3月19〜20日、三重県の鈴鹿サーキットで開催されたENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook第1戦『SUZUKA 5時間耐久レース』。このレースでは、2022年もカーボンニュートラルに向けた挑戦を続ける佐々木雅弘/MORIZO/石浦宏明/小倉康宏組ORC ROOKIE Corolla H2 Conceptがノートラブルで完走を果たし、その進化を見せつけたが、そんなレースの最中、パドックでは別の水素エンジンが動いていた。ヤマハ発動機が持ち込んだ、水素で動く発電機がそれだ。
カーボンニュートラル実現に向けた『意志ある情熱と行動』、そしてスーパー耐久を舞台にモータースポーツの現場でアジャイルに鍛え課題を解決し、『モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり』を進めるために挑戦を続けている、水素エンジン搭載のORC ROOKIE Corolla H2 Concept。水素を燃料とし、既存のエンジンに手を加え登場したマシンだが、2021年の富士SUPER TEC 24時間レースでの登場以来、まさに“アジャイルな”開発が進められ、大きくパフォーマンスを上げている。
そんな水素の利活用については、自らドライバー『MORIZO』としてステアリングを握るトヨタ自動車豊田章男社長が言う『つくる』、『はこぶ』、『つかう』という3つのプロセスについて、仲間たちを増やしながら活動が進められているが、3月19〜20日のスーパー耐久第1戦では、『つかう』面での新たな取り組みがパドックで行われていた。
「インパクトは弱いかと思いますが……」と笑いながら紹介してくれたのは、ヤマハ発動機の技術・研究本部AM開発統括部AM第1技術部の山田健主務。置かれていたのは、ボンベが2本ついた台車と、発電機だ。
この2本のボンベの中に入っているのが水素。台車に備えられた弁で水素の圧力を調整し、ボンベから供給するようになっている。ボンベは空になると運転したまま、片側ずつ交換できるので、最大で7本繋げられ、ボンベから水素を最大出力で出した場合、「今回サーキットに持ち込んだ7本で7時間くらいもちます」という。
その弁から繋げられているのが、汎用エンジンなどを作るヤマハモーターパワープロダクツ株式会社が製作した、本来ガソリンで動く発電機。これを流用し、MIRAIにも搭載されている気体水素用のポートインジェクターで水素を噴き、ヤマハ発動機がもつF.I.(フューエル・インジェクション)の技術を使用した発電機を回している。「それ以外はガソリンの発電機のまま」というものだ。
現段階では市販化は考えられていないものだが、メリットとデメリットがそれぞれある。メリットのひとつめは、コストが安いこと。「燃料電池発電機ですと、価格がこれの10倍くらいはするかもしれません」という。またもうひとつは、ガソリンを使わないため屋内でも使用ができるようになる可能性があるということだ(中毒を起こす一酸化炭素は排出しないが、現状では発電量が高い負荷では窒素酸化物を排出してしまうので、今後は、排出させないチューニングか、後処理が必要)。これはイベント等では大いにメリットがあるかもしれない。
一方、デメリットは出力にもよるが持続時間、またそれにともなう大きさと重さだ。調整弁を備えた台車が30kgほど、ボンベ1本が30kg。今回鈴鹿に持ち込まれていたものは、発電機抜きで90kgある。持続時間と重さは、1年間で改善されてきているとはいえ、ORC ROOKIE Corolla H2 Conceptがもつ課題と共通するのかもしれない。
この水素で動く発電機は、グランドスタント裏にも展示されていたとのことで、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれない。カーボンニュートラル実現に向け、課題はまだまだたくさんあるが、この発電機も『意志ある情熱と行動』のひとつと言えるだろう。山田主務も登場しているTOYOTA GAZOO Racingが公開した『INSIDE GR』のなかでも、水素エンジンの開発の苦労が語られている。あわせてご覧いただきたいところだ。
【INSIDE GR】ORC ROOKIE Corolla H2 conceptを支えた仲間たち エンジン編
https://youtu.be/lzAH54cU44o