2009年には経営破綻へと追い込まれてしまった。この時の負債総額は日本円にしてなんと16兆4000億円。アメリカを代表する企業の危機を救うため、アメリカ政府がGMの株式を取得して再建を目指すことになった。
中国メーカーとのジョイントで新たな市場に活路を見出す?
体制変更を行ったGMは、ハマーブランドの廃止やサーブの売却をはじめとする改革を実施して、なんとか状況を立て直すことに成功。アメリカ政府が所有していた株も2013年には売却され、独立した企業へと回帰した。それからのGMは中国市場への注力を強めることになる。
話はさかのぼること1997年、GMは中国の自動車会社・上海汽車集団と50%ずつの出資で合弁会社の上汽通用汽車(上海GM)を設立し、中国本土でシボレーやキャデラックブランド、ビュイック車の生産・販売をスタートさせた。この上海GMは中国におけるGMの中核企業であったが、2009年のGM経営破綻の際に1%の株式を上海汽車集団に売却。後に再び50%ずつの折半出資へと戻している。
そして2002年、今度はGMと上海汽車集団、五菱集団(現在は広西汽車集団)の3メーカーによって上汽通用五菱汽車が設立された。こちらは五菱(ウーリン)、宝駿(バオジュン)ブランドで自動車の製造販売を行うメーカーであり、前出の上汽通用汽車とは異なるもの。
経済成長を続ける中国は自動車メーカーにとって魅力的な市場であり、GMがかつての隆盛を取り戻すためには重要なエリアになるのは言うまでもない。さらに深刻な大気汚染に悩む中国はEV(電気自動車)導入にも積極的で、以前ほどの勢いはないにせよ、長い歴史で培われた技術を持つGMとの協業はメリットも大きい。
EV開発はGMグループの未来に光をもたらすか?
2021年9月、上汽通用五菱汽車は自動車向け半導体の開発を行っていることを公表した。この頃にはすでに世界各国で半導体不足が深刻な問題になっており、自社製EVへの投入も視野に入れたものと推察される。
五菱&宝駿ブランドではEV車もラインナップされているが、今後はアメリカのGMでもEVの比重が高まるのは必須。もちろんEVでなくても現在のクルマに半導体は欠かせないものであり、グループ会社から調達できるのであれば大きなメリットになる。
GMは、2020年4月に日本のホンダとBEV(バッテリー式電気自動車)の供給契約を結んでいる。そして2021年にはこの関係がさらに強化されることも発表となった。両社から販売されるEVは、プラットフォームをはじめ多くの部品が共通化されることになるという。現時点でホンダはどの自動車メーカーグループにも属していない独立した存在のため、GM側としても組みやすい相手なのは間違いない。
2022年春の時点でGMが所有するブランドは、乗用車のキャデラックとシボレー、ビュイックに大型車を販売するGMCを加えた4つ。そして中国では合弁会社で五菱&宝駿に大型車の解放(ジェファン)を販売している。
以前はこれよりもずっと多くのブランドを所有し、世界トップに君臨していたGMグループ。2021年には北米での販売台数もトヨタに抜かれるという状況に甘んじているが、アメリカに並ぶ大国である中国メーカーとの提携でどのような巻き返しを見せてくれるか、注目していきたい。
【画像ギャラリー】ゼネラルモーターズとチャイナブランドのタッグは前途洋々か!?(16枚)画像ギャラリー投稿 アメリカの老舗企業は中国で復活!? 「GM・上汽通用五菱汽車ほかグループ」【自動車メーカーのビッグバンを探る】 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。