ちょっと寄り道。デニムの聖地へ…
翌朝、下津井は快晴だった。前日、到着したのは日暮れ前…どことなくしっとりとした雰囲気だったのに比べ、目に入るのは透明感のあるさわやかな港の風景だ。のんびりと朝食を済ませ、例の吉又商店を覗いてみる。名産の下津井ワカメはもちろん、目の前で水揚げされたさまざまな海産物の干物が小袋に入って200~300円で並ぶ。Y君から送られてくるワカメはひと抱えほどのボリュームだが、ここでは手のひらに乗るほどの小袋に詰められていて、いかにもお土産…という感じが愛らしい。とはいえ、しばらく品定めをしていても、その間にやってきた客は2人。いずれも観光客の風情ではなかったから、近隣からワカメでも買いに来たのだろうか…。いずれにしてもお世辞にも繁盛しているとは言えない(笑)。
さて、当初、この旅は下津井で折り返し、再び神戸に向かうつもりでいた。しかし、数年前に取材で訪ねた広島の呉市の、岡山とはまた違う雰囲気が心に残っていたのである。そこで、福山市に住む友人に連絡してみると、“鞆の浦に行ってみれば?”と言う。聞けば、江戸時代の船着き場などがそのまま残っていて、人気観光地なのだとか。調べてみるとたしかにそのようで、私が世間知らずなだけだった。
下津井からは、山陽自動車道を走って1時間半ほど。90㎞の道のりだ。鞆の浦ツアーは即決となったものの、神戸には夕方に着けばいいので、鞆の浦の滞在時間を計算してもまだ時間に余裕がある。で、またまた、寄り道心が疼き出した(笑)。
思い出したのは、平成レンタカーの取材で訪ねた児島の街。ご存じのとおり、今や世界のファッション関係者が注目するデニムの生産地だ。世界のハイブランドがここのジーンズのクオリティーに注目し、生産を依頼する。取材時はスケジュールが詰まっていて、慌ただしく写真を撮影し、後ろ髪を引かれる思いで後にしたのだった。下津井からは、せいぜい5、6㎞…目と鼻の先で海沿いにぐるりと回ればすぐに着く。そんなわけで、ここでも思い付きのオマケ旅が生まれることになった。
児島には、「ジーンズストリート」と称したデニム業者の集まる一角がある。道を走る路線バスにはデニム地のラッピングが施され、路地裏では頭上の電柱にジーンズがたなびく。公衆トイレさえ、建物ごとデニムの装いだ(笑)。デニム好きな御仁にはたまらない街なのである。
平日ということもあって人影はまばら…あちこち立ち寄っては、店のスタッフと雑談を交わし、試着を楽しむ。店先に反物の端切れが並んでいたり、デニムにあやかった飲食店もあったり…街全体がゆったりした児島タイムに包まれていた。前出の店で見た生デニムの端切れは、1枚でエプロンなら優に2つは作れる大きさだ。それがわずか500円ほどだったので迷うことなく購入 (笑)。気がつけば2時間近くが経っていた。
そんなこんなで児島の楽しいひと時もフィナーレとなり、いよいよ鞆の浦へ…。児島からは瀬戸中央自動車道経由で山陽道へ。福山東インターで降りれば、国道182号線を15㎞ほどである。
【筆者の紹介】
三浦 修
BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。
【ひねもすのたりワゴン生活】
旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。