3列シートを備えたSUVでもっとも売れているのはマツダCX-8である。ランクルやプラドといった本格派クロカンモデルは存在するものの、デビューから5年以上も経過しているにも関わらずCX-8の直接的なライバルは未だ不在。今やSUVブームの真っ只中なのに一体なぜなのか!?
文:渡辺陽一郎/写真:マツダ・トヨタ・レクサス・三菱
【画像ギャラリー】SUVで一番使いやすい3列目シートはコレ! ランクルよりも広いゾ(7枚)画像ギャラリー大人気のSUV! だが3列シートの使い勝手がイマイチなモデルも
SUVの特徴は、一般的には大径タイヤの装着、余裕のある最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)、これらの相乗効果による悪路走破力の高さだが、車内の広さも挙げられる。SUVのボディの上側は、ワゴンに準じた形状で、室内高にも余裕があるから居住性や積載性も良好だ。つまりSUVは、大径タイヤの装着などによって外観がカッコ良く、車内も広くて実用的なことから人気のカテゴリーになった。
そしてSUVは車内の広さから、3列シートを装着したタイプも用意される。ただしSUVの車内は、ミニバンのような床を平らに仕上げた造りではないため、3列目シートの床面は燃料タンクのために1/2列目よりも高くなっている。そのためにSUVの3列目に座ると、膝が持ち上がって腰が落ち込む窮屈な姿勢になりやすい。多人数の乗車を目的にSUVを買う時は、3列目の居住性を入念に確認する必要があるのだ。
一番使える3列シートは断然CX-8! あのランクルよりも断然オススメ
3列目シートをチェックする時は、まず1列目に座って運転姿勢を調節して、次に運転席の後ろ側の2列目に座る。この時には、2列目のスライド位置を膝先空間が握りコブシ1つ分になるように調節して、さらにその後ろの3列目に座る。
SUVの場合、2列目の膝先空間が握りコブシ1つ分では、その後ろの3列目に座れない車種も中には存在する。このような時は、2列目をさらに前側に寄せて足元空間を狭め、3列目のスペースを広げねばならない。このようなSUVでは、大人の多人数乗車は窮屈だ。
そこで国産SUVの3列目シートを比べると、最も快適な車種はCX-8だ。身長170cmの大人6名が乗車して、2列目に座る乗員の膝先空間を握りコブシ1つ分に調節すると、3列目に座る乗員の膝先には握りコブシ2つ分の余裕ができた。しかも3列目に座った乗員の足が、2列目の下に収まりやすいから、居住性をさらに向上させている。3列目にこれだけの広さがあれば、片道1時間半程度の距離なら、大人の多人数乗車も可能なのだ。
SUVの3列目シートが2番目に快適なのはCR-Vだ。CX-8のように、3列目に座った乗員の足が2列目の下に収まりやすいが、膝先の余裕は乏しい。CX-8と同様の測り方で、3列目に座る乗員の膝先空間は、握りコブシ半分程度に留まる。
このほかランドクルーザーでは、2列目シートにスライド機能が装着されず、3列目の足元空間を拡大できない。床と座面の間隔も足りないから、膝が大きく持ち上がってしまう。アウトランダーも3列目の足元空間が狭いから、SUV同士で比べると、3列目の快適性はCX-8の圧勝だ。
ライバル不在のワケはCX-8の出自にあった
それにしても、なぜCX-8は、3列目のシートがほかのSUVに比べて格段に快適なのか。またCX-8に匹敵する3列目を備えたSUVが登場しない理由は何なのだろうか。
まずCX-8が2017年に発売された背景には、マツダのプレマシーやビアンテといったミニバンの廃止があった。2012年に初代CX-5と現行マツダ6を発売した後のマツダは、魂動デザインとスカイアクティブ技術に基づき、OEM車を除くと運転の楽しいクルマ造りを進めている。
そのために2012年以降のマツダは、重心が高く、ボディ剛性を確保しにくいミニバンや背の高いコンパクトカーを開発しなくなった。そこでミニバンの需要を受け継ぐことも視野に入れ、3列目シートの快適なCX-8が企画されたという背景がある。
CX-8は、一見するとCX-5のロング版に思えるが、実際は海外で売られるCX-9の幅を狭めて開発された。その方がCX-5のボディを伸ばすのに比べると、合理的に開発できるからだ。
そしてCX-8は、ボディの大柄なCX-9をベースに造られたから、全幅は1840mmでも、全長は4900mm、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は2930mmと長い。そのために前述のように3列目が広く、マツダはプレマシーやビアンテからの乗り替え需要を狙ったのだ。
ミニバンの後継だったCX-8は倍以上の価格設定! 販売現場はヴォクシーのOEMを切望も独自路線へ
ところがCX-8は、プレマシーやビアンテのユーザーを受け継ぐことはできなかった。価格が大幅に違ったからだ。プレマシーで売れ筋の20Cスカイアクティブは、価格が200万円少々で、値引き額も多かったから170万円前後で販売されていた。その点でCX-8の価格は、2017年の発売時点では、最も安価なグレードでも319万6800円だ。そうなるとCX-8の価格は、プレマシーの約2倍に達する。ビアンテも売れ筋価格帯は240万円前後で、値引き額を差し引くと約200万円だから、CX-8は100万円以上も高い。
またプレマシー20Cスカイアクティブの全長は4585mm、全幅は1750mmで、最小回転半径は5.3mだ。CX-8は、4900mm・1840mm・5.8mだから、ボディも格段に大きくなってしまう。プレマシーやビアンテに比べて運転しにくいのだ。
これではプレマシーやビアンテの顧客をCX-8に導くことは困難で、マツダの販売店からは「マツダはトヨタと業務提携を結んだのだから(2017年には資本提携に発展している)、ヴォクシーのOEM車を導入して欲しい」という切実な声が聞かれた。結局、マツダはOEM車を含めてミニバンを導入せず、販売店は「プレマシーやビアンテのお客様は、ほかのメーカーのミニバンに乗り替えてしまった」とコメントした。
このようなミニバンユーザーの喪失も影響を与えて、マツダの国内販売は伸び悩む。魂動デザインやスカイアクティブ技術を取り入れる前の2010年は、マツダの国内販売は22万3861台だったが、2021年は15万7261台まで減った。コロナ禍の影響が生じる前の2019年でも、20万3576台だから、プレマシー、ビアンテ、ベリーサなどを扱っていた頃の売れ行きに戻っていないのだ。
マツダがCX-8を設定した背景には、ミニバンや背の高いコンパクトカーを廃止する代わりに、SUVを充実させた事情もある。今のマツダはOEMを除くと9車種を用意するが、その内の5車種がSUVだ。マツダのSUVラインナップを象徴する存在としても、最上級のCX-8が必要だったのである。
一方、トヨタ、日産、ホンダ、三菱は、いずれもミニバンを用意する。そのためにマツダと異なり、3列シートのSUVを使ってミニバンの穴を埋める必要はない。従って全長が4900mmに達するSUVは、ランドクルーザー、レクサスRX450hL、レクサスLXなどの一部車種に限られる。これらはいずれも3列目のシートを用意するが、CX-8に比べると足元空間が狭い。CX-8ほど居住性に重点を置いていないからだ。
CX-8はアルファードの対抗馬!? 価格もサイズも超絶近かった
以上のようにCX-8は「ミニバンは廃止するが、3列シート車の需要は継承したい」という、マツダの特殊な事情に基づいて開発。そしてプレマシーやビアンテのユーザーを、価格が約2倍に達するボディの大きなCX-8で継承しようと考えたあたりに、商品開発が市場のニーズに合わないマツダの問題点を見い出せる。
それでもCX-8は、4名乗車時の快適性を追求したいユーザーにはピッタリだ。最上級グレードになるエクスクルーシブモードの6人乗りでは、2列目シートの中央部にもアームレスト付きのコンソールボックスが装着され、シートのベンチレーションや電動調節機能も備わる。ちょっとしたリムジン感覚を味わえるわけだ。
しかもCX-8の2列目は、床と座面の間隔が十分に確保され、頭上の空間はLサイズセダンの後席よりも格段に広い。最近は後席が豪華で快適な車種として、アルファードが注目されているが(アルファードに3~4名で乗車するユーザーも多い)、CX-8のエクスクルーシブモードも快適だ。
CX-8はSUV、アルファードはミニバンだからカテゴリーは異なるが、ユーザーニーズに基づく商品特性は意外に近い。価格もCX-8に2.5Lノーマルエンジンを搭載する25Sエクスクルーシブモードの6人乗りが438万200円(2WD)、アルファードに2.5Lノーマルエンジンを搭載したS・Cパッケージが468万1000円(2WD)だから、機能と価格のバランスで吊り合う。
つまりCX-8は、マツダが狙ったプレマシーやビアンテの後継車種にはなり得なかったが、アルファードには対抗できるわけだ。その意味で、CX-8がミニバンの穴を埋めるSUVという位置付けは、あながち間違っていないことになる。
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