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なぜ続いてしまったのか? トヨタ系列販売店の不正車検問題の背景を斬る!!

 車検は正式名称を「自動車検査登録制度」という。もちろんご存知の方が大多数だと思うが、法律で義務付けられているものだ。

 安全面を確保するための灯火類やブレーキの確認、そして公害防止のための排ガス検査などが点検項目とされており、初回検査は新車登録から3年目に、2回目以降の継続検査は2年ごとに受けなければならない。

 しかし昨年(2021年)、レクサス高輪を皮切りにトヨタ販売店11社12店舗で不正車検が発覚し、また2021年3月には、ネッツトヨタ愛知プラザ豊橋店が指定整備業務取消・自動車検査員解任の行政処分を受け、翌年2月には同店の副店長1名、検査員9名が書類送検される事態にまで発展してしまった。

 不正車検はなぜ続いたのだろうか。元トヨタ・レクサス営業マンであり、自動車流通ジャーナリストの佐々木亘氏が考える。

文/佐々木 亘、写真/Adobe Stock(トップ画像:lastpresent)

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■指定取消 検査員の解任 従業員の書類送検… なぜ不正車検は続いたか

 昨年(2021年)7月、レクサス高輪で判明した不正車検問題を皮切りに、トヨタ販売店で次々と同様の事象が確認された。

 トヨタによる全国4852拠点の総点検では、11社12店舗で不正車検があったことが公表されている。

 皆さんは、同年3月に不正車検による指定取消、検査員解任などの行政処分を受けている、ネッツトヨタ愛知プラザ豊橋店を覚えているだろうか。

 2021年9月には道路運送車両法違反の疑いで、販売店の家宅捜索が行われ、2022年2月8日には法人と従業員10名が書類送検されている。従業員が送検されるのは、一連の不正車検問題では初めてだ。

2021年7月にレクサス高輪で判明した不正車検問題から次々とトヨタでの同様の事象が見つかり、全国で4852拠点、11社12店舗で不正があった。ネッツトヨタ愛知プラザ豊橋店は2021年3月に行政処分を受けている(画像:xiaosan@Adobe Stock)

 このような不正車検はなぜ続くのだろうか。トヨタは根本的な問題解決に向けて動き出しているのかを、しっかりと考えていきたい。

■「国の仕事を代行しているという意識の欠如」「検査を蔑ろにしなければならない状況」が莫大な不正を生み出した

 ネッツトヨタ愛知プラザ豊橋店で不正車検が行われていたのは、2018年12月から2021年1月までの約2年間、台数は5158台にのぼる。該当期間に行われていた車検台数の全台で不正行為が確認された。

 愛知県警が発表している不正の手口は次のとおりだ。

・4WD車の速度計を検査しない
・前照灯を水で濡らし、一時的に光度を高くする
・運転席に人が乗らない状態で前照灯を検査
・車内の荷物をおろさずに検査
・排ガスの一酸化炭素濃度を測定しない

 法定の点検や検査などを正しく行わず、中部運輸局の職員らに事実と異なる車検証の有効期間を記録させるなどした疑いがもたれている。

 そもそも自動車検査(車検)は、国の仕事である。国の仕事を民間事業所が代わって行うために「指定」という制度があり、自動車検査員という資格が存在するのだ。

 それゆえ、車検業務を行っている時、その店舗は国の代わりをしており、自動車検査員に任命されている整備士(従業員)は、「みなし公務員」として国の仕事を代行していることになる。

 こうした意識はディーラーに就職すると、整備士・営業職問わず一番初めに教えられることだ。筆者のいた店舗では、検査中の検査員に話しかけることは厳禁だった。こうした意識は基本中の基本だ。

 今回の問題は、車検が国の仕事の代行ではなく、販売店にとっての利益商品に成り下がったために起こったのだろう。整備と検査はまったく違う仕事だ。整備で利益を出すことはいいが、検査は公明正大に行われる必要がある。

 基本的な意識の欠如や、検査を蔑ろにする(しなければならない)状況が、莫大な件数の不正を生み出した。この事実を、メーカーおよび販売店の責任者は強く認識するべきだ。

■時間と利益に追われ、現場は不正に手を染めた

不正の理由は「時間」と「売り上げノルマ」だという。ネッツトヨタ愛知は再発防止策を掲げているが、根本の問題である検査の体制や整備士の抱える問題の解決に繋がるとは思えない(画像:buritora@Adobe Stock)

 愛知県警によると、書類送検された10名は、不正車検を行った理由について、「適切な検査方法は時間がかかる。売り上げのノルマがあった」「車検に要する時間を短縮し客を待たせないため」と話しているという。車検が利益のためにあり、正しく機能していなかったことがよくわかる。

 ネッツトヨタ愛知が発表した文書には、課題として「現場の実態の認識不足」が挙げられているが、実状を理解したところで、車検の作業時間を切り詰め利益を高めるという素地が変わらなければ、また同じ過ちを繰り返すだろう。

 再発防止策を見ても、「良質なコミュニケーション、風土づくり」「コンプライアンス意識の醸成」「正しい業務オペレーションの実践」「職場環境・処遇の改善」と綺麗な言葉が並んでいるが、検査の体制や整備士の抱える問題を、どう解決するのかについては、まるで見えてこない。

 なぜ、国家資格を保有する誇り高き自動車整備士が、公正をつかさどる自動車検査員が、このような不正を働かなければならなかったのか。

 時間を迫られ利益に追われ、正しいと思う仕事ができなくなった整備士の状況を、本気で理解し問題解決をしていかなければならないと思う。

 問題発生から今まで、真摯に考えようとする姿勢が、メーカーや販売店の上層部からは感じられない。

 従業員10名(副店長1名、検査員9名)が書類送検されたという事実を、メーカーや販売店は、もっと重く感じるべきだ。現場に責任を押し付け、代表者や責任者は何のお咎めもなくていいのだろうか。

 今回の書類送検が、一連の問題に対して、単なるトカゲのしっぽ切りにならないことを祈るばかりである。

■クルマの保有台数増・電子化… 現状に合致した車検の改良・変更を

電子化が進んだことで車検にはより多くの時間が必要になった。ユーザーや販売店、そして日本の自動車産業全体のためにも、トヨタがメーカーとして何をすべきか、今一度考えて欲しい(画像:Kumi@Adobe Stock)

 今では当たり前のサービスになっている短時間車検だが、このサービスを先陣を切って始め、広げたのはトヨタ自身だ。

「スーパークイック(SQ)車検」と呼ばれ、預かり作業の車検を待ち作業にするという画期的な仕組みは、他メーカーや車検専門店などに広く普及することとなる。

 トヨタだけの付加価値であった短時間車検が一般化されたことで、短時間車検でも競争が激化した。

 価格を下げて作業時間を削り、効率化という名の薄利多売を現場に強いた結果、莫大な負荷がかかり、今回のような不正が常態化したのだと思う。

 SQ車検が生まれた当時と比較して、クルマの保有台数は増え、整備・検査台数も増えている。クルマは高度に電子化されており、整備・検査に時間がかかることもあるだろう。開発当時と同じような手順で、SQ車検を行える状況と言えるかは甚だ疑問だ。

 こうした疑問を販売店はもちろん、メーカーにも持ってもらわなければ、不正車検はまた必ず起こる。販売店の自浄にまかせることなく、メーカーが主導的に考える必要があることを、トヨタはもっと強く認識したほうがいい。

 車検の新時代を切り開いたSQ車検でも、今の時代と状況に合わせて、常にブラッシュアップを続けなければ意味がないだろう。

 メーカーは、生み出したクルマを、何十年も改良せず、そのまま生産し続けるだろうか。適時改良し、大幅な変更をしながら高い商品力を維持しているはずだ。

 こうした作業が必要なのはクルマだけではない、サービス(整備・検査)に関しても、改良・変更が必要である。

 何十年も前から燻り続けてきた問題が、整備士の書類送検という最悪の結果を生み出した。

 大切なユーザー、販売店、従業員、そして日本の自動車産業全体のために、トヨタがメーカーとして何をすべきか、今一度考えて欲しい。

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