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石炭がこれまでにないレベルで値上がりする模様だ。石炭先物価格は3日、1トン400ドルの値を付けた。石炭先物価格としては過去最高値で、2020年比較では約4倍、既にエネルギー需給がひっ迫していた昨年末に比べても2倍以上だ。

この急激な石炭価格の値上がりの背景にあるのは、言うまでもなくロシアのウクライナへの軍事侵攻だ。

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国際的な巨大石油資本、いわゆる「スーパーメジャー」の一つである英BPによると、2020年の世界の石炭輸出量の約18%をロシアが占めている。石炭輸出量のロシアの世界シェアは、オーストラリア、インドネシアに次いで3位だ。

現在ロシアは、ウクライナへ軍事侵攻をしたことによって、西側諸国から最強クラスの経済制裁を受けている。2日には、ロシアの特定銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除した。SWIFTから排除された銀行を経由しての貿易の決算が困難になる。

そのため、日本、ヨーロッパ、中国など各国のバイヤーが、ロシア以外の国からの石炭輸入量を増やそうと、輸出国に攻勢をかけている。その動きを受けて、ここ数日、石炭価格が急騰しているのだ。

国内埋蔵の石炭に注目

石炭価格の上昇は、原子力発電所の多くを停止し、発電量の約76%を依存する日本にも当然、大きな影響を与える。日本の火力発電における石炭火力の割合は32%に上る。石炭火力の割合は、液化天然ガス(LNG)の37%の方が高いが、このところLNG価格も上がっている。2月末時点のLNG価格は、2021年12月比で130%だ。

こうした状況を受けて、にわかに注目されているのが、日本国内に埋蔵している石炭だ。日本の石炭は採掘しきったものだと思っている人も多いだろうが、実はまだ3億6000万トンもの可採埋蔵量がある。

軍艦島の通称で知られる長崎の端島炭坑跡(RERE0204/PhotoAC)

日本では、1991年を最後に国内での石炭採掘をほぼ終了し(北海道・釧路で年間20万トン規模で採掘)、全面的に輸入石炭に切り替えているが、それは国内で石炭を採掘するより輸入した方が低コストだからだ。

1991年の国内原料炭の価格は1トン2万2000円~3000円。対して、輸入原料炭の価格1トン8000円前後だった。輸入石炭に価格で太刀打ちできないから、日本の石炭産業は衰退していったわけだ。

しかし、輸入石炭は先物価格で昨年末時点から2倍以上に上がっているのだから、実勢価格もそれに近い値上がりを見せるだろう。2022年末時点の輸入原料炭の実勢価格は1万3000円ほどだったことを考えると、1トン3万円ほどに跳ね上がってしまう可能性は否定できない。

こうなってくると、価格的には反対に国内原料炭が有利になってくる可能性はないだろうか。もちろん、閉鎖している炭鉱を再開するための先行投資も必要だし、これから人材を集める必要もある。もしかしたら、石炭採掘のノウハウすら残っていないかもしれない。

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現実的な解決策は原発再稼働

そうした準備には莫大な費用がかかるため、1991年時の石炭価格よりは高くなるだろうが、それでも長期的な視点で見た時、先物価格で一気に4倍になってしまうような輸入石炭に、国内石炭消費量のすべてを委ねてしまうよりは安心感があるのではないだろうか。

何よりこれから先、いつこうした有事が起きるとも分からない。電気と違って石炭は備蓄できるため、有事の時に備えて政府が買取を約束したっていいわけだ。

とはいえ、このエネルギー危機にあって、即効性がありなおかつ現実的なのは原発再稼働だ。3日、衆院予算委員会でエネルギーの安定供給の面から原発再稼働が必要だとの質疑に、萩生田経済産業相は「原子力発電所の再稼働は重要だ」と述べた。

政府がこれまでより原発再稼働に一歩踏み込んだとも見れる答弁だが、同日夜の記者会見で岸田首相は原発再稼働には触れることなく、「これまで以上の省エネに取り組み、石油やガスの使用を少しでも減らす努力をしていただくことが大切」と述べるにとどめた。岸田首相は、この期に及んで何らの具体策を示さず、ただ国民にさらなる我慢と努力を強いるだけなのだろうか……。