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 昨年、第5戦SUGOでシーズン2基目のエンジンを投入したトヨタ/TRD陣営だったが、そのレースで6基中3基が壊れてしまうというまさかのトラブルを経て、最終戦でランキング4位からau TOM’S GRスープラが逆転タイトルを獲得したGRスープラ陣営。今年の2022年仕様のGRスープラは車体の空力面の改善をテーマに、エンジン側とのマッチングを進めてきた。TRDパワトレ本部の佐々木孝博エンジニアにこのオフの手応えとシーズン開幕に向けて聞いた。

 最終戦の富士で逆転でタイトルを獲得した直後、目に涙を浮かべていた佐々木氏。昨シーズンはエンジン担当の佐々木氏にとって、忘れがたい1年となった。「エンジニアになって、1レースで3基のエンジンを壊してしまったのは初めてでした。チーム、ドライバーに本当に申し訳なかった」と、佐々木氏。SUGOでのトラブルの原因は吸気側に砂利が詰まってしまった車体側の要因によるものだったが、エンジン担当として悔しさはひとしおだった。

 そのSUGOのどん底状態からの逆転チャンピオン獲得はあまりにもドラマチックな展開だったが、昨年の時点から「クルマの実力としてはNSXに負けていた」と佐々木氏は断言する。その負けていた部分が今年の2022年仕様GRスープラの改善点につながる。

「昨年の最終戦の富士でもGRスープラはタイトルを争っていたNSXに対してストレートで5~7km/h速かったのですが、その分、ダウンフォースサーキットの鈴鹿では苦労していたという事実があります。そういった意味では、昨年までのGRスープラは『富士に適すぎていたクルマ』という部分がこの2年はよかったのだと思います」

 GRスープラがデビューした2020年は新型コロナによる影響で、富士で4レースという変則スケジュールとなった。さらにこの2年、最終戦が続けて富士になったことも、富士を得意とするGRスープラにとっては大きな要員となったが、今年の最終戦はモビリティリゾートもてぎ。この2年、最終戦で得られた恩恵はなくなることになる。

「車体側の開発スタッフと話をしまして、最初、スープラはレスダウンフォースの方向でレイク(レーキアングル/車体の前傾姿勢)を付けて、ウイングを立て気味にしてダウンフォースを得るというスタンスでレースで戦っていたのですが、そのスタンスではやはりリヤが不安定になってしまう。もてぎなどは特に厳しい状況でした」

「そこでまた、レイクを付けない方向のクルマにしてシーズンを戦って、最高速という面ではメリットがありましたが、ダウンフォースという面では絶対的に不足している形になってしまって、鈴鹿などではライバルにまったく敵わなかった。こういった部分をケアするためには、少々ドラッグを増やしてもいいからダウンフォースを増やそうと。その方向で開発を取り組んできました」と、今年の開発の方向性を話す佐々木氏。

 今年から自由開発領域となるフリックボックス、ラテラルダクト部にはかなりの数の試作品を投入し、空力方針の転換にむけてダウンフォース増をメインにこのオフの開発を進めた。

「最終的には目標としていたダウンフォースをすべて得られたわけではないですが、最高速の犠牲を少なく、多少は少なくなっていますが、そのなかでダウンフォースを得られたという感触を持っています」と佐々木氏。

 その大きな開発方針の影響から、オフのテストでは他陣営から「GRスープラの直線が速くない。(燃料を)積んでいるな」「三味線を弾いているのだろう」という声が聞こえてきたが、佐々木氏は三味線疑惑を否定する。

「(テストで三味線?)いえいえ(苦笑)、そういう方向性ですので、あれが実力です」

 車体の開発だけでなく、エンジン面でも今年、大きな目標を掲げて開発を進めてきた。

「空力面で最高速が落とされてダウンフォースが増える分、ドラッグが増えてしまうので、そのドラッグ分はエンジンで稼ぐぞということで、ベースの性能を上げるという取り組みを続けてきました」

●GRスープラのエンジン面での大きな燃費改善。ホンダNSXとの『最大4.9パーセントの差』は縮まったのか

 昨シーズンを振り返ると、レースではホンダ陣営がトヨタ陣営より1周早くピットインし、アンダーカットで順位を上げるシーンが大きなポイントとなった。トヨタ陣営からは「あの周回数ではピットインできない」と燃費の差を痛感する声が聞こえたが、今季のGRスープラはエンジン面での燃費向上も大きく達成しているようだ。

「今年は450kmレースが3回あります(昨年は500kmレースが1回で他は300km)。我々はどうしてもアンチラグをライバルより多めに使って走る傾向があるので、燃費をよくするという取り組みを続けてきました。去年の最終戦から2~3パーセントは燃費の面で向上できたのがひとつ、あとは性能の絶対値としては特に夏場とか、オートポリスなど気圧が低くてターボの回転(過給圧)を上げないといけないわけですけど、そういったところでエンジンの性能を出し切れていなかった部分があるので、過給圧を下げた状態でも性能を出せるように取り組んで部品を換えています。すでに効果は出ているので、今年は夏場とオートポリスに開発した成果が出せると思っています」

 もっとも燃費に厳しいもてぎでは、NSXとGRスープラの燃費差は最大4.9パーセントあったという。

「ホンダさんとの差は同等まで詰められていると思っています。もちろん、ホンダさんがどのように運用しているのか、燃費はクルマのセットアップやドライバー側の影響も大きいのですけどね」

 燃費は当然、クルマのセットアップやドライバーの運転の仕方による影響が大きい。特にトヨタ陣営には、LC500時代から続くセットアップの方向性が大きく燃費にも影響していると考えられる。

 GRスープラの前、LC500の時からトヨタ陣営の各チームではレイクを大きく付けるセットアップがトレンドとなっていた。車体前部のダウンフォースをレイクを付けて稼いで回頭性を上げていた一方、ブレーキングではどうしてもリヤが軽くなり、タイヤがロックしやすくなる。そのロックを防ぐためにリヤタイヤを回転させるトルクを出していため、アンチラグ(ターボエンジンでアクセルオフ時にターボラグによってレスポンスの遅れを解消するシステム。減速時でも燃料を使うことになり、燃費が悪くなる。コーナーでマフラーから炸裂音や火が出る現象)の多さと合わせて、どうしても他陣営より燃費が厳しかったという背景がある。

 今年はそのダウンフォース不足とアンチラグの両面に大きく手を加えてきたというわけだ。アンチラグを減少させるために、どのようなアプローチを施してきたのか。

「アンチラグがなくてもレース走行できる開発は制御系と補機類の両方でできると思っています。今後のビックチェンジも考えていますけど、今年の開幕仕様にはそのビックチェンジは含まれていません。試作品でのメドは付いていますので、あとは準備の部分になりますね」と佐々木氏。

 真打ちの登場はシーズン後半の2基目になるようだが、特性を大きく変えた今季のGRスープラがどんなパフォーマンスを見せるのか。

「去年、チャンピオン獲得できたのはいろいろな運があり、実力で完全に獲りきったというよりパッケージとしてはNSXに負けていたという思いで開発しているメンバーは今季に向けて取り組んできました。今年はしっかりと実力でタイトルを獲れるように、クルマの準備としては今の段階ではパーフェクトではないですけど、引き続きチーム、ドライバー含めてTGR一丸でしっかりと戦っていきたいと思っています」と、佐々木氏。

 ライバル陣営の印象についても「Zも直線が速いですよね。富士でも我々よりも全然速かったです。GRスープラと同じような方向性なのかなと思います」と話すように、今季は3車の得意不得意のサーキットが大きく変わる気配も漂っている。

2022年スーパーGT 富士公式テスト
燃費が大きく改善したという2022年仕様のGRスープラ。団結力でシーズンに臨む