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経済メディアで1月下旬、中高年の転職やスキルアップについて特集企画が相次いだ。新年度に向け企業の採用が活発化する動きを視野に入れたと見られるが、資格を取得しても実務経験のないまま年齢を重ねた人が転職する難しさもあることから、ネットでは、こうした記事に異論も少なくない。

relif /iStock

日経電子版は1月24日から「転職のリアル」と題した連載をスタート。コロナ禍でリモートワークが増えるなど、人々の働き方への意識や職場環境が様変わりする中でのキャリアアップの動向を追いかけた。27日に掲載した3回目の記事では、転職年齢の限界とされてきた「35歳」の壁が崩れてきたことを取り上げ、「市場の求める知識やスキルを磨く『リスキリング』の動きも広がる」と指摘する。

また、週刊東洋経済は今週発売号で「40代、50代からの資格・検定取得」を推奨する特集を展開する。年齢の壁を乗り越えて難関の国家資格を取得したケースも紹介。56歳で司法試験に合格した通信社の元カメラマンや、55歳で医学部に編入し、60代から医師として働き始めた元農水官僚へのインタビューを掲載した。

この医師が「100歳現役」の目標を語っているのだが、企画は長寿化時代も見据えた個人のスキルアップを意識したようで、税理士や行政書士など独立・開業も可能な資格のほか、老後の仕事につながるマンション管理士など比較的取得しやすいものや、日商簿記1級、ITパスポート試験などの検定など、それぞれの現状や展望を解説している。

問われる実務経験の有無、転職のプロはどう見る?

長寿化や産業動向の変化に応じたリスキリングは、日本経済の停滞要因の一つにあげられている人材流動化の停滞を打開する前提に必要なのは確かだ。しかし現実的な問題もある。

ツイッターで匿名ながら、2万8千人のフォロワーを擁する、企業経営支援のスペシャリスト、たにやん氏は発売前の段階で、この東洋経済の企画について「40代50代で、資格で一発逆転とか考えてる人がターゲットの特集なんだろうか。実務経験の上に資格加えるならいいけど」と、懐疑的な見方を示す。

このたにやん氏のツイートに、元LINE執行役員の田端信太郎氏も「40-50で実務経験のない資格マニア、キッツいなー」と同調していた。

西見氏

実際、40〜50代で新たに資格を得た人材が転職市場でニーズはあるのだろうか、人材コンサルティングファームで、1500人を超えるビジネスパーソンのキャリアシフトを担当してきた西見勝也氏(株式会社ロングリリーフ代表取締役)は、「採用する企業としてはやはり実務経験を重視するのは事実。たとえば、弁護士資格を得たからただちに経営に大きく影響を及ぼすM&A対応や、リスクを回避するための契約内容を思案するといった業務を即戦力としてお任せするのは現実的ではない」と指摘する。

一方で「企業側がどういう立ち位置でいるかによって、取得する資格が生きてくるかが決まってくる。たとえば、それまでは労務業務の経験がなかったとしても社労士の資格を新たに取得し、人事・総務部にて社会保険関連の手続きや給与計算業務といったオペレーション業務を受けるようなことはリアルに十分ありうる」と西見氏。

また、大事なのは資格を取得するまでの業務経験の内容によってはチャンスもあるようだ。西見氏は「これは転職支援をしてきた経験からの仮説だが」と前置きした上で、「40代まで人事部のマネジメントをしてきた人が45歳で公認会計士を取得し、転職して経理マネージャーとして採用されるケースがあってもおかしくない。つまり、人事部での『マネジメント』として培った視座が、経理部門でも活かせるといった期待を抱いてもらえる可能性はある」との見方を示す。

その上で西見氏は「最終的に自分が本当にやりたいことは何か、それこそ自分が死ぬときに満足した人生を送ったと思えるかどうかから逆算して、中長期のキャリアプランを常々描いておくことが大切」とアドバイスを送る。思い立った時から即行動が大切なようだ。