2021年6月、フェラーリが初の量産型PHEVである新型296GTBを公開した。その走りはフェラーリファンが納得し望む方向への「進化」なのか? それとも失望を招く「変節」なのか? 自動車評論家 渡辺敏史氏が試乗に臨んだ。
文/渡辺敏史、写真/フェラーリ
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■ハイチューンの3LV6DOHCにモーターをプラスした296GTB
296GTBは間違いなくフェラーリの新章を象徴する1台だ。ラ・フェラーリ、SF90ストラダーレと続いたフェラーリのパワートレーン電動化への伏線をいよいよ(彼らにとっての)普及価格帯まで広げる、その重要な役割を担っている。
この成功如何では、彼らのビジネスにも大きな影響を及ぼすだろう。それは環境性能面においての話だが。
心臓部であるパワートレーンはフルスクラッチで現状、このクルマのために開発されたもの。
今後の活用や発展性には言及はないが、はっきりと言えるのは車体のリア側への搭載が前提となっているということだ。
そのキャパシティは車名の元ともなっている2992ccで、シリンダー数は6。平たくいえば3LのV6ということになる。
現在の主力たるF8トリブートは3.9LのV8ということで、典型的なダウンサイジング戦略かと思うわけだが、そこにパワーサプライとしてアドオンされるのが小型軽量を特徴とするアキシャルフラックス型モーターだ。
■バンク角120度のV6エンジンは830psを発揮
エンジンと8速DCTとの間に挟み込まれるそれは最高出力167ps/最大トルク315Nmのアウトプットで、135km/hまではモーター単体でも走行が可能となっている。
さらにエンジンとのコンビネーションでは830psとF8トリブートより110psプラスの高出力を発揮すると謳われる。0〜100km/h加速は2.9秒、0〜200km/h加速は7.3秒と、これらの発表値もF8トリブートと同等以上だ。
リッターあたり220ps超と、市販ユニットとしてはトップクラスのハイチューンが施されたV6ユニットのバンク角は120度。これは直6やフラット6と並んで、振動を相殺する完全バランス型の構成で、当然ながら重心もフラット6に次いで低い。
そしてタービンや補機類をバンク間に搭載するホットVレイアウトも余裕をもって対応できる。
そういうメリットがありながら、120度V6が希少な理由は汎用性が低いからだ。より具体的にいえば、前側に搭載しても縦置きでは舵角が確保できない、横置きでは収めにくいなど、解決が難しい課題を多く抱えている。
対すれば、フェラーリのようにリアマウントシャシーで一定の量産規模があるメーカーにとってはトライしやすいレイアウトでもあるわけだ。
■電気のみで最大25kmの走行も可
296GTBはSF90ストラダーレと同様eDrive、つまりBEV走行モードも備えるプラグインハイブリッドという位置づけだ。
ただし、SF90ストラダーレのように前側にはモーターを持たず、エンジンと組み合わせられたモーターをクラッチを介して状況に応じて独立稼働させる。
バッテリーはシート背後とバルクヘッドの間に置かれていて、その容量は7.45kWh。最大25kmのBEV走行が可能となっている。
欧州WLTPモードでの燃費やCO2排出量はF8トリブートの半分と環境性能が劇的に向上しているが、これはPHEVの優遇レートもあってのもの。
チャージは普通充電のみとなるが、電池容量的には家庭用の200Vなら3時間程度で満充電に届くだろうというものだ。
コックピット環境はSF90ストラダーレやローマから採用が始まった最新の電装デザインで構成されており、エンジン始動をはじめとして大半の機能はステアリングスポークのタッチスイッチで操作する仕組みだ。
インターフェース自体は洗練されており、慣れは要するものの操作性は悪くはない。
また、当然ながら静止時はステアリングスイッチなどのバックライトが消えるため、見た目がとてもすっきりしている。
■実用性もしっかり確保
近頃はともあれ顧客側に強力なスポーティネスが期待されがちなフェラーリだが、ストラダーレに関してはGT的な要素もしっかり織り込んできた経緯がある。
ひと昔前まで新型車の登場とともに設えられていた、ラゲッジスペースにきっちり収まるスケドーニのバッグなどはそれを端的に示すものだ。
新しい296GTBもPHEVだから……という言い訳はない。
シートバックには手持ちのカバンなどを置いておけるスペースも確保されており、フロントトランクは機内持ち込みサイズのケースを納めることも可能と、F8トリブートと遜色ない実用性を備えている。
ちなみに純正のフロントリフターも応答が早く、作動音も静かだ。
ドライブモードは、主にシャシー側の電子制御を場面別に切り替える従来の「マネッティーノ」がステアリング右の赤いノブで、パワートレーンのセットアップを切り替えるハイブリッド用の「eマネッティーノ」がステアリング左のタッチパネルで切り替えることができる。
このeマネッティーノをチェッカー印の「クオリファイ」に設定すれば、バッテリーの持ち出しも優先され、830psのフルパワーが放たれる仕組みだ。
クローズドコースでの試乗車は走りのキャラクターをよりトラック側に寄せるオプションの、アセットフィオラノパッケージ装着車だった。
リアスクリーンがレキサン製となり、車体側と併せて約30kgの軽量化を果たしたほか、ダウンフォース性能を改善するフロントバンパーの採用や、サスがトラック向けモノスペックに、タイヤがミシュランパイロットスポーツカップ2Rに変更される。
■公道での柔軟性が高められ、安心感が走りのキャラクターとして加わった
F8トリブートに比べると実重が重い半面、パワーウェイトレシオでは勝るうえに、ホイールベースは50mm短いということで、まずまずトリッキーな性格を想定していたが、さにあらず。
296GTBのパワートレーンは複雑な制御のネガをサーキットスピードでもいっさい窺わせず、急な加減速や紛らわしいスロットルワークにも至って素直に応答してくれる。
アクセルオンで積極的にノーズをインに寄せていく挙動は、eデフを用いるミドシップ・フェラーリに共通するものだが、コーナリング時の据わりのよさは重心の低さを、切り返しなどでの動きのすばやさや正確さはタイトなディメンジョンを反映するなど、総じて296GTBならではの走りのキャラクターとして安心感が加わっていることが伝わってくる。
速さ自体はとんでもないが、その質に3モーター四駆のSF90ストラダーレのような非物理的過激さはない。今日的なミドシップスポーツのフィーリングの延長線上にある。
この完成度の高さは一般道でのマナーにもきちんと現れていて、その一端を示せばともあれ296GTBは乗り心地がいい。
標準仕様であればサスが電子制御可変ダンパーとなり、タイヤもパイロットスポーツ4Sになるなど、公道での柔軟性が高められている。
■しなやかなライドフィール、爽快なサウンド。ファンの期待を裏切らない仕上がり
その甲斐もあってだろう、多少の凹凸をものともしない、しなやかなライドフィールはちょっと今までのフェラーリとは一線を画する質感だ。
モーターのみで走る場面も多いということはロードノイズの類も気になるところだが、こちらもタイヤと車体の両面からよく整理されているようで、煩さは感じない。
この柔軟なフットワークとリニアなコントロール性のおかげで、タイトなワインディングでもそれなりにパワーをかけて積極的に曲がりを愉しむことができた。
と、そこで改めて噛みしめるのがおよそV6離れした爽快なサウンドだ。
1990年代以降は各社のマルチシリンダーエンジンの主力となった。すなわち耳慣れたユニットが、これほど澄んだ高音を聞かせてくれるとはゆめゆめ思わなかった。
もちろん、手練のエキゾーストレイアウトなどの援護射撃があってのことだが、この点ひとつとっても、296GTBはフェラーリファンの期待を裏切らない仕上がりといえる。
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投稿 フェラーリ296GTB海外サーキット試乗で見えた! そのしなやかなライドフィールは「フェラーリ離れ」していることに驚愕!! は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。