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ロシアによるウクライナ侵略戦争を受けて、米マクドナルドは13日にロシア国内での営業を一時停止。モスクワ市内の店舗の“最終営業日”の様子は日本のメディアでも報じられた。

モスクワのマクドナルド店舗(昨年4月撮影:AlizadaStudios /iStock)

先日も報じたように、ロシアからのグローバル企業撤退の動きは止まらず、ロシア政府は資産凍結などの対抗手段をチラつかさせている。同国安保会議副議長のメドベージェフ前大統領は10日、フェイスブックにロシア語と英語で投稿し、「国外脱出の理由にかかわらず、外国企業は私たちの市場への再参入は容易ではないことを理解する必要がある」と改めてけん制した。

メドベージェフ氏はさらに2014年のクリミア併合に対する経済制裁の時の経験を持ち出し、「食糧安全保障をどうにか確保し、かなりの数の輸入保証問題を解決してきた」と自信を見せたが、同投稿の締めくくりで唯一名指しした企業がマクドナルド。ロシアの権力者側から見て特に意識しているブランドであることには違いない。

全世界の9%シェア、悩ましい判断

マクドナルドのロシアとの関わりは、冷戦末期、ソ連時代の1990年にモスクワに第1号店舗を出したのが始まり。当時の報道によれば、初日だけで3万人が詰め掛ける大人気となり、共産体制下で暮らしてきた人たちが“資本主義の味”を初めて知る象徴的な出来事だった。その後、ロシア国内の店舗数が800を超えるまでになった。

それでも、ロシアとウクライナの店舗数は、全世界のチェーン規模で見れば2%に過ぎないが、マーケットとしては世界全体の約9%を占めるといい、マクドナルド本社としては事業の完全撤退か事業継続か「難しい状況に追い込まれている」(米ブルームバーグ)状態。今回は一時的な店舗閉鎖で、6万2000人の従業員の給与は支払い続ける意向を示したが、事業再開の目処は全く立っていない。

ベラルーシ反体制派のメディア「NEXTA」の公式ツイッターは、閉鎖直前の店舗内を撮影した動画を投稿。従業員たちが声を合わせて歌い踊りながら最後の時を迎える、切ないシーンが紹介された。

国際政治学者で、東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授はツイッターで「マクドナルドが無くても生きてはいけるだろうが、共産主義のモノクロの世界が終わり、豊かな消費文化が始まったシンボルだっただけに、またモノクロの世界に戻っていくような不気味さはあるのだろうな」と言及していた。

プーチンへの反感広がるか

日本国民が、マクドナルドのフライドポテト販売がスモールサイズに一時限定されたことで世界的なサプライチェーンの混乱を体感したと見る人も多かったように、今回のロシア国内の店舗休業は、ロシア人のプーチン政権やウクライナ侵略に対する疑問や反感を広げる契機になるのだろうか。

ロシア政府系の世論調査ではあるものの、11日に発表された政権支持率は77.4%と、今回の侵略前の先月より10ポイント以上も上昇した。フェイスブックやツイッターなど米系SNSはすでに利用が制限され、情報の流通にも支障をきたしており、「マクドナルドが閉鎖してもロシア人の政権批判が盛り上がらない」と冷めた見方を示す評論家もいるが、先述したメディア「NEXTA」は店舗入り口に勝手に鍵をかけて抗議するアーティストの動画を投稿。反プーチンの萌芽が全くないわけではなさそうだ。

ある日本のネット民は、民放の報道番組でマクドナルド店舗閉鎖を巡るロシアの人々の反応に言及。SNSが遮断され、今回のマクドナルドの閉店により、ウクライナ侵攻を知ったという話を引き合いに、ネットが遮断されても現地企業が引き揚げると生活に密着してるから正確な情報として受け入れられるということ。決して無駄じゃない」と述べ、休業に踏み切るまで時間を要したユニクロの姿勢を疑問視していた。

続々と外資が撤退して生活の利便性にも実害が出つつある中、ロシア国民は“目覚める”のだろうか。

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