セラニーズは、デュポンのモビリティー&マテリアルズ(M&M)事業の大半を買収することで合意した。これによってエンジニアリングプラスチックを軸に据えたエンジニアード・マテリアルズ(EM)事業の成長に向けた戦略が新たなステージに入る。
買収額は110億ドル(約1兆2600億円)に及ぶ。買収によりナイロン、ポリエステル、エラストマー、長鎖グレードなどの特殊ナイロン、ポリエステルフィルムなどの製品を手に入れる。こうした製品は「ザイテル」「クラスティン」「ライナイト」「ハイトレル」といった高いブランド力を誇る。
さらに重合からコンパウンドまでの一貫した生産体制を強固にし、市場トップあるいは2位のポジションを持つ製品が大幅に増える。アジア地域における存在感も高まる。ロリ・ライヤーカークCEO(最高経営責任者)はオンライン会見で「グローバルスペシャリティマテリアルカンパニーとしての確固とした地位を築くことができる」と強調しており、セラニーズのEM事業の成長にとって極めて重要なステップになる。
注目したい点の一つはアジア地域における事業である。EM事業を担当しているトーマス・F・ケリー シニアバイスプレジデントはオンライン会見で「M&M事業は中国以外のアジア地域で際だった存在であり、とくに自動車分野では日本と韓国の顧客と強固な関係を築いていることから、今後の成長を支えることになるだろう」と話した。
セラニーズは、2012年にダイセルおよびポリプラスチックスと樹脂事業に関する包括的契約を結んだ。20年にポリプラスチックスの持株を売却し、アジア地域で新たなEM事業の基盤づくりを始めた。1964年にダイセルとの合弁で発足したポリプラスチックスは、セラニーズにとってアジア市場参入の足掛かりになったものの、その後のアジア市場の成長の果実を十分に得ることができない状況をも生んだと思われる。
以降、中国・南京における生産体制の強化や、顧客との協業に基づき新規プロジェクトを立ち上げるビジネスモデルの徹底などに加え、既存事業を強化するための買収を続けた。21年にはエクソンモービルから「サントプレーン」のブランドで知られる熱可塑性エラストマー(TPV)事業を買収している。
ケリー氏は会見で、顧客と新たなプロジェクトを生み出すビジネスモデルを買収後も重視する姿勢を示した。M&M事業の製品群と知見、ブランド力などを存分に生かし、既存事業との相乗効果をいかに引き出すか。注視したい。