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ヤリスクロス「強さの源」 激戦コンパクトSUVで王者となった実力とそれでも気になる短所

 2020年、2021年と、2年連続の登録車販売台数トップとなったヤリス。なかでも、クロスオーバーSUVのヤリスクロスの評価が高く、低燃費と高コスパで他社車を圧倒している。

 ヤリスクロスの天下はいつまで続くのか、ヤリスクロスの長所と短所を確認し、王者の実力と人気の源について、分析しよう。

文:吉川賢一
写真:TOYOTA、HONDA、NISSAN

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クルマを道具として見た場合には、現時点の最適解

 ヤリスクロス最大の長所は、やはり「コスパのよさ」だろう。ガソリン仕様が車両価格税込189.6万円(X/2WD)、ハイブリッド仕様でも228.4万円(ハイブリッドX/2WD)と、キックス(X/276万円~)やヴェゼル(e:HEV_X/265万円)といった他メーカーのSUVよりも、1ランク以上も価格が安い。

 ヤリスクロスは、ディスプレイオーディオが標準装備となる。スマホを接続すれば、ナビゲーションとして活用できることから、高価な純正ナビゲーションを買う必要もない。レーダークルーズコントロールやレーントレーシングアシストといった、便利な先進支援機能も標準装備。キックスで同様の装備を用意しようとすると、300万円を超えてくることを考えると、ヤリスクロスのコスパのよさは圧倒的だ。

 低燃費、という点でもヤリスクロスは圧倒的。ハイブリッドはクラス世界トップレベルの低燃費30.8 ㎞/L(X/2WD、WLTCモード)、ガソリン車であっても、19.8km/L(G/2WD、同)と悪くはなく、e-POWERのキックスの21.6km/L(X、同)と変わらないレベル(e-POWERは、第2世代e-POWERが搭載されるノートやノートオーテッククロスオーバー(X/2WD)ならば、28.4km/Lとヤリスクロスに近くなる)。ヴェゼルもe:HEV(X/FF)が25.0km/L、ガソリン車(G/FF)は17.0km/Lと、ヤリスクロスのレベルには及んでいない。

 ヤリスをベースとしたコンパクトで軽い車体に、効率のいいパワートレイン、軽快な走りと極めて優れた低燃費、顧客需要のあるガソリンモデルもきっちり用意し、ガソリンとハイブリッドそれぞれにFFと4WDを設定して日本の降雪地域からの需要にもしっかりと応えるなど、日本国内で使うには、理想的なモデルに仕上がっている。

 欧州車チックなフロントフェイスやリアスタイルもなかなかカッコよい。「コスパ」と「燃費」の2つを極めたヤリスクロスは、クルマを道具として見た場合には、現時点の最適解になっているのだろう。

欧州車チックなフロントフェイスで、コンパクトで軽い車体。効率のいいパワートレインで、軽快な走りと極低燃費。それでいて圧倒的な低価格。これで売れないわけがない

内装はやはり「それなり」

 ヤリスクロスの弱点として、よく指摘されるのが「SUVとしてはクルマが狭い」ことだ。ただ、これはヤリスクロスの特徴でもあるので、弱点とは言いきれない。もっと大きいクルマがほしいならば、カローラクロスを選べばよい(こちらのほうがコスパは優秀)。

 筆者がヤリスクロスの唯一の弱点だと思っているのが、インテリアの質感だ。ヤリスクロスの(高い方から)「Z」 「G」 「X」(最廉価の※X“Bパッケージ”は除く)の各グレードの間には、巧みにヒエラルキーが付けられており、下位グレードになるほど、ダッシュボードのパネルや計器盤、メーターディスプレイのサイズ、シート表皮といった、インテリアの質感が徐々に下がっていく。実際、ヤリスクロスのインテリアの「プラスチック多め」の質感を指摘するユーザーは多い。

 また、全車標準装備とあるディスプレイオーディオも、ベーシックグレードの「HYBRID X」 「X」 「B」は7インチの小さいサイズとなり、「G」以上で8インチ仕様となる。しかも、ガソリンの「X」だとマニュアルエアコンとなり、シートヒーターも無くなる。スピーカーも2個(「G」以上だと6個)だ。

 ディーラーに展示されているモデルは、「Z」や「G」であることが多く、きちんと説明を受け、理解して購入していても、ベーシックグレードでは「こうなるのか」と、後で後悔する可能性もある。

 ヤリスクロスは、最上級の「Z」(ガソリン2WDで202万円)であっても、ヴェゼルやキックス、ノートAUTECHクロスオーバーといったチョイ高SUVの質感には届かない。どちらがいいかはそれぞれの価値観によって違ってくるし、安ければ質感がそれなりとなることは当たり前のことではあるが、ヤリスクロスは「コスパがいい」とはいえ、ライバル車と比較して内装の質感で劣ることは、ヤリスクロスを検討する際に、注意しておきたいポイントだ。

最上級グレード「Z」のインテリア。シートやダッシュパネルの表皮、ドアハンドル周り、エアコン吹き出し口、シフトレバー周りなど、質を上げる工夫が仕込まれている
ベーシックグレード「X」のインテリア。形状は「Z」と同じだが、一面ブラックのプラスチック素材となっており、簡素化されている。上級とベーシックとで大きな差があるように見える

ただ、それも「ヤリスクロスの強さ」の源

 とはいえ、コストダウンをする部分を適切に選んで販売価格を抑え、また、巧みなヒエラルキーでユーザーに選択肢を与えているところは、さすがはトヨタだといわざるを得ない。選択肢を広げることでユーザーの裾野を広げて、多くの人に買ってもらって人気車となることで、さらに多くの人に認知してもらうことができる(そしてさらにユーザーが増える)。

 SUV人気はまだまだ衰えるところを知らず、同クラスにヤリスクロスの脅威となる新モデルが登場する気配もない。ヤリスクロスの快進撃はまだまだ続きそうだ。

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