イージス艦が高い防空能力を備えていることについては、前回の記事『「最強の盾」といわれるイージス艦とは、いったいどんな艦艇なのか?』にて紹介した。記事はこちら。
今回は、その高い防空能力を支えるレーダーの進化や、イージス・システムのアップデートについて見ていきたい。また、海上自衛隊の最新イージス艦「まや型」は、どのくらいの能力を備えるのかも解説する。
文・イラスト/坂本 明、写真/海上自衛隊
【画像ギャラリー】最大迎撃高度を約1000km! 最新イージス艦を画像で見る(6枚)画像ギャラリー■イージス・システムの要、フェーズド・アレイ・レーダーとは
イージス艦が高い防空能力を発揮するための「目」となるのが、フェーズド・アレイ・レーダー(PAR)である。いったいどのようなレーダーなのだろうか。
フェーズド・アレイ・レーダーとは、複数のアンテナ素子を規則的に並べてレーダーアンテナを構成し、それぞれの素子が独立してアンテナとして機能したり、まとまって1つのアンテナとして働くことができるようにしたレーダーである。
最大の特徴はアンテナ素子に給電する電力のタイミングを操作することで、それぞれの素子が発射する電波の位相を変化させたり整えたりできることだ。そのためレーダーが発射する電波を直接コントロールして水平・垂直方向のスキャンを行ったり、ビームスポットを作って様々な走査パターンを採ることができる。
この機能により複数の目標を同時追尾したり、海面スレスレに飛翔するミサイルを捕捉・識別することが可能になった。ちなみにこのタイプのフェーズド・アレイ・レーダーをパッシブ式(PESA)という。
また2000年代に入って半導体などの発達によりアンテナ自体が小型化され、アンテナ素子の中に送受信機と位相器を内蔵させて小型アンテナとし、それを1つのアンテナとして機能させたり、個々の小型アンテナに別々のスキャンをさせてより多機能に使えるようにしたのがアクティブ式フェーズド・アレイ・レーダー(AESA)である。
現在のところイージス艦ではアクティブ式フェーズド・アレイ・レーダーを装備した艦はないが、2024年就役予定のアーレイ・バーグ級ミサイル駆逐艦のDDG-125「ジャック・H・ルーカス」(フライトIII、ベースライン10)ではSPY-6(V)アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーを装備することになっている。またこのレーダーを運用するためにイージス・システムも最新のベースライン10が採用される。
ちなみにミニイージス艦ではイギリス海軍の運用する45型ミサイル駆逐艦が、自国で独自に開発したアクティブ式フェーズド・アレイ・レーダーを装備している。また航空自衛隊が運用するF-2戦闘機に搭載されているJ/APG-1レーダーはアクティブ式フェーズド・アレイ・レーダーで、三菱電気が開発し量産機では世界で初めて搭載されたレーダーとなった。
■イージス・システム搭載艦のフライト、ベースラインとは
アメリカ海軍のタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦やアーレイ・バーグ級ミサイル駆逐艦が搭載するイージス・システムは最初に搭載された時よりすでに40年近くが経つ。
たとえばタイコンデロガ級はスプルーアンス級の船体にイージス・システムを搭載した艦で、27隻が建造され、現在も就役しているのは新造時にベースライン2以降のイージス・システムを搭載しミサイル垂直発射システムを装備した艦である。
アーレイ・バーグ級ミサイル駆逐艦はタイコンデロガ級の問題点を解決するために、設計段階からイージス・システムの搭載を考慮して計画・建造された艦である。
艦全体がフェーズド・アレイ・レーダー(SPY-1D)のアンテナの射界を確保することを第一として設計され、イージス・システムも簡易化が図られている。1991年に就役した1番艦USSアーレイ・バーグをかわきりに現在67番艦まで建造されており、原形のフライトI(1~21番艦、DDG-51~DDG-71)、電子戦能力を強化したフライトII(22~28番艦、DDG-72~DDG-78)、ヘリコプター搭載能力を持つフライトIIA(29番艦以降、DDG-79以降)がある。
ちなみにアメリカ海軍では、BMD(弾道ミサイル防衛)能力が付与されている艦はフライトIの艦で、多用途性が高いフライトIIAのような艦は空母打撃群などの任務を行っている。
ところでフライトとは何のことだろうか。フライト~という呼び方は船体のバージョンを指す。フライト0~Iは原型、フライトIIは船体の装備などを一部改造したもの、フライトIIAはヘリの搭載・運用能力を付与したものという具合である。
またベースラインとはイージス・システムのバージョン(ハードウエアとソフトウエアの換装や改良の段階)を表すもの。たとえばベースライン1はタイコンデロガ級に搭載された初期のイージス・システム。ベースライン2はミサイル発射方式をVLSに変更、現役最古のシステムだった。2008年度よりイージス近代化改修(AMOD)によりベースライン2搭載艦はベースライン8にバージョンアップされている。
現在、運用されている最も新しいものはベースライン9で、システムを弾道ミサイル防衛用のイージスBMD5.0シリーズと統合して、対空戦闘機能と弾道ミサイル防衛機能を両立したIAMD機能をイージス艦に付与する。
■進化する弾道ミサイル防衛能力
1980年代のソ連の崩壊による第三世界への弾道ミサイルおよびその開発技術の拡散、1991年の湾岸戦争でのスカッドミサイルの大量発射などで戦術弾道ミサイルの脅威が高まり、イージス艦に新たに付与されるようになったのがBMD(弾道ミサイル防衛)機能だ。
イージス艦の弾道ミサイル迎撃機能を示すもの(イージス艦を用いた弾道ミサイル防衛システムの段階)として、イージスBMD~という呼び方がある。これは従来の対空戦闘用のイージス・システム(AWS)の機能と弾道ミサイル防衛用の機能が大きく異なるために区別されている。
イージスBMDでは、ミッドコース段階で探知・追尾して迎撃ミサイルを発射、弾頭を撃墜する。
ミッドコース段階とは、発射された弾道ミサイルが大気圏外に到達後に弾頭を投射、投射された弾頭は最大高度1000~1200kmまで上昇し大気圏に再突入するまでの軌道のこと。極めて短い時間で対処しなければならず、発射するミサイルも確実に弾頭を撃墜できるように極めて高い精度が要求される。
とはいってもBMDを運用するために特別な装置を開発してイージス艦に搭載するというのではなく、イージス・システムにBMD用に開発した特別なプログラムを追加したり、処理能力を速めるために新しいプロセッサーを追加したりして機能を拡張させているのである。
現在、イージスBMDは、BMD3.0シリーズ、BMD4.0シリーズ、BDM5.0シリーズがあり、それぞれ運用できる艦船発射型の弾道弾迎撃ミサイルの能力が異なる。
ちなみに海上自衛隊の「まや型」護衛艦はベースライン9C、BMD5.1で、弾道ミサイル迎撃用にスタンダードミサイルSM-3ブロックIIAの運用が可能になっている。SM-3ブロックIIAはそれまでのミサイルが500km程だった最大迎撃高度を約1000kmまで延長、これにより高い軌道での弾道ミサイルの迎撃が可能となっている。またキネティック弾頭(運動エネルギー弾頭)を搭載しているため迎撃能力が向上している。
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