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ロシアの予想外の苦戦、ウクライナの予想外の善戦――。ルトワックの「パラドキシカル・ロジック(逆説的論理)」を使い、ウクライナ情勢を「アクションとリアクション」によって分析する試み。前半では戦前から現在に関する部分を説明した。後半では、戦争後、将来的に「見逃されたリアクション」となりそうなものについて考えてみたい。

Erhoman /iStock

ロシア国民の「恨み」が向かう先

たとえばかなり先になりそうだが「ロシア国民の西側への恨み」というナショナリズムへの影響が挙げられる。西側の報道では、どうしても「ロシア国内には反プーチン派がいる」「反戦を唱えている人もいる」というトピックに注目されがちではあるが、国営メディアの発するプロパガンダを本気で信じているロシア国民は多い。

たとえ今回の戦争の失敗でプーチン大統領が失脚して政権交代したとしても、ウクライナとそれを助けた西側に対する恨みがロシア国民から消滅するとは考えにくい。

「ウクライナ後」の欧州は問題噴出

これは1991年のソ連崩壊を振り返ったプーチン氏が後に「ソ連崩壊は20世紀最大の地政学的大惨事だ」と評した発言からも推測されるように、もし今回、ロシアが失敗しても、その恨みが向かう先はプーチンではなく、アメリカや欧州の側であろうことは容易に想像がつく。

また、このような「リアクション」は、ロシア側だけに起こるようなものではない。たとえば欧州のあるシンクタンクでも指摘されているように(参考:「RUSSIA’S WAR ON UKRAINE: THERE IS WORSE TO COME (FOR THE WEST AS WELL」)、今回の戦争勃発のインパクトが、EU・NATOの間に、大量のウクライナからの難民の扱いや、各国がこれから負担すべき国防費の問題、そして最大の問題としてロシアから輸入している石油やガスなどに代わるエネルギーの代替や価格の高騰の話など、欧州内に実に多くの政治問題を発じさせるのは確実だ。

ロシアによる侵攻後、ウクライナ西部の都市リヴィウに到着した人々(Joel Carillet/iStock)

予測しておくべき「リアクション」

前半でも述べたように、現在、欧米諸国は一時的に結束を強めており、ロシアという眼の前の最大の脅威に対処しなければならないという点での意思統一はできている。これはウクライナ侵攻というロシアのアクションがもたらした「リアクション」だ。

ウクライナ紛争後は利害が錯綜?3月24日、ブリュッセルで開催されたNATO・G7首脳会議で記念撮影に臨む各国首脳(英首相官邸公式flickr)

ところがその「リアクション」も、永遠に続くわけではなく、次の政治問題のタネを有しており、ロシアの軍事的脅威が下がってくると、「その後の問題」が頭をもたげてくるのは必然だ。

もちろんこれらの「見逃されていたリアクション」の例は、今回起こったもののすべてを網羅できているわけではない。さらに大きな影響を及ぼすような「見逃されていたリアクション」は、今後いくつも発見されたり発覚したりするだろう。

「戦争」という複雑な営みを見据える戦略を!

クラウゼウィッツ(ワッハ作:パブリックドメイン)

「戦争」という人間の営みは複雑である。その「戦争」を分析する古典を書いた人物が、プロイセン王国の軍人であるカール・フォン・クラウゼヴィッツ(1780〜1831年)だ。クラウゼヴィッツは『戦争論』という名著の中で、「戦争をまず単純に考えるためにそれを個人間の『決闘』のように捉えよ」と提案したのである。

このクラウゼヴィッツの「戦争を決闘のようにとらえよ」という提案は実に言い得て妙であり、この二者による対立関係が戦争という複雑な現象の中心にあるという事実を指摘したことで『戦争論』は歴史的な古典となった。

そして今回、紹介したルトワックは、このクラウゼヴィッツの提案を受け、さらに自らの体験や戦史を読み込むことで、「パラドキシカル・ロジック」という概念を編み出した。

日本は今回の戦争に直接関わっているわけではない。だが、今後訪れることが確実視されている不安定な国際情勢をしたたかに生き残っていくためには、日本のリーダーたちはこのような「見逃されていたリアクション」や、自らのアクションが引き起こすであろう影響を考慮できるような戦略的な視点を身につけておく必要があるだろう。