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コロナ禍の影響で高騰を続けてきた首都圏の住宅価格。現時点では可能性の域を出ないが、最近になって、住宅価格が下落に転じるいくつかの「兆候」が表れ始めている。

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これまでの推移

日本でコロナ禍が始まったのは2020年。3月には初めての緊急事態宣言が発出され、様々な業界で買い控え・消費控えによるデフレ傾向(商品の値下がり)がより一層進むのではと案じられた。

特に、住宅業界では対面販売、対面での商談が一般的であるため、行動制限による売り上げの減少・業績悪化・取引数減少による価格下落が当然に起きると考えられていた。

しかし、結果は真逆だった。第1回目の緊急事態宣言は2020年4月7日から同年の5月25日まで。当然この期間内は取引数が激減し、4月の住宅取引件数(首都圏中古マンション)は、前年同月比でマイナス52.6%という衝撃的な落ち込みを記録した。

だがその後、成約件数は爆発的な回復をみせる。2020年6月の成約件数は3,107件で、4月~5月の成約件数(1,600件台/月)の約2倍となったのだ。それ以降も、巣ごもりによる住宅需要増、史上最低水準の金利などの影響により、現在に至るまで住宅需要は伸び続け、首都圏の住宅価格は高騰を続けている。

今年2月24日に公表された不動産経済研究所の調査によると、2021年の首都圏新築マンションの年間平均価格はついに平成バブル期を超え、1戸あたり6,260万円となった。※1990年の年間平均価格は6123万円

価格下落の「兆候」とは?

これまで値上がりを続けてきた首都圏の住宅価格だが、足元では価格下落のサインが見え始めている。

住宅価格は需給バランスに大きな影響を受ける。需要が供給を上回る場合には価格は上昇傾向となり、逆に供給が過多となれば価格は下落傾向となる。東日本レインズのデータによると、今年1月の首都圏中古マンション成約件数は2,760件で前年比マイナス20.7%の大幅減となった。成約件数が減少している理由のひとつに、在庫数が26か月連続で減少となっているという背景(売買できる物件が少ない)があるのは確かだが、実は中古マンションの在庫数は昨年6月以降、少しずつ増加傾向にあるのだ。

このグラフからも分かるとおり、在庫数は増加傾向にあるものの、1月の成約数は大幅に減少したのである。もちろん、1月度だけのデータだけで今後の価格動向を判断するのは早計だが、実際に昨年の7月以降、12月を除き、前年同月比で成約件数は減少傾向であり、在庫件数は減少割合が縮まってきている。
※青線が在庫数の前年同月比(%)。赤線が成約数の前年同月比(%)

新築マンションは事業主の思惑次第で供給数や定価が変わるが、中古マンションの成約数や成約価格データは、そのほとんどが個人の売買需給の積み上げによるものだ。もし、上記グラフにみられる傾向が今後も続くようなら、どこかで需給バランスが逆転し、価格の調整局面を迎える可能性がある。つまり、価格の下落だ。

新築マンション契約率が58.4%にダウン

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今年1月の首都圏新築マンション初月契約率は、好調とされる70%を大きく割り込み、58.4%となった(不動産経済研究所調べ)。

契約率の大幅ダウンは、まん延防止措置の延長、価格の値上がり(平均価格は前年同月比333万円上昇)、販売在庫数の減少(前年同月比マイナス2,055戸)など、様々な要因が考えられるが、初月契約率が50%台にダウンしたのは、2020年11月以来、13か月ぶりとなる。

既述のように、新築マンションは事業主の思惑次第で供給数や定価が変わる。そのため、単月の契約率だけで価格動向の先行きを占うことはできないが、中古マンション同様、供給数と在庫数が増加し、契約率の低下が続けばおのずとマーケットに影響が及ぶ。

2022年の首都圏新築マンション供給戸数は34,000戸と見込まれている。対前年比で23.5%の増加だ。昨年の状況を見れば、供給されるマンションの分譲価格は今後もバブル期並み若しくはそれ以上と予想される。

バブル期以降、世帯年収が上がっていない状況のなか、マンション価格の高騰にどこまでユーザーニーズが追い付いてくるのか。バブル期超えのマンション価格高騰にばかり目を奪われがちだが、今後の契約率の動向次第では今の値上がり状況の本質が「バブルか否か(適正価格かどうか)」が問われることになるだろう。

東京の人口減少

東京圏への転入超過が思っていたほど順調に回復していないことも、今後のマンション価格動向に影響する可能性がある。

コロナ禍によって、東京圏では転出超過の傾向が続いていたが、昨年6月以降、東京圏からの転出者数は減少傾向となった。だが、東京都は5月以降、8か月連続の転出超過となり、2021年は26年ぶりに人口が減少(マイナス48,592人)となっている。

コロナで東京からの離脱が続く…(画像は2020年5月の緊急事態宣言当時 mina you /iStock)

東京都の人口減少がマンション販売に与える影響は少なくない。今年1月に販売された首都圏新築マンション1,128戸のうち、東京都内の販売戸数は571戸で、首都圏全体の51.5%を占める。

首都圏の新築マンション購入者を対象に行った調査によれば、前住所別に購入した物件の所在地を見たところ、「東京23区の物件」を購入した割合は東京23区の居住者が67%、東京都下の居住者が9.3%で、合計76.3%に上っている。「都下の物件」を購入した割合に至っては、87%以上が都内居住者となっている。

参照;株式会社リクルート住まいカンパニー「2020年首都圏新築マンション契約者動向調査」

この割合は過去5年でほとんど変わっておらず、今後も東京都の人口減少が続けば、都内の新築マンションの販売出口戦略も見直さざるを得ないかもしれない。

価格調整期に入るのは「いつ」か

今回触れた3つの兆候のうち、市場動向をタイムリーに反映するのは中古マンションの成約・在庫状況だろう。先に述べたとおり、中古マンションの成約データは、大半が個人の売買需給の積み上げによるものであり、リアルタイムで市場の動きが反映されたものだ。

東日本レインズのデータによれば、2019年12月、首都圏中古マンションの在庫件数は47,051件、成約㎡単価は54.89万円だった。2021年12月の在庫件数は35,718件、成約㎡単価は64.17万円で、わずか2年で在庫件数が1万件以上減り、1㎡あたりの価格が約10万円も値上がりしたことになる。

今のところ中古マンションの成約価格、在庫価格は上昇基調にあり、在庫数も「過多」とはなっていない。ただ、一時は前年同月比でマイナス27%(2021年5月時点)を超えていた在庫数が、今年1月には前年同月比マイナス1.1%にまで増加してきている。筆者は、この在庫数がプラスに転じる時こそ、価格調整期の始まりになるのではないかと予想している。

もちろん、在庫数の増加が即、価格下落を招くかは不透明だが、在庫数と成約価格の相関関係を踏まえると、在庫数がプラスに転じれば少なくても現在のような短期間での価格高騰が抑制される契機にはなるだろう。