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 世界有数の観光都市、京都。数々の鉄道やバスが運行されているが、市内西部には趣深い路面電車が走っている区間がある。京福電気鉄道北野線と嵐山線がそれ。地元では「嵐電」(らんでん)と呼ばれ親しまれている。

 現在放送中のNHK連続テレビ小説、いわゆる“朝ドラ”「カムカムエヴリバディ」でも嵐電が登場しているが、歴史の街であると同時に映画の街でもある京都の人々の移動を支える重要な路線なのだ。嵐電はどんなところを走るのか、また、併用軌道はどのあたりにあるのかなどを取り上げよう。

写真・文/有村拓真

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嵐電とはどんな存在?

 嵐電とは、京福電気鉄道の路面電車のことで、1910年3月25日に開業した。2本ある路線の北野線と嵐山本線を総称して嵐電と呼ばれている。

広隆寺を背に走行するモボ611形616号車。太秦広隆寺駅前は道路が細いが交通量が多く、電車の通過時はヒヤッとする場面も

 四季折々の自然や神社仏閣が多数存在する嵐山を発着し、市内中心部の四条大宮へ向かう嵐山本線。途中の帷子ノ辻で分岐し、全国天満宮の総本社、北野天満宮など歴史情緒漂う北野白梅町までを走る北野線。数々の名所を巡ることのできる路線だ。通常は一両で運行されているが、春と秋の観光シーズンになると国内外からの観光客が多く訪れることから、2両編成で運用されることが多い。

嵐電の路線図。京福電気鉄道のホームページより転載

 沿線には東映京都撮影所、松竹撮影所があり、現在ではなくなってしまったが、大映撮影所、日活撮影所、東宝撮影所など、名だたる撮影所が沿線に存在する映画の街を支えた路線でもあった。

 2007年にはブラッシュアッププロジェクトが行われ、先述した嵐電への総称変更や2002年から先行して始まった嵐山駅の改修工事が2013年に完了し、それまでの雰囲気とは全く異なる華やかな駅舎に生まれ変わった。また、駅名も観光客の増加などから変更が行われ、例えば、太秦は太秦広隆寺に、御室は御室仁和寺にといった具合で観光名所がわかりやすくなって7駅が改称された。

 これとは別に、2020年に駅名を改称した「等持院・立命館大学衣笠キャンパス前」駅が存在するが、こちらは当時、日本一長い駅名として話題になり、記念の硬券も発売されていた。しかしわずか9か月後、日本一長い駅名の称号は富山地方鉄道の路面電車駅の名称変更に伴い、その座を短期間で明け渡すことになった。

朝ドラで登場し話題沸騰の嵐電

 現在放送中のNHKの連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」でも川栄季奈さん演じる大月ひなたが嵐電に乗っているシーンが話題となった。

 京福電鉄の全面協力のもと撮影されたということだが、映像を確認すると、回転焼き大月、つまりひなたの家は北野白梅町付近で、北野線に乗って就職先である映画村に近い(作品中では条映映画村)撮影所前駅で下車するというもの。北野線は撮影所前駅の次、帷子ノ辻駅で嵐山本線に合流する。

 1980年代が舞台なのに、嵐電の車窓を並走する現行プリウスが映っていたり、太秦広隆寺~帷子ノ辻駅間にある右京警察署に駐車している210系クラウンパトカーが2台映っているなど、思わずアレっ? となってしまう場面もあったが、そんなことはご愛嬌である。

太秦広隆寺駅前には車両の進入を防ぐべく、このような表示がされている。帷子ノ辻駅に向かう、奥に見える紫色の電車の右手あたりに210クラウンパトが止まっている右京警察署がある

 ひなたが本郷奏多さん演じる五十嵐文四郎と嵐電に乗って映画を観に行くシーンがあるが、四条大宮駅付近にかつて存在した「大宮東映劇場」ではないかという地元ファンの推測が多数あり、沿線民を沸かせている。「いつも通勤で乗っている嵐電がドラマに登場して嬉しい。」、「学生時代に住んでいた頃を思い出して懐かしい気持ちになった。」など地元から愛されている様子がツイッター上などからわかった。

 ドラマに登場した路面電車は、モボ301形電車の301号車である。嵐電の旧塗装色である緑色とクリーム色のツートンカラーが印象的だ。嵐電は現在、通常の塗装は京紫色のボディーカラーの車両が大半を占めている。ちなみに301号車は、定期運行はされていないが、他の車両の整備などに伴い登場することもあるという。ドラマの影響で京福電鉄への問い合わせが増え、実際にあの車両に乗りたいという声がかなりあるのだという。出会えたらかなりラッキーかもしれない。

嵐電の併用軌道はどのあたり? 一風変わった踏切も

 嵐電も路面電車なので併用軌道の区間があるが、北野線は専用軌道のみである。一方の嵐山線は太秦広隆寺のあたりで70mほど併用軌道となるが、本格的な併用軌道の始点は蚕ノ杜から嵐電天神川の区間である。このあたりになると、軌道敷内通行可の標識も目にすることができる。

 そして少しの間、再び専用軌道を走るが、山ノ内駅の手前に差し掛かると「ここからしばらく、道路上を走ります。急停車することもありますので~」と、併用軌道を走行する注意喚起の自動アナウンスが車内放送される。西大路三条まで併用軌道が続き、そこから先は再び専用軌道となり、西院~四条大宮まで向かう。

電車用の黄色矢印信号は嵐電天神川駅と西大路三条駅付近に存在する。併用軌道区間ならではの光景だ
軌道敷内通行可の標識。京都では普通乗用・特定中乗以外の中乗と指定されている

 西院駅の横を通る踏切は片側2車線で交通量も多いが、なんと遮断棒がないのだ。その代わりに踏切信号が存在し、信号に従って車両や歩行者は横断することになる。そして特筆すべきが列車の通過を信号機とともに知らせる『電鐘式』の踏切警音器だ。2022年の今になっても未だに電子音ではない、ホンモノの鐘の音が鳴る踏切なのである。このような電鐘式の踏切が残っているところは全国でも数が少なく、またここまでの大規模都市でその音を堪能できる場所はそうない。“カンカンカン”と打鐘ならではの音が懐かしい。

 本格的な桜のシーズンを迎える京都。嵐電沿線も桜の名所が多いので、ご旅行の際には嵐電に乗られてあちこち見物されてみてはいかがだろうか。

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