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 高速道路を利用するユーザーにとって、最近よく耳にするのがETC2.0という言葉。ETC2.0はETCの進化版であるというが、実際に何がどう進化しているのか知らないユーザーが大半だろう。

 実際にカー用品店で見てみると、従来のETC車載器とETC2.0車載器では1万円近い価格差がある。

 ETC2.0にはどのユーザーにどのようなメリットがあるのか? ETC2.0車載器に買い替える必要はあるのか? 高速道路事情に詳しい専門家が解説する。

文/清水草一、写真/AdobeStock(メイン写真:Paylessimages@AdobeStock)

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■圏央道を頻繁に使うユーザーにはメリットはあるが……

 ETCには2種類あるのをご存じだろうか。通常のETCと、その進化版のETC2.0だ。進化版というからには進化しているはずだが、具体的にはどんなメリットがあるのか。

(その1)圏央道の通行料金が2割引きになる→圏央道を頻繁に利用するならメリットあり。

(その2)ETC2.0対応カーナビが装備されていれば、急カーブや滑りやすい路面などの事前注意喚起、地震発生時などの災害時支援情報提供サービスが受けられる→実際にはあまり役に立たない情報が多く、メリットが感じられない。

(その3)同じくETC2.0対応カーナビが装備されていれば、渋滞回避支援が受けられる。ETC2.0を通じて、最大1000km先の道路交通情報が提供されるため、「遠回りだけど到着は早い」といった臨機応変なルート案内が可能→個人的には、一度も役に立ったことがない。グーグルマップやヤフーカーナビなどのスマホ経由の情報のほうが、はるかに正確で役に立つ。

今やスマートフォンのナビアプリから得る情報のほうが正確であることが多い(Paylessimages@AdobeStock)

(その4)全国23カ所の道の駅に立ち寄る場合、3時間以内であれば、高速道路を一度出た際にかかる初乗り料金なしで一時退出、再進入できる→対象になる道の駅が少なすぎるし、初乗り料金は1回165円にすぎず、メリットは非常に限定的。

 そのほか、「SA・PAのITSスポットで受け取れる観光情報」というのもあるが、通信速度が想像を絶するほど遅く、内容も更新されていないので、利用者はかぎりなくゼロに近い。

■ETC2.0のメリットはユーザーではなく国交省?

 とまあ、一般利用者のメリットは非常に小さいETC2.0だが、そのわりに車載器の価格は、通常のETC車載器に比べると1万円ほど高い。この約1万円のモトが取れるのは、圏央道を頻繁に利用するユーザーにかぎられる。

 一方、国交省側にはメリットがある。それは、ETC2.0車載器搭載車から、プライバシー対策がなされたうえで「走行履歴」や「挙動履歴」を取得できることだ。

 国交省によれば、「車両が路側機の下を通過する際に、これらの情報をプローブ情報として収集し、道路交通行政に幅広く活用しています」とのことである。

 メリットといっても、これで国交省にお金が入るわけではないが、データを得られれば、それを使って新たな仕事(=縄張り)を獲得できる。官庁は利益ではなく、縄張りの拡大をひたすら追求するものなのだ。

■メリットは少ないはずなのに、装着率が高い理由は!?

 このように、利用者にメリットが小さいはずのETC2.0だが、利用率は順調に上がっている。2021年9月の時点で、ETC利用率は93.5%。うちETC2.0が占める割合は、27.4%に達している。

 いったいなぜなのか?

 その背景には、一般ユーザーがあまり知らない事情がある。

 実は、ETC2.0を利用しているのは、その多くが中型車以上のトラックだ。ETC2.0の利用割合を見ると、普通車以下は17.6%に過ぎないが、中型車以上は63.4%に達している。

 理由は、ETCコーポレートカードによる大口・多頻度利用の緑ナンバー車(事業用)の場合、ETC2.0で利用すると、割引率が10%上乗せされるという点にある。

ETC2.0を装着することにより割引率が増加するのは、高速道路を頻繁に利用するトラックの事業者にとって非常に大きなメリットとなる(naka@AdobeStock)

 具体的には、1台ごとの1カ月の利用額が、5000~1万円までの部分は10%割引が20%割引に。1万~3万円までの部分は20%割引が30%割引に。3万円を超える部分は、30%割引が40%割引になる。

■トラックばかり普及が進むのにはワケがあった!

 さらに現在は、「自動車運送事業者の労働生産性向上等のための臨時措置」として、国交省が年間80億円ほどの予算を付け、最大割引率を50%に引き上げている。

 ETCコーポレートカードとはいったい何かというと、かつての「別納プレート」のETC版だ。「NEXCO3社が、あらかじめ定める要件を満たされるお客さまに貸与する」とされるETCカードのことで、運送会社や、ETCコーポレートカード協同組合(中小企業の互助組合)などを対象に発行される。車種は中型車以上にかぎらないが、実際にはトラックが多くを占めている。

 高速道路を頻繁に利用するトラックにとって、割引率の10%上乗せは非常に大きい。車載器の1万円程度の価格差などすぐにモトが取れるし、利用頻度によっては、わざわざ通常のETCから2.0に付け替える価値も充分ある。

 ETC2.0のセットアップ数の推移を見ると、2016年のサービス開始直後から、中型車以上で急増。しばらくは全体の約半数が中型車以上だった。つまりETC2.0は、割引率の割増というアメによって、トラックに集中して普及が進んだのだ。

■ETCコーポレートカードは個人申し込みも可能! しかし……

 このETCコーポレートカード、実は個人でも申し込むことができる。

 例えば、自分で法人を持っていたり、個人事業主であったりすれば、物流とは無関係の事業内容でも、ETCコーポレートカード協同組合に加入できる。そこを通じてETCコーポレートカードを発行してもらえば、最大30%(現在は40%に上乗せ)の大口・多頻度割引をゲットできる。ただし、NEXCOの利用額が月に3万円以上であることが加入の条件になる。

 事業届を出していない純粋な個人の場合は、NEXCOに直接申し込んで、4カ月分の保証金(最低10万円)を預ける必要があるなどハードルが高くなるし、こちらも高速道路のヘビーユーザーでないと、加入の意味はない。

 また、ETC2.0利用による割引率の10%上乗せは、緑ナンバーに限定されているので、個人タクシーでもないかぎり適用されない。

事業用の緑ナンバーを取得していないユーザーにとっては、ETC2.0を装着するメリットは多くない(Paylessimages@AdobeStock)

 微妙に納得がいかない方もいらっしゃるだろうが、基本的には大口・多頻度で高速道路を使う緑ナンバー車への割引の拡大を餌に、国交省はETC2.0の普及と、交通プローブ情報を手に入れたという構図である。

 緑ナンバー車への割引拡充は、物流を通じて全国民に薄く広くメリットがあるので、一概に不公平とも言えない。

 いずれにせよ、一般ユーザーの場合、圏央道を頻繁に利用しない限り、愛車にETC2.0を装着するメリットはほとんどない。

 ネット上には「そろそろETC2.0にしたほうがいい」といった意見もあるが、個人的には、まったくその必要性を感じない。

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