もっと詳しく

ウクライナ軍事侵攻をめぐって、国際社会での反プーチンの動きが大きなうねりを起こしている。プーチン大統領は開戦前夜まで反動の動きを封じ込めようと準備していたとされるが、①国際社会の制裁強化②ウクライナ軍の反撃③ロシア国内外の反戦デモ、事前予測の規模を上回り、プーチン政権が対応に追われている可能性がある。

今回の戦争は現地の状況把握にSNSが威力を発揮しており、ウクライナのゼレンスキー大統領も自撮りでメッセージを発信。国内統一を促し、軍の士気を高めた。「スマホが映した戦争」「SNSで見る戦争」がプーチン大統領への大きな怒りを呼び起こし、戦況とロシアを取り巻く状況に大きな影響を与えている。

SNSで広がるハリコフ中心街でのミサイル被弾の動画(ツイッターより)

戦力でロシア軍に大きく劣るウクライナにとって、祖国防衛の大きな力になったのはスマホとSNSだった。

爆音が鳴り響く中で、シェルターに逃げ込み、涙ながらに「死にたくないよぉ」と訴えた少女。ロシア軍の軍用車両が突然、針路を変え対向車を踏みつぶした光景。ウクライナ第2の都市ハリコフで、ロケット弾が住宅街を無差別砲撃した映像。首都キエフで毎晩のように夜空に赤く光る戦闘のリアルな瞬間…

すべてがウクライナの一般市民がスマホで映した動画像ではないが、いま、世界中の人々がツイッターやフェイスブックなどのSNSで刻々と伝えられる現地の戦闘の様子を見聞きしている。そうして、全面攻撃を決断したプーチン大統領に対して、状況を知る人たちは「感情の針が触れ切った状態」(ウクライナ専門家)となり、怒り、悲しみ、やりきれなさを抱いている。

全世界にインターネット網が発達し、グローバル化が一段と進み、誰もがスマホで手軽に動画像を発信できるこの21世紀に、意にそぐわないからといって、武力で1つの国家を封じ込めようとしたらどうなるか?反発はどのように広がっているのか?

今回のSNSで流れるおびただしいウクライナ侵攻情報は、如実にその結果を表している。

SNSの訴えが祖国防衛の原動力に

プーチン大統領は3月1日の政府内での会合でも「私にとって、(ロシアと敵対する)『西側』はうその帝国」と言った。国営メディアがその発言の様子を流していた。果たして、「帝国」が幅を利かせた時代からもう100年が経ったこの21世紀に、SNSとスマホを使いこなして、自由な言論空間に触れるロシア人がどれだけその意味を理解できているのだろうか?

スマホとSNSはウクライナ政府にとっても大きな「武器」となっている。そして、直近の国内での支持率が91%にはねあがったウクライナのゼレンスキー大統領もフル活用している。

キエフにとどまることを表明するゼレンスキー大統領(フェイスブック)

ゼレンスキー大統領が側近とともに自撮りした映像をフェイスブックで公表したのは開戦2日目の25日の夜だった。力強い口調でこう言った。

我々は全員(キエフ)にいる。我々は独立と国を守るためにここにとどまる

翌26日朝には大統領府の近くでまたもや自撮りし、「私たちはここにいますし、我々は武器を捨てません。われわれは祖国を守ります」と語った。

大統領府近くでの自撮り投稿(ゼレンスキー大統領のツイッターより)

命の危険を顧みず、徹底抗戦をよびかけたこの映像はウクライナ軍の士気を相当に高めた。このフェイスブックでの大統領の言葉が国民の団結を図り、祖国防衛を図る大きな原動力になった。

プーチンの「想定外」を生んだ

ロシアがウクライナ南部のクリミア半島を奪取したのは8年前の2014年。同年にはウクライナ東部のドネツク州、ルガンスク州などを「親ロシア派地域」として支配下におさめ、以来、このウクライナ全土への攻撃を周到に準備してきたとされる。

しかし、侵攻後の国際社会の反動は早く、結束が強く、自ら痛みを伴ってでもやるという断固としたものだった。欧米や日本などの「西側」が、ロシアの主要金融機関を銀行間国際決済ネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除する制裁はプーチン大統領にとって、まだ想定内だったかもしれない。

SWIFT排除からの経済危機でモスクワの銀行前にはATM待ちの行列(写真:AFP/アフロ)

しかし、例えば、永世中立国のスイスや国連決議なしに外国に制裁を発動しないとされるシンガポールまでも包囲網に加わることを、プーチン政権は想定していたのだろうか?

スイスは中立的な立場を保ち、欧州連合(EU)の対露制裁に一歩遅れる形で、スイス国内に保有する資産の凍結の制裁に加わったが、AFP通信によると、ロシア軍の攻撃でウクライナの民間人が多数、犠牲になっていることから、制裁発動を求める声が国内で高まっていたことから、制裁に加わる大きな理由になったという。

シンガポールもバラクリシュナン外相が「『力が正義だ』とのやり方がまかり通ったら(シンガポールのような)小国の存続や安全保障は脅かされる」と強調したという。

いずれもスマホが映した戦争の悲惨な状況を見た国民の世論が政府の政策チェンジを促したはずだ。

今後のカギは情報統制下のロシア

取材をすると、ロシア国内では、日本で伝えられているウクライナ国内の被害状況が全く報じられていない異常な状態にあることが浮かび上がっている。それは、「大本営発表」のようにロシア政府が国内のメディアの情報統制を図っているからで、そんな状況下で、ロシア各地で起きている反戦運動の高まりは注目される。

VPNを利用したり、秘匿性の高いSNS「テレグラム」を活用できれば、ウクライナ側の情報を見ることが可能といい、反戦デモに参加する人たちは、ロシアのメディアが決して流さない「一方の事実」を十分に把握している可能性がある。

「スマホが映した戦争」や「SNSで見る戦争」が「ウクライナを守ったSNSやスマホ」、「プーチン政権下のロシアを変えたSNSやスマホ」になるかどうかは、今後の展開次第だ。

ロシアから流れるデモ集会のニュースで、どんな世代、どんな素性の人たちが参加しているのかをつぶさに見ることで、情報統制がかかっているロシア国内の「反戦」から「反プーチン」へと変わる動きを分析できるだろう。