世の中のクルマには名前がある。もちろん、数字とアルファベットによる型式がそのまま名称になったクルマも多いが、メーカーや開発者の思いが名称に込められたモデルもまた多い。今回はそうした車名、特にその由来についていくつかの例をあげながら紹介していくことにしたい。クルマの名前には、どんな意味があるのだろうか?
文/長谷川 敦、写真/トヨタ、日産、光岡自動車、三菱自動車、メルセデス・ベンツ、ダイハツ、スズキ、Newspress UK、FavCars.com
【画像ギャラリー】名車のネーミングの裏にある意外な事実をもっと知ろう!(18枚)画像ギャラリー日本車なのに、日本語由来の名前は意外に少ない!?
まずは我が国のクルマから見ていくことにしよう。最初にチェックしたいのは、日本語に由来する名称のクルマだが、思い起こしてみるとコレが意外に少ない。例外として光岡自動車のクルマがあり、このメーカー製モデルの多くが日本語名を持っている。では、他のメーカーではどうだろうか?
最近のクルマで真っ先に思い浮かぶのが、トヨタが販売する水素自動車の「ミライ」だ。もちろんこれは「未来」の意味で、水素自動車という未来に向けた技術を採用しているから。車名と内容がほぼ一致するケースと言っていい。
トヨタといえば、「カムリ」も日本語の「冠(かんむり)」に由来するのは有名な話。クラウン(王冠)に次ぐ車格のモデルとして企画された4ドアセダンであることがネーミングの理由。このカムリ、実は北米ではベストセラーになる人気車なのだが、オーナーの何パーセントが車名の由来を知っているのだろうか?
日産の4ドアラグジュアリーカーの「フーガ」もまた、日本語の「風雅」が命名の元になっている。さらにローマ字で「Fuga」と書くと、バッハのフーガでも知られているイタリア語の音楽用語にもなる。つまり日本語とイタリア語の二重の意味があり、海外の人にもわかりやすい。英語では「Fugue(フューグ)」になるが、日本語の発音が近いフーガが採用された。
最後の日本語車名はダジャレから。そのクルマは三菱が展開する軽自動車シリーズの「ek」だ。現行の4代目ではワゴンとクロスの2タイプがラインナップされるekの意味は「いい軽」。つまりデキの良い軽自動車ということだ。2001年に初代モデルが登場したekは、名称どおりの「いい軽」として現在でも多くのユーザーに愛されている。
車名=人名のケースもある?
自動車メーカーの名称には、創業者や関係の深い人物の姓が使われることも多い。日本ならばトヨタ(本来の発音はトヨダ)やホンダ、マツダなどがそうした例で、海外ではフォード、ルノー、ポルシェなどが代表的。ちょっと珍しいのがドイツのメルセデス・ベンツで、このメルセデスは女性名だ。
ベンツは創業者のカール・ベンツに由来し、メルセデス・ベンツを販売するダイムラー社の名称も自動車とそのエンジン開発に功績のあったゴッドリープ・ダイムラーがルーツ。そしてメルセデスは、かつてダイムラー製車両のディーラーを経営していたエミール・イェリネックの愛娘の名前なのだ。
イェリネックは、ダイムラー車を販売するあたって車名に娘の名を加えることを提案し、これを承諾したダイムラーは、以後自社のモデルをメルセデスと呼ぶことになった。
国産車で人名が由来となる名称を持っているのは日産がかつて販売していた4ドアセダンの「セドリック」。これは世界的にも有名なフランスの児童小説「小公子」の主人公の名前だ。初代セドリックの登場は1960年だが、当時の川又克二日産社長が命名したという。
イタリアのフェラーリでは、創業者エンツォ・フェラーリの名を冠した「エンツォ」や、早逝したエンツォの息子、ディーノ・フェラーリの名前を持つ「ディーノ」などが作られている。ディーノに並んで日本国内スーパーカーブームで人気を集めたランボルギーニの「ミウラ」は、スペインの闘牛飼育家ドン・アントニオ・ミウラが元ネタ。ランボルギーニ社には、闘牛に関連した車名を持つのモデルが多数ある。
人ではなく、神様や神話にちなんだ名称を持つクルマは意外に多い。日産の「アトラス」はギリシャ神話に登場する神の名称だし、「シルビア」もまたギリシャ神話の女神が由来。シルビアは女性名としても一般的だが、クルマのほうのシルビアはあくまで女神様の名前だ。
トヨタの「ヤリス」もギリシャ神話で語られる美の女神カリスに由来する。そしてダイハツの軽自動車「トール」は、北欧神話の雷神の名前で、力強さの象徴ともいうべきもの。英語で背が高いことを意味する「トール(Tall)」とのダブルミーニングでもある。
国が違えば意味も変わる。この名前はマズかった?
良かれと思って付けた名前なのに、他の国では別の意味にとられてしまい、最終的に車名変更を余儀なくされた不幸なクルマも少なくない。ラストはこうした残念な名称のクルマを紹介していきたい。
最初はよく知られた話から。2019年に17年ぶりの復活を果たしたトヨタの「スープラ」。この名称はラテン語で「超えて」「上に」という意味を持つものだが、当初日本国内ではセリカのスペシャリティモデルを表す「セリカXX(ダブルエックス)」と呼ばれていた。しかし、北米で「XX」は成人指定映画を意味するものであり、輸出仕様にはスープラの名称が与えられた。そして3代目のA70型からは日本国内でもスープラを採用し、世界的に名称が統一された。
昨年の生産終了まで世界各国で愛され、ダカール・ラリーでも活躍した三菱を代表するSUVの「パジェロ」。だが、スペイン語圏の国ではパジェロではなく「モンテロ」の名称で販売されていた。そもそもパジェロ(Pajero)とは、英語でアルゼンチン南部に生息する野生の猫のこと。どこでも走れるSUVの名称としてふさわしいように思われるが、実はスペイン語になると下品な意味を持ってしまうのだ。それが車名変更の理由。
前出のトヨタ ヤリスも、日本人には馴染みのない音の響きから国内では長らく「ヴィッツ」の車名が用いられていた。ヴィッツはドイツ語の「Witz(才気、機知)」をベースにした造語だが、英語圏の人にはヴィッツの音が別の良くない意味にとらえられる可能性もあったため、輸出仕様がヤリスになった。現在では国内でもヴィッツが廃止され、世界統一でヤリスが用いられている。
最後に、語感に関する話題をもうひとつ。スズキの人気コンパクトカー「スイフト(Swift)」は、英語で「速い」「迅速な」を意味する言葉。スポーティなコンパクトカーにピッタリの名称と思いきや、英語を母国語にする人には奇異な響きに感じることがあるという。
英語圏の人にとって「Swift」という言葉には「ものすごく速い」というイメージがあり、いくらスズキ スイフトがコンパクトカーのなかでは速いモデルといえども、車格的に馴染まないとのこと。スイフトという響きからはスーパーカーやレーシングカーを想像してしまうのだそうだ。
もちろん、英語圏の人であっても言葉への感覚は人それぞれなので、すべての人がそう思うわけではないはず。我々が微妙な漢字のタトゥーなどを見た際に抱く感覚に近いものがあるかもしれない。
メーカーがクルマを世に送り出す時、さまざまな考えや思いを込めて車名が決定される。当然ながら名称がそのクルマのすべてを表すことはないが、やはり名前が重要な要素になるのは事実。多くの人に愛されて、売れるクルマにするための車名選びは、これからも担当者のアタマを悩ませ続けるだろう。
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